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第三十話 港町セレン

街道の先に青が広がっていた。

風の匂いが変わる。


潮の香りだ。

丘を越えた瞬間、視界が開けた。


大きく広がる海。

そしてその海の海岸に面して街が広がっている。


木造の建物が建ち並び、港には何隻もの船が停泊していた。

帆船、大きな商船。


そして魔力を用いた見慣れない形の船もある。

港は遠目からも活気に満ちていた。


荷を運ぶ人々。

船員の怒声。


飛び回る白い鳥。

悠里(ゆうり)が目を輝かせる。


「海だー!!」


ヘブンズ・ロッジ号を停めドアを開けると、悠里は走り出しそうな勢いで叫んだ。


「海は初めてですか?」


アリアが聞くと、悠里は振り返り答える。


「テレビでしか見たことない!」

「なるほど。」


アリアが微笑ましそうに少し笑った。


「港町セレンですね。とても賑やかな町ですよ。」


丘の下には石造りの門があり、その先に街が続いている。

俺は一度振り返った。


背後の林の奥。

そこにヘブンズ・ロッジ号が停まっている。


木々に囲まれて外からはほとんど見えないし、自慢の認識阻害能力でここに何かがある事さえ認識されない。

悠里が不思議そうな顔をする。


「いつも思うんだけど、なんで置いてくの?」

「嫌でも目立つからね。」


悠里は数秒考えた。

それから頷く。


「…確かに目立つね。」


アリアが静かに言った。


「むしろ目立たないと思う方がおかしいです。」


俺は肩をすくめた。


「便利なんだけどね。」


悠里がロッジ号を見て言う。


「留守番よろしくね。」

《了解》


ロッジ号のフロントガラスに文字が浮かび上がった。


 ◇ ◇ ◇


港町の門は、人の出入りで賑わっていた。

商人、旅人、冒険者。


様々な種族もいる。

獣人の男が荷車を引き、小柄な亜人が魚籠を抱えて走っていく。


悠里がきょろきょろと辺りを見回していた。

その目は好奇心で輝いて見える。


「なんかすごい活気だね。」

「港町だからね。色んな場所から色んな人が来ている。」


門兵がちらりとこちらを見る。

だが特に止められることはなかった。


そのまま街へ入る。

すると入って数メートルもしない間にいい匂いがした。


魚や貝。

魚介類の焼ける匂い。


案の定悠里の足が止まった。

ゆっくり首が動く。


屋台の串焼きに視線が止まっている。

悠里が俺を見た。


「お兄ちゃん。」

「なんだい?」

「あれ食べたい。」


案の定だった。

俺は屋台を見る。


店主は大柄な男性だった。

海の男らしく火に焼けた肌に分厚い筋肉。


その男性が串をひっくり返しながら笑顔で言う。


「おう嬢ちゃん、食いたきゃ一本銅貨三枚だよ。」


悠里が串を指差す。


「これ何ですか?」

「海竜の尻尾。」


悠里が真顔になる。


「嘘だ。」


店主も真顔だ。


「本当だ。」


悠里が俺を見る。


「お兄ちゃん。」

「たぶん魚。」


店主が言う。


「海竜の尻尾って名前なんだ。」


悠里はしばらく串を見ていた。

それから言う。


「じゃあ一本。」


店主が串を渡し、俺が代金を払う。

悠里は一口かじりつく。


数秒の間。

そして。


「おいしい!」


満面の笑みを浮かべた。

その後食べながら歩いていると、視界が急に開けた。


港だ。

広い石の岸壁。


波の音。

停泊する船。


船員達が忙しく動いている。

悠里が木の柵に駆け寄った。


「すごい!」


海を覗き込む。

その時だった。


水面が盛り上がった。

水面に巨大な影が写る。


次の瞬間。

大きな音と共に巨大な何かが海から顔を出した。


丸い頭、大きな口、つぶらな目。


「……。」


悠里が固まる。

それはゆっくりと岸壁に近づいてきた。


港の人達は気にした様子もない。

むしろ慣れている。


いつもの事なのだろう。

悠里が小さく言う。


「…なにあれ?」


近くにいた漁師が笑いながら教えてくれる。


「港の主だよ嬢ちゃん。」

「主?」

「餌をやると寄ってくるぞ。」


悠里の目が輝いた。


「やる!」

「まって下さい!」


まずいと察したアリアが止める前に、悠里はさっきの串をちぎって海へ投げた。

ぽちゃん。


一瞬の静寂。

次の瞬間。


重い轟音と共に上がる巨大な水柱。

海の主が大きな口を開けて跳ねたのだ。


海水が岸壁にいる俺達に降り注ぐ。

俺はとっさに魔力の膜を張る。


海水は目の前で弾けて消えた。

沈黙から数秒後。


悠里が呆けた様子で言った。


「…海、すごいね。」

「そうだね。」


アリアが額を押さえた。

俺はそんな悠里が可愛くて仕方なかった。


「次どこいこっか!」


悠里はすでに次の標的を探して周囲を見回している。

その時だった。


「おーい!道空けろー!」


威勢のいい声が響いた。

振り向くと、荷車がこちらに向かって走ってくる。


山のような魚が積まれていた。

漁師らしい男が必死に押している。


悠里が目を丸くした。


「凄い!大漁だ!」


荷車は港の奥へと入っていく。

その先には建物が並んでいた。


大きな木の看板。

そこには魚の絵が描かれている。


「この先は市場だね。」


俺が言うと悠里の目がさらに輝いた。


「行く!」


案の定だった。

市場の中はさらに賑やかだった。


魚、魚、魚。

大きな台の上に大量の色とりどりな魚が並べられている。


貝や甲殻類も山積みだ。

商人の声が飛び交う。


「今日の海竜鯛は安いぞ!」

「朝獲れのミニクラーケンだ!」


悠里は異世界特有の魚介類に目を輝かせていた。


「すごい…!」


そしてある場所で足が止まった。

巨大な魚。


人の背丈ほどある。

悠里が指を差す。


「この魚はなに?」


近くにいた魚屋の男が笑った。


「おう嬢ちゃんそれが気になるのか?こいつは海竜マグロだ。」


悠里は真剣な顔で魚を見て、それから言った。


「これも海竜?」


男が笑う。


「この港町はだいたい海竜って付くんだよ!」


周囲の商人も笑っていた。

悠里は少し考えてから頷く。


「便利な名前だね。」


その時だった。

魚の尻尾が跳ねる。


突然動いた。

悠里が固まる。 


「まだ生きてる。」


魚屋が慌てて押さえつける。


「活きがいいんだよこいつ!」


再び跳ねて、入れてある桶の水が弾ける。

悠里は驚いた様子で言う。


「港町って水多いね。」


俺は苦笑する。


「海が近いからかもね。」


アリアは静かに言った。


「悠里さんがいると、どこでも何かしらが増える気がします。」


港町の観光は、まだ始まったばかりだ。

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