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第十二話 旅路の途中で

ヘブンズ・ロッジ号は穏やかな街道を進んでいた。

湖の村を離れて二時間経っているかいないかくらい。


草原は風に揺れ、遠くの丘は陽光に霞んでいる。

助手席で悠里が膝を抱え窓の外を眺めている。


俺の袖を掴んだまま。


「次はどんな所かな?」

「そうだね、詳しくは分からないけどこの先に交易路がある。そこで誰かに聞いてみようか。」

「そうなんだ、じゃあ楽しみかも!」


そんな会話をしていた時、前方に異変が見えた。


砂煙。

倒れた馬車。

助けを求める声。


盗賊に襲われている。

俺はブレーキを踏んだ。


「悠里。」


呼んだだけで何かを察してくれるのはとても助かる。

悠里の指先に力が入る。


「ここで待っててくれるかい?」

「嫌!私も行く!」


察してはくれたが、それとこれとは話が別らしい。


「ダメだ、危険だ。」

「お兄ちゃんがいても?」

「降りてもいい。ただ俺の後ろから離れないようにね。」


悠里は黙って頷いた。


 ◇ ◇ ◇


ヘブンズ・ロッジ号を降りると、こちらに気付いたのか、盗賊の一人がショートソードを構えてこちらを見る。


「何だテメェ等。何処から出てきた?」


ロッジ号から出てきた俺達は、傍から見たら急に現れたように見えるのだろう。

盗賊の男は不思議そうにこちらをまじまじと見る。


「大人しく捕まる気はないかい?」

「はぁ?テメェ馬鹿か?…オイオイ、よく見たら後ろの女は上玉じゃねぇか、寄越せば命だけは助けてやるぜぇ。」


盗賊の下卑た声でそんな事をのたまった。

今こいつなんと言った?


 

盗賊の一人は、商人の男を押さえつけながら舌打ちしていた。

仲間が荷物を漁っている間、商人を抵抗できなくするのがこの男の役割。


殺しはしない。

この程度なら簡単に抑え込めるし、後で換金する方法も知っているからだ。


「ちっ、さっさと荷を――」


その時、背後で何かが変わった。 


振り向いた瞬間、視界に入ったのは黒髪の男。

手を伸ばせば触れられる距離。


ありえないといった表情で固まる盗賊。

盗賊の男は反射的に声を上げようとした。


「な――」


次の瞬間、男の世界が反転する。

背中から地面に叩きつけられ、肺の空気が強制的に吐き出される。


少し離れた所に、見張りを任されていた盗賊の仲間が転がっている。

何が起きたか分からない。


なんとか起き上がろうとして、腕が動かないことに気付いた。

痛みが遅れて押し寄せる。


あまりの痛さに悲鳴すら上がらない。

馬車から男の仲間が顔を出した瞬間に襲われ倒れていく。


あっという間、一瞬の出来事だった。

魔法でも武器でもない。


ただただ、圧倒的な速度と正確無比な攻撃。

――化け物だ。

そう思った時には、男の意識が暗転していた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

ここにいた盗賊は片付けた。

開始から数秒、なんてことはない。


俺は倒れた連中を確認する。

全員生きてはいる。


最初の盗賊だけはトラウマになるレベルでボコボコにしたため、生きてはいても普通の生活には戻れないだろう。

それ以外に必要以上の力は使っていない。


背後で布が擦れる音。

悠里が俺の背中から抱き付いてきた。


「怖くなかったか?」

「ううん。」


小さく首を振る。

どうやら本当に怖くなかったみたいだ。


「なんていうか、凄かった。」


…それならそれでいい。

商人の男が震える足で立ち上がった。


「あ、あの…。」


声が裏返っている。


「大丈夫ですか?」


俺が尋ねると、男は首が取れんばかりに何度も頷いた。


「は、はい! 本当にありがとうございます!」


馬車の方を見る。

どうやら荷は無事らしい。


「怪我は?」

「腕を少し擦った程度です…。それより…。」


商人の男は俺をまじまじと見つめる。


「あ、あなたは一体…。」


俺は何も言わず答えない。

代わりに悠里が口を開いた。


「私のお兄ちゃんです!」


きっぱり。

商人は一瞬固まって、それから苦笑した。


「ええ、そうですね。すごく頼もしいお兄さんだ」


それを聞いて悠里は満足気な表情だ。


「しかしすごいですね、盗賊達を一瞬で。高名な魔法使いか、冒険者の方でしょうか?」

「ただの旅人ですよ。」


俺の言葉に驚いた表情で固まる商人。

商人にしては表情に感情が出過ぎでは?


「そ、それはまたすごいですね…。」


驚き固まる商人。

倒れ伏す複数の盗賊達。


こんな状況でも悠里はいつも通りだった。

俺の腕に自分の腕を絡ませ、くっついてくる。


「すごいね、お兄ちゃん!」

「それなりにはね。」


思考の整理が追いついたのか、商人は深く頭を下げた。


「せめてお礼を!」

「勝手にやったことなので大丈夫です。」


即答する。


「代わりにこの先の詳細を教えてくれればそれでいいです。」


商人は慌てて馬車に戻り、地図を持ってきて広げると、近くの街道宿や水汲みの場所を教えてくれた。


「…本当に、命の恩人です。このご恩忘れません!」


涙ながらに言う商人に向かい、悠里が笑顔で言葉をかける。


「無事でよかったです。」


その仕草に、商人は目を細めた。


「…素敵な妹さんですね。」

「はい。世界で一番の妹です。」


俺は迷わず肯定した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

ロッジ号に戻り再び走り出す。

しばらく沈黙のあと、悠里がぽつりと言った。


「さっきの場所…ちょっと、変だった。」

「凄いな。気づいてたんだ。」


空気が淀んでいた。

そんなにハッキリとしていた訳ではないが、確かに感じた違和感。 


まるで魔族の気配の様な…。

悠里は俺の袖を引く。


「でも、お兄ちゃんがなんとかしてくれるよね。」


ああ、全くその通りだ。

俺は片手で悠里の頭を撫でる。


「悠里に危害を加えようとする奴は全部俺が打ち払うよ。」

「うん。」


短い返事。

悠里は肩に頭を預けてくる。


エンジン音と規則正しい呼吸。

草原の向こうに次の街。


この世界には確かに陰謀や危険が潜んでいる。

だがそれでも。


俺がこの世界に召喚されたあの日。

あれからの悠里との時間が少しでも取り戻せるなら、俺は何でもできる。


改めてそう思った。

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