3.魔王軍を崩壊へと導く者
「どういう事だ!」
会議室では魔王サランドの怒声が響き渡っている
「アイスケルベロスに続いてデスオーガまで勇者に討伐されたなどと・・!」
「はっ、四天王の二人が討伐されるなどと由々しき事態・・このブラッディホース、同じ四天王として誠に遺憾に・・」
「そんな言葉、どうでも良い!」
血のように真っ赤な縦髪をした馬頭の魔族、四天王筆頭である『不死身のブラッディホース』が魔王様の怒りを鎮めようとしているのだが、それは火に油を注ぐ結果になっていた
「四天王の位を頂きながら、人族に敗れるなど・・!我が魔王軍の恥ではないか!」
「まったくおっしゃる通りであります・・!」
連日届く勇者の快進撃と四天王の敗北の情報は魔王サランドの苛立ちを最高潮のものへと変えていた
「こうなればこの四天王筆頭!『不死身のブラッディホース』が憎き勇者の御首を魔王様へお持ちいたしましょうぞ!」
「うむ、確かに四天王最強のお前ならば確実に勇者を殺せるな・・ならば・・」
「よろしいのですか魔王様?」
魔王がブラッディホースに命令を飛ばす前に私は待ったをかける
「なんだ!たかが王妃の分際で軍議に口出しするつもりか!」
「申し訳ありません・・ですが、本当にブラッディホースを勇者討伐などという些事に使ってよろしいものかと・・今はエルフ一族の動向も気になりますし・・」
「エルフだと・・エルフ族がなんだと言うのだ!」
「実はエルフ族が魔王様への反乱を考えているという話を聞きまして・・」
「なっ!エルフ族が反乱だと・・!」
「そのような話、吾輩は聞いておりませんぞ!」
そんなの当たり前である
エルフ族の反乱の話など本当はないのだから
・・けど
「もしブラッディホースが勇者討伐で魔王城を不在している間にエルフ族が反乱を起こせば・・どうなるのか・・私は、とても不安なのです」
そう言って私は不安げに頬に手を当てる
「ご安心下さい王妃様!吾輩が勇者討伐に赴いたところで魔王城には四天王であるリティア嬢が残っておりますぞ!」
「えっ、私!?いや、それは・・ど、どうしましょう魔王様!?」
軍議の場で我関せすとばかりに呑気に欠伸をしていたリティアは突然、話を振られてオロオロとしている
「た、確かにリティアは四天王ではあるが・・しかし・・」
魔王様のゴリ押しで四天王に抜擢されただけであり、実力はブラッディホースの半分以下しかない
それを知っているからこそ、魔王の目は左右に泳ぎ回る
「ふん!勇者のような小物に四天王筆頭のブラッディホースを向かわせる必要などない!」
私の狙い通り、リティアだけでは頼りない事が分かりきっている魔王はブラッディホースを魔王城の守備に当てる事に決める
今の勇者達にブラッディホースの相手をするのは厳しい、もっとレベルを上げてからじゃないとね
「はあ〜、魔王様がそうおっしゃるのなら吾輩は魔王城の守護を致します・・ですが、勇者討伐はどうするのですか?」
「そ、それは・・他の適当な幹部にだな・・」
ブラッディホースに勇者討伐を任せれば問題ないと考えていたのだろう魔王は別の幹部の事が思い浮かばすに顎に手を当てて考え込んでしまう
「そういえばアクアドラゴンが静養地でのんびりしていると報告がきていましたね」
そこで私は独り言のように、それでいて魔王様の耳にはしっかりと届くように声を響かせる
「なんだと!魔王の俺が大変な時に休んているだと!」
「それはアクアドラゴンは先の人魚族との戦争での大きな傷を負ったための休養であり・・」
「黙れ!魔王である俺のために死ぬまで働くのが幹部の務めであろう!今直ぐにアクアドラゴンを勇者討伐に向かわせろ!」
狭量である魔王様は私の狙い通りの言葉を紡いていく
「素晴らしいお考えです魔王様!もちろん私一人でも魔王城の護りは完璧でしょうけど、念には念を入れてブラッディホースは城の守備にして、楽をしているアクアドラゴンには勇者討伐をさせるべきですからね」
「そうだろう!魔王である俺の采配は完璧だからな!」
危険な役目はごめんだとばかりにリティアはブラッディホースを残す事に賛成の言葉を上げる
「ならば会議はこれで終わりだな」
「はっ、魔王様」
「魔王様、少しお話がありますの」
療養中のアクアドラゴンに勇者討伐をさせるという最悪の悪手を決定した魔王は、めんどくさい会議はもうごめんだとばかりにさっさと会議室から出ていってしまう
その後を付いて行ったリティアはまた魔王様とイチャイチャするつもりなのだろう
「はあ〜・・このような事・・アクアドラゴンにどう伝えれば良いのだ・・」
魔王様からの無理難題にブラッティホースの馬面は重苦しい影を帯びていた
「それなら良い手段がありますよ」
「ほ、本当ですか!王妃様!」
私の言葉に身を乗り出すブラッディホース
「勇者が進むであろうルートには黒の湖があったはずです
そこでアクアドラゴンを待機させるのです」
「黒の湖にアクアドラゴンを待機させて、どうやって勇者を討伐するのですか?」
「工作員を用いて勇者をアクアドラゴンの元まで誘導させれば良いのです
そうすればその間、アクアドラゴンは休めますからね」
「工作員で誘導を・・しかし勇者をうまく誘導できるでしょうか・・?」
「それは問題ありません、私が用意した工作員なら失敗する事なく勇者をアクアドラゴンの元まで誘導させる事が出来るでしょう」
「おおっ!吾輩も知らない凄腕工作員を用意出来るとは・・さすがは王妃様ですな!」
はい、凄腕工作員兼王妃様です
「ならば勇者の誘導、ぜひお頼み申しますぞ!」
「ええ、絶対にアクアドラゴンのところに勇者を連れて行きますよ」
その後、アクアドラゴンが倒されても、それは無謀な命令をした魔王様の責任ですからね
「さっそくこの事をアクアドラゴンに伝えてきますぞ!」
私に感銘を受けたブラッディホースはすぐさまアクアドラゴンの元へと向かっていく
それを見届けてから私は警護の兵士に視線を向ける
「私は気分がすぐれないので、自室で休みます」
「はっ」
警護の兵士を後ろに従え、私室へと戻っていく
「王妃様はまだ私室に引きこもっておられるのか?」
「この頃は自室に籠る事が多いと聞きますぞ」
さっさと私室に戻っていく私の背中に幹部達のヒソヒソ声が聞こえる
「仕方ありますまい」
「この頃は魔王様に相手にされず、思い悩んでいると聞きますからな」
幹部達の間でも私が魔王様に相手にされていない事は周知されており、私が私室で引きこもっていても何の疑いを持つ事はなかった
「私は休みます、私が呼ぶまでは絶対に部屋に入らないように」
「はっ!」
私室の外に護衛の兵士を待機させた私は引き出しの奥に隠してある指輪を自分の指に嵌めていく
「変化の指輪よ、我が姿を望むものへと変えよ」
マジックアイテムを発動させると私の漆黒の黒髪は透き通るような白銀の髪に、闇のような黒い瞳は光を宿したかのような輝く白い瞳へとその姿を変えていく
「・・それでは勇者を導く女神になるとしましょうか」
そして私の一族だけが使えるテレポートの魔法で勇者クロスの元までテレポートするのだった