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第十四話 王都観光

次の日、俺達兄妹の泊まる宿に朝からレティシアが訪ねて来た。

昨日の甲冑姿ではなく、品のいい衣装に身を包んでいる。


どうしたのかと尋ねてみると、どうやら王都の案内をしてくれるらしい。

断る理由もないので快く了承し、準備をして表に出る。


王都の朝は思っていたよりもずっと賑やかだった。

石畳の大通りには露店が並び、焼き菓子の甘い匂いと香辛料の刺激的な香りが混ざり合って漂っている。

行き交う人々の声、馬車の音、遠くで鳴る鐘。


そのすべてがどこか浮き足立ったような空気を作っていた。


「ここが名物の露店通りです。お金さえ払えば自由に商売が出来ますので、いつも沢山の人と様々なお店で賑わっています。」

「面白い物が沢山ありそうだな。」

「お兄ちゃん見て!あれ!」

 

悠里(ゆうり)が俺の袖を引く。

指差した先には小さなガラス細工の店。


陽光を受けて色とりどりの飾りがきらきらと輝いていた。

 

「可愛いね。」

「そうだね。近くで見てみるかい?」

「うん!」


俺が歩き出すと悠里は当然のように腕に絡みついてくる。

その少し後ろに案内を申し出てくれたレティシアが歩いていた。


背筋を伸ばしたまま、騎士団長としての威厳を保とうとしているが――

その視線は明らかに悠里に釘付けで、じっとその動きを追っていた。

 

(…これはチャンスだ。この機会に何としてでも!)

 

何かを覚悟したかの様に小さく息を吐くレティシア。

案内をしてくれるのではなかったのか?

 

 ◇ ◇ ◇

 

ガラス細工の前で悠里が目を輝かせる。

 

「お兄ちゃん、これ可愛い!」

 

小さな黄色の星型のペンダント。

俺は値段も見ずに店主へ金貨を差し出した。

 

「包まなくていい。そのままで。」

「え、いらないよ?」

「え、多いですよ?」


悠里が慌てるが俺は首を横に振る。

 

「いる。」

 

そのまま首元にかけてやると、悠里は一瞬きょとんとしてから、ぱっと笑顔になった。

 

「ありがとう!」

「…あ、これお釣りです。」

「…あぁ、すまない。」


額を俺の腕に軽くぶつけてくる。

その横でレティシアが呆れたような顔で店主からお釣りを受け取っていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

次に立ち寄ったのは甘味処。

串に刺さった蜂蜜菓子を二人に買って、三人で並んで歩く。

 

悠里が突然、俺の前に差し出してきた。

 

「はい、お兄ちゃん。あーん。」

「ん。ありがとう。」

 

何も考えず口を開ける。

聞こえていたのか、周囲の通行人がちらほらとこちらを見る。


露骨に二度見する人、咳払いする人、妙に生温かい視線を向けてくる人。

悠里は可愛いからな、自然と人の視線を集めてしまうのだろう。

 

(なぜ…なぜ彼は平然としているのだ…。まさかこういうのに結構慣れているのか!?一緒に戦っているときはそんな気配微塵もなかったのに…。)

 

レティシアの表情がコロコロと変わり面白い事になっている。

悠里はそんなこと気にも留めず、笑顔で串を差し出してくる。


「おいしい?」

「うん。おいしいよ。」

 

そう言うと悠里は満足そうに笑った。

 

 

しばらく歩きながらも悠里は相変わらず俺の袖を掴んでいる。

 

「ねえお兄ちゃん。」

「ん?」

「今日も一緒に寝るよね?」


レティシアの足が止まった。

 

「悠里がそうしたいなら俺は構わないよ。」

 

俺は即答。

後ろで団長が小さく咳き込んだ。

 

「…失礼。少し、喉に。」

「大丈夫かい?」

「ああ…。」


大丈夫なら問題ないか。

悠里は安心したように俺の腕に頬を寄せる。


レティシアは空を仰いでいる。

本当に大丈夫だろうか?


(戦場ではあれほど冷徹だった男が…。)

 

 ◇ ◇ ◇

 

露店通りの角で小さな事件が起きた。

背後から近づいてきた気配、おそらくスリが悠里のポケットに手を伸ばしてきた。

 

その瞬間俺は振り返りもせず相手の手首を掴み、そのまま地面に押さえつけた。

深くフードを被り顔は見えない。


「ぐあぁっ!」


一瞬の出来事。

この男すらなにをされたのか分からなかっただろう。

 

周囲がざわつく。

 

「離しやがれ!」

「狙った相手が悪かったな。衛兵に引き渡す。」

 

掴む腕に力を込め、低い声で言うと男は青ざめて大人しくなった。 

悠里がぱっと俺を見る。

 

「すごいね、お兄ちゃん!」

「まあね。これ位は朝飯前だよ。」


男を押さえつけながらレティシアの方に目を向ける。


「お手柄だな(みなと)こいつは最近有名な窃盗犯かもしれない。直ぐに巡回している衛兵を呼ぼう。」

「げっ!騎士団長!」


レティシアの顔をみた男の表情が絶望に染まる。

過去の大戦の英雄は団長としても結構有名なようだ。


すぐにやって来た衛兵に男は連れていかれ、市民から小さな拍手が起きる。

昔の癖でその拍手に手を振って応える。


「さ、行こうか。案内頼むよ」

「ああ、そうだな。次は職人街を案内するとしよう。」


一通り落ち着いたタイミングで次に行く事にする。

どこかご機嫌なレティシアが先を歩いて行った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

私は理由の分からない違和感を覚えていた。


レティシアさんからの視線。

お兄ちゃんを見る目。

 

――なんだか、嫌。

 

言葉にはならない。

ただ、無意識にお兄ちゃんの袖を強く掴んだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

王都観光を楽しみ夕方になった。

城下の広場で一息ついているとレティシアが意を決したように口を開く。

 

「湊。改めて言います。騎士団顧問として――」

「今は妹との旅が最優先なんだ。」

 

食い気味の即答。

悠里は俺の回答になぜか少し誇らしげだ。

 

レティシアは一瞬だけ唇を噛み、それから背筋を正した。

 

「…分かりました。」

 

だが、その瞳には諦めの色は無い様に見えた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

日も暮れて夜。

宿へ戻る石畳の道。


王都の家々から漏れる灯りが柔らかく揺れている。 

悠里は俺の隣を歩き、レティシアは一歩後ろ。

 

俺はただただ、平和だなと思っていた。

戦いもない。


大きな事件もない。

妹が笑って隣に並んでいる。


それが何より嬉しかった。 

だがレティシアはそうではないみたいだ。


申し訳ないがレティシアの誘いに乗る事は出来ない。  

王都の夜は静かだった。

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