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勇者コスプレをして無一文で日本一周したら、知らずに一人の男を救っていた件。

作者: 神田義一

特定を避けるため、時系列のみわざと外しています。

 5年前――秋。

 俺の日本一周の旅は、静かに幕を下ろした。


 ◆ ◆ ◆


 旅をした理由なんて働きたくもない、勉強も嫌。

 ただ、自分の中で何かを変えたかっただけ。


 旅に出る前、あることを考えていた。

 自分の人生を一冊の小説だとして、自分はその主人公。

 で、果たしてその小説は"面白い"のかを考えていた。


 別に、文法が怪しいとか、語彙がお粗末とかそういう話ではない。

 単に俺は主人公として、ドラマに必要な華なり棘なり毒なりを持って、読者を引き込ませることができるのか。そういう意味で"面白い"かどうか。


 当然、ただ気ままに学校に行って、将来のことは将来考えればいーや。だなんてスタンスだった俺の人生は面白くもなんともない。

 その答えに何かを得るために、ただ漠然と『ヒッチハイクで日本一周!』と決めたのも、なるほど若気の至りだったなと今では思う。


 学校を辞めてバイトも辞めた。

 持ち物は寝袋とテントとサバイバルグッズと、まさかのコスプレ衣装とスケボーのみ。


 移動手段は徒歩、スケボー、ヒッチハイクだけ。

 所持金は0円スタート。

 47都道府県を、それぞれ最低1泊ずつしないと日本一周したことにならない自分ルール。


 酪農家に拾ってもらい牛の世話をした。(牛の食いっぷりはギャル曽根)

 漁師に拾ってもらい漁に出た。(びびるほど船酔いでダウン)

 猟師に拾ってもらい狩猟に出た。(「アナグマや! 轢き殺せ!」とマリオカートみたいな動きに車酔い)

 養鶏場に拾ってもらい鶏の世話をした。(ニワトリはやさしい)


 そんな旅で様々な人に出会い、力を貸してもらった。

 恩義なんて何も返せないまま263台の車に乗せてもらい、30軒もの家に泊めてもらった。


 ご飯奢ってもらったりなんか日常茶飯事。

 時には自分が乞食みたいに思えて、気分が全く乗らずヒッチハイク出来ずに一日中歩いただけの日もあった。


「腹減ってるか?」と聞かれても、朝から何も食べてないのに

「いえ、満腹です」と見栄を張る(その問いに「はい」と言えば奢りのゴールデンルート)。

 虚ろに考えごとをしながら、ひたすら山道を踏むだけの一日もあった。


 そんな恩をもらってばかりの俺だったが、今朝目覚めると、とんでもない人からメッセージが来ていた。

 そしてその人は、日本一周中に出会った人。

 彼は俺と変わらないくらいの年齢の学生だった。



 ◆ ◆ ◆



 その日、俺は暇を持て余していた。

 まぁ、日本一周中なんてずっと動いているわけでもない。

 普通に疲れるので、よく公園なんかでぼーっとしていた。


 そんな中、とある大きな公園で人間観察なりブランコなりしている時。


「すみません。ちょっといいですか?」


 同い年くらいのイケメンが話しかけてきた。


 こんなどうでもいい日でも俺は絶えずドラクエの勇者やルフィのコスプレしてるので、話しかけられることは日常茶飯事だった。

 盗撮なんか無限回されたし、小学生にもよく絡まれた。

 女子高生に「写真撮ってください!」と言われた時は、テンションが上がったものである。


 だから、今回も『一緒に写真撮ってもいいですか?』系かな? と思ってた矢先。


「何してるんですか?」


 彼はそんなことを第一声に吐いた。


 ええええ!?

『何してるんですか』って逆に何!? どーゆー質問!?

 職質ですか!?


 内心超驚きながらも、俺はそのままやっていたことを答える。


「ええっと、コスプレしながら日本一周!?」


 パニクって語尾が疑問形。

 けれど、死んだ魚のようだった彼の目に、すっと光が刺さった。


「すごい! なんでそんなことしようと思ったんですか?」


 なんだコイツは。

 と思いながらも彼は俺の隣にドスっと座ったので、そこかから色々話をすることになった。


 話をしていく中、彼の夢は特撮ヒーロー系の俳優というのを教えてくれた。

 要するに◯◯レンジャーのアレとか、仮面ライダーのアレとかである。


 俺も一時期は声優を目指してたことがある。

 だからこそ分かるのだが、俳優というのはすごく狭き門だ。

 仕事がもらえるかも不明瞭だし、もらえたところで俳優業だけで飯を食えるのは1部の人間のみ。


 そう、だからこそ彼は悩んで悩んで悩み続けていたのである。

 彼はそんな事情に恐れ、俳優の学校には行かずに普通の大学に通っていた。

 しかし、そんな状況も彼には毎日納得できずに葛藤し続け、今日も気分転換として、自分の人生について考えながら公園で散歩していたらしい。

 そんな中、偶然クソ暇な俺に出くわし、今に至るというワケだ。


「お金0円で家に帰ろうと思ってもすぐに帰れない状況で、怖くないんですか?」


「明日食べるものがないかもしれないのに、なんでそんなに落ち着いてられるんですか?」


「学校辞めたりして、後悔しないんですか?」


 次々に出てくる俺への質問攻め。

 うーむ、耳が痛い。 


 彼の質問は至極真っ当で、普通の人なら誰でも抱く疑問だっただろう。

 俺自身も、旅に出る前はそう考えていたかもしれない。

 彼だけでなく、この手の質問はしてくることが多い。


 無一文ですぐに帰れないのは確かだし、今日の夕食すら何も考えてないのだってそう。

 でも、その問いの答えはいつも決まってこう言っていた。


「葛藤することはいつだってあるし、後悔も毎日のようにしてると思う。

 でも、そんなもんはやる前に思うことじゃない。

 やってからなら葛藤しても後悔しても【やり切る】か【諦める】の2択しかない。

 だとしたら前者を選ぶわけだし、やる前だとそこに【今なら間に合う違う道を探す】とかが出て来てしまうし、それだとより迷いが生まれてしまう」


「狭き門云々を言う前にまずやってみないとわからない。

 いつも俺が迷った時に考える事は【自分の人生を1冊の小説にしたとして、それが面白い本なのかどうか】。

 自分は主人公としてちゃんと成り立っているのか、他の友達の方が面白いのか。

 その為だけなら後悔なんていくらでもでもしたらいい。

 人生最後に死ぬその瞬間に後悔さえしなければ、あとはどれだけ後悔したっておつりが来ると思う」


「そう考えたら、学校辞めた方が面白かったし、日本一周もコスプレしたり、無一文でやる方が面白いと思ったから。

 自分がもし死んでも、妥協せずに好きな方へ選び続けた人生なら後悔はきっとないと思う」


 …………いやぁ、我ながら厨二病乙な話だなと思う。

 それでも、その頃はひたむきに真っ直ぐだった。

 このセリフたちも、きっとどこかのアニメやゲームの主人公から洗脳されたに違いない。


 そして長い時間、彼と夢について語り合った。

 話せば話す程、最初は暗く落ち込んだ顔が徐々に笑顔に変わっていった。

 俺も話しているのが楽しくなり、静かな公園の中、野郎二人で盛り上がった。

 連絡先を交換し、友達としていい報告を待っていると言ったのを覚えている。


 そして最後に、別れる前。


「今日は本当にありがとうございました。

 俺、学校辞めて新しい学校に行きます!

 そう決心させてくれたのは間違いなくあなたです!

 もしかしたら上手くいかないかもしれませんが、後悔しません!

 いってきます!」


 そう言った彼の目に、もはや陰はなかった。

 少年のようにキラキラと輝いていて、俺も「そろそろ旅に出よう」と思わせてくれた。


 自分自身を考えなおす良いきっかけにもなり、俺はこの後185日をかけて無一文日本一周を完遂した。

 その時にも一度『日本一周達成おめでとうございます! 自分も今一生懸命頑張ってます! あの時はありがとうございました!』と、彼から連絡が来ていた。


 そういえば、そんな出来事があったからこそ、俺は役者の道に戻ったのかもしれない。

 思えば、ミュージカルや劇団に参加したのもこの後すぐだった。



 ◆ ◆ ◆



 最後多少話が脱線しかけたが、日本一周後に1度連絡を交わして以来5年が経ち、全く連絡をすることもなく彼の事すら忘れていた。

 しかし今朝、その友人からメッセージが来ていたのだ。


 内容は以下の通り。


『旅人へ。

 お久しぶりです?お元気ですか?

 今でも「旅」していますか?

 覚えてらっしゃらないかと思いますが、僕は5年程前、名古屋の白川公園で、あなたに出会った者です。 

 (確か、その時はルフィのコスプレをしてましたね。笑)

 旅をしている友人のSNS投稿をみて、ふとあなたが元気にしてるかな? と気になりました。

 あの時は色々と悩みを聞いて頂き、ありがとうございます。

 本当に救われました。

 そんな今日は、僕にとって「勝負の日」です。

 あいにくの雨ですが。

 いってきます!』


 正直、言葉を失った。

 開いた口が塞がらなかった。


 彼は、5年経っても未だ俺の事を親身に思ってくれていた。

『ありがとう』と感謝してくれて、今日が一体どんな勝負の日なのかは分からないが、頑張ってほしいと思ったのは事実。


『救われました』


 俺の人生の中で、こんなにも一つの言葉が嬉しかったのは初めてだった。

 まだメールやLINEとか無い時、ふとポストを開けたら古い友人から1通の手紙があったとか、架空の物語にはよくあるが、現実ではこんな気持ちなんだろうなと感動した。


 人に頼ってばかりだと思っていた俺の日本一周の旅。

 けれど、俺もちゃんと何かを与えることが出来ていたんだなと実感した。

 旅をしてよかったと、本当にそう思う。


 2025年。

 いまの俺は、困っている人を無償で泊めたり、飯を奢ったりしている。

 いつかもらった恩は、当人に返せないかもしれない。

 でも、巡らせるくらいはできる。そしてそれが縁というものだと思う。


 なので、旅人もよく来る。(どっから嗅ぎつけてきたんじゃ)

 今は、母親と間男に実家を追い出され、大学も辞めさせられた悲しき女子大生が住み着いている。

 彼女もまた、笑顔で自分の道を選ぼうとしている。


 その旅人たちが「旅をしてよかった」と思えるように。

 良い記憶が、誰かの次の一歩になるように。


 ――とりあえず、また旅に出たくなった。

 (猫にはまたたびをキメさせつつ)


挿絵(By みてみん)


 ここまで読んでくれて、そしてこの作品を見つけ出してくれたあなたにもありがとう!


 これがきっかけでもそうでなくても、あなたの新たな行動が、きっと何かの縁に繋がりますように。


 またね――読者(たびびと)さん。

面白かった! 感動した!

旅したくなったぞバカッ!!


もしもそう思われましたら、

ぜひとも下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします!


最高なら星5つ、最悪だけど付けるに値するならなら星1つ、読者様のお気持ちをお教えくださいませ!

ブックマークもいただければ意欲につながります!!


どうぞよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
自分では一生無理ですが、素直に凄いと思います。全部振り捨てていく勇気(蛮勇でもある)があれば、大抵のことには動じなくなれそう。 何かが起こった時には「これは人生のネタである」と思ってやり過ごすことがあ…
一期一会ですね! 人生が進んでから、あの時のあの人はどうしてるのだろう?と思える足跡を残せるのってすごく素敵…!
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