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第二十五話 魔王なき魔族達

魔王城は静まり返っていた。

人間達との最終決戦後、かつて魔族を束ねた王の気配はもはや残滓すら感じられない。


魔王の座は空席のまま、前魔王の座っていた巨大な玉座だけがかつての威光を主張している。

七体いた幹部は、いまは四体。

三体は――勇者に討たれた。


「…始めろ。」


低く、重い声が円卓の間に響く。

重厚な鎧に身を包み、二足歩行の爬虫類の様な特徴を持った竜人族の幹部の一体。


この場で最も純粋な膂力を持つ存在。

かつて幹部二体と軍を率いて人間軍に突撃し、ただ一体生還した。


その鱗の表面には未だ消えぬ傷跡が残る。


「勇者が再び動き出した、との報だ。」


人型だが青い肌の魔人族の女が口を開く。

全身に刻まれた戦傷が歴戦を物語っている。


「各地で人間どもが不穏な動きを見せている。」

「…遅いですねぇ。」


病的なまでに白い肌を黒いマントで包み、長い牙を生やした吸血鬼族の男が脚を組み薄く笑った。


「勇者が消えた時点で捜索を徹底すべきだったのです。」


竜人族の尾が石床を叩く。


「消えた? 逃げただけだ。」

「逃げた?貴方をあそこまで追い詰めた人間が?」


空気が凍る。

三体。


一体目は単独で勇者に挑み、討たれた。

それを聞き竜人族の幹部は二柱を率いて人間軍へと進撃した。


結果は――壊滅。

勇者は軍の最前線に立ち、


魔力を裂き、鱗を断ち、炎を薙ぎ払った。

共に出た二柱は屍となり、竜人族の幹部だけが重傷を負いながらも生き延びた。


「…あの時の勇者は、ただの人間を遥かに超えていた。」


沈黙していた影人族の幹部が口を開く。

黒衣に覆われた奥から覗く瞳は感情を映さない。


「魔王様も、最後は勇者と一騎打ちだった。」


全員が玉座を見る。

前魔王。


圧倒的な力とカリスマで乱立していた魔族を束ねた傑物。

誰も逆らえなかった。


普通の魔族とは格が違った。

故にそれぞれの族長である幹部達やその部下達を纏め上げられた。


「魔王様は敗れました。」


吸血鬼が静かに言う。

否定する者はいない。


「…勇者を討つ。」


竜種が低く唸る。


「次こそは我が仕留める。」

「復讐かい。」


魔人種が鼻を鳴らす。


「それで勝てるのか?」


竜種の瞳が赤く光る。


「貴様は恐れているのか。」

「恐れぬ者は簡単に死ぬ。」


吸血鬼が淡々と告げる。


「三体はそうだったようです。」


空間が軋む。

魔力がぶつかり、卓に亀裂が走る。


影の幹部が静かに言った。


「勇者は一人。だがあの勇者は戦場を支配し、我々は敗北した。」


竜種の拳が震える。


「…我等は魔族だ。」

「ならば示さないといけませんねぇ。」


吸血鬼が玉座を指す。


「次の王を。」


沈黙。

魔王の死後、玉座は誰も座っていない。


座れば全ての視線と敵意を受ける。


竜人族は純粋な戦闘力は頭一つ抜ける。

だが知略に欠ける。


吸血鬼族は策に長ける。

だが力で劣る。


影人族は全魔王に重用されていた。

だが表立って動く種族ではない。


魔人種は均衡型。

だが決定打に欠けている。


完璧な者はいない。

だからこそ、前魔王は唯一だった。


「新たな魔王を立てるべきでは?」


吸血鬼族の幹部が告げる。


「象徴なき軍は、いずれ崩れます。」

「勇者の首が先だ!」


竜人族の幹部が吠える。


「順が逆ですねぇ。」

「黙れ!」


魔力が衝突し、天井から石片が落ちる。

影人族が淡々と続ける。


「人間は分裂している。今なら攻め落とせる。」

「ならば進軍か。」


魔人族の幹部が笑う。


「勇者が不在のうちに。人間の国を奪ってしまおう。」

「不在、だと?」


影人族の幹部の声が低くなる。


「確認は取れていない。」


再び沈黙。

勇者は消えた。


だが、あの存在が消えるという違和感。

竜人族の幹部が歯を噛み締める。


「…ではどうする。」


魔人族の幹部が両腕を組む。


「両方だね。」


視線が集まる。


「勇者討伐部隊を編成する。」

「同時に、新たな魔王の選定を始める。」


空気が張り詰める。


「王が決まるまでは仮の同盟。」


吸血鬼族の幹部が言う。


「だが、互いの軍は監視すると。」


影人族の幹部が静かに付け加える。


「裏切りは即、粛清。」


竜人族は玉座を睨む。


「勇者は我が討つ。」


誰も譲らない。

誰も信じていない。


だが、やるべきことは決まった。


勇者討伐部隊の編成。

新魔王選定の開始。


玉座はなおも空位のまま。

その空白こそが、いまの魔族の現状だった。


 ◇ ◇ ◇


玉座の間が静まり返る。

3体の幹部はそれぞれの思惑を抱え、無言のまま散っていった。


最後に残っていたのは吸血鬼族の幹部だった。


「…ふふ。」


高い天井に、かすかな笑いが溶ける。

彼は玉座を見上げる。


「空位、ですかぁ。」


赤い瞳が細められる。


「力だけでは王になれず。だが、力なき王もまた不要。」


足音もなく、影が一つ現れる。

眷属だ。


「例の“器”は?」

「順調に育っております。」

「勇者は?」

「消息不明。しかし各国の動きから、復帰または新たな勇者発生の可能性は高いかと。」


吸血鬼族の幹部は口元を歪めた。


「よいですねぇ。勇者が動けば、竜は必ず向かうでしょう。影と魔人は静観を取ろうとする。」


指先が空をなぞる。


「――その隙に、王は生まれる。」


眷属が問う。


「…本当に、あれを?」

「前王ほどの器ではない。しかし、簡単に操れる。」


赤い瞳が妖しく光る。


「――王は、選ばれるものではありません。作るのです。表の王と、裏の支配者。それでこそが理想の形。」


玉座を見つめ、吸血鬼は低く囁く。


「勇者も、新王も私にとってはただの駒ですねぇ。」


その姿は霧となり、闇に溶けた。

玉座だけが残る。


――ほかの幹部は誰も知らない。

すでに王座争いは始まっていることを。

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