第一話 魔王を倒した勇者は今日もキャンピングカーで旅をする
二作目の連載になります。
前作で得た経験やコメントの意見を活かしつつ新しい書き方にも挑戦してみました!
楽しんでいただけたら幸いです。
魔王を倒した勇者はめでたく元の世界へ帰って幸せに暮らしました。
おそらく多くの物語はそういった幸せな物語の終わりを迎える。
けれど、少なくとも俺は違った。
異世界に召喚され、剣と魔法を叩き込まれ、仲間と死線を越えようやく魔王を討ち倒したその直後、俺こと天瀬 湊は召喚を手助けした張本人である神様にこう言われた。
「おつかれさま。あ、元の世界には帰れないから。」
「……は?」
思わず聞き返した俺に神は悪びれもせず肩をすくめた。
「世界の均衡的にね。勇者って外来種みたいなものだから、帰すと色々まずいんだ。」
知らんがな。
文句を言おうにも相手は神だ。
殴れないし、説得もできない。
代わりと言って神が差し出してきたのが一台の車。
白くてどこにでもありそうなキャンピングカー。
だが中に入った瞬間、俺は理解した。
与えられたキャンピングカーの異常性を。
入った瞬間空間拡張された吹き抜けの二階建ての間取り4LDK。
風呂トイレ別。
ハイテクキッチン完備。
冷蔵庫を開ければ現代日本の食材がなぜか常に補充され、室温はどんな環境でも快適に保たれる。
しかも物理攻撃は無効、魔法は反射。
地形や天候も選ばず火山でも深海でも走行可能なとんでも性能。
名前は《ヘブンズ・ロッジ号》。
「…これで何をしろって?」
「のんびり気ままに生きれば?世界の均衡を崩さないようにしてくれれば自由にしていいよ。」
神は本当に軽いノリで言った。
正直、この時俺は本気で神を殴る算段を考えた。
◇ ◇ ◇
それから数年。
俺は今、草原のど真ん中でコーヒーを淹れている。
ヘブンズ・ロッジ号の横に簡易テーブルを出し、湯気の立つマグカップを片手に遠くの景色を眺めた。
かつて魔王軍が進軍してきた街道。
今では商人の馬車が行き交い、子どもたちが走り回っている。
緑に覆われた丘陵と遠くに見える村、黄金色の穂が広がる畑に風に吹かれて回る風車。
遠くから人々の笑い声が聞こえてくる、牧歌的でのどかで平和な農村の風景。
魔王は倒れ世界は平和になった。
少なくとも表向きは。
俺はそんな世界を勇者としての肩書きを捨て、名も伏せて各地を旅している。
朝は気が向いた時間に起き、湖のほとりで湯を沸かし簡単な食事を取る。
昼は街に寄って物資の補給と情報収集、夜はコーヒーを飲みながら星を眺める。
魔王と戦っていた頃に比べれば拍子抜けするほど気楽で平和な生活だ。
だが、世界は確実に変質し始めていた。
酒場に入れば国境の小競り合いの噂が流れている。
宿に泊まれば貴族同士の政争で街が分断された話を聞く。
かつては魔王という共通の敵に向いていた刃が今は人に向けられ始めている。
魔王軍の残党も完全に消えたわけじゃない。
山間部や廃都にはいまだに魔族が潜み、力を蓄えているらしい。
それでも各国の上層部が本当に恐れているのは魔族じゃない。
力を持たない世界、だ。
魔王という共通の敵を失った世界、今度は「勇者」という存在に目を向け始めた。
あれほど強力な切り札があるなら自国のために使わない手はない。
そんな発想が各国で同時多発的に芽吹いた。
その結果が新たな勇者召喚だ。
俺はその気配を肌で感じていた。
道中で見かける神殿の増築、妙に活気づく召喚術研究所、そしてひそひそと囁かれる噂話。
「次の勇者を呼ぶらしいぞ。」
その言葉を聞くたび胸の奥がざわつく。
勇者は便利な道具じゃない。
使い捨ての駒でもない。
それを一番よく知っているのはたぶん俺自身だ。
俺はふと空を見上げる。
雲一つない穏やかな青空に小鳥が群れになって飛んでいる。
この平和がどれほど脆いものなのか。
そして、それが誰かを犠牲にして保たれようとしていることを。
まだこのときの俺は知らなかった。
その「誰か」が俺にとって世界よりも大切な存在だということを。
もちろん拒否権なんてない。
選ばれた者は問答無用で連れてこられる。
「……馬鹿な話だ。」
俺はカップを傾けながら小さく吐き捨てた。
俺が勇者として戦えた理由?使命感でも正義感でもない。
ただ一つ。
どうしても譲れない帰る理由があったからだ。
俺には妹がいた。
両親を早くに亡くし、残されたのは俺と妹だけ。
学校を中退しバイトを掛け持ちして家計を回した。
大変だったがそれでもあいつが笑ってくれるならそれでよかった。
必ず帰る。
その一心で俺は死に物狂いで剣を振るい戦い続けた。
だからどんなに辛くても魔王すら倒せた。
なのに神はその「帰る場所」を奪った。
帰れないならしょうがない、納得は未だ出来てないが俺はこの車で旅をしている。
世界から一歩距離を置いた場所でのんびりと。
関わらない。
目立たない。
平穏第一。
それが俺の選んだスローライフだ。
そのはずだった…。
◇ ◇ ◇
午後になり風の流れがわずかに歪んだ。
魔力の流れが乱れている。
嫌な感覚だ。
俺はマグカップを置きヘブンズ・ロッジ号へ戻る。
「…召喚、か。」
遠い。
だが確実に感じる。
誰かがまた“勇者”を呼んだ。
胸の奥がざわついた。
理由は分からない。
ただ、嫌な予感だけがはっきりとある。
「…やめてくれよ。」
もし、そこに。
もし、召喚されたのが俺の妹だったら。
妹を守るためなら全ての障害を薙ぎ払ってやる。
ヘブンズ・ロッジ号のエンジンが静かに唸りを上げた。
もしそうなら俺は次は世界を敵に回す。
神でも国でも関係ない。
それだけは間違いなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今作でも色々と試しながら書いていく予定です。
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