逆に『きさらぎ駅』の方が、俺のところにやってきた話
とある昼下がり、俺は違和感を覚え、目を覚ます。
妙にうるさい。地面が揺れている。なんだこれは。地震か? そう思った瞬間――
ド ガ ア ア ア ア ア ン ! ! ! !
ものすごい爆音とともに、壁がぶっ飛び、天井が吹き飛び、俺はベッドごと吹っ飛んだ。
「なっ……なんだァーーッ!?!?」
起き上がると、そこには……。
錆びたホーム。
木造の駅舎。
そして駅名標に『きさらぎ駅』の文字。
「あの有名な、きさらぎ駅……!? え、向こうから来るパターンってあんの!?」
電車に乗っていると、ふとした拍子に、この世に存在しないはずの駅にたどりついてしまう――それが、きさらぎ駅という都市伝説だ。
しかし、まさかきさらぎ駅のほうからやってくるとは……。都市伝説がこんなでかい音立てて登場しちゃダメだろ。
周りを見渡すと、俺の家は大破していた。冷蔵庫が線路に投げ出され、親父のゴルフクラブが真っ二つに折れている。
ちなみに親父は、好きなお笑い芸人がYouTubeでゴルフグッズを買いに行く動画を見て、それに影響されてゴルフを始めたという筋金入りのミーハーだ。なんてくそどうでもいい情報なのだろう。
カンカンカン――ふいに、踏切が鳴る。やがて怪しげな電車がきさらぎ駅に入ってきた。
ドアが開き、電車の中から現れたのは、カウボーイハットを被った金髪の白人男性だった。
「ハローッ! ナイストゥーミーチューッ! ハウディ!」
はち切れんばかりの笑顔を浮かべると、彼は名刺を差し出してきた。そこに書かれていたのは、こんな肩書きだった。
【きさらぎ市長 ゴーベルグ・E・ルックダイブ】
「洋風の市長!? きさらぎ市って、洋風の市長なの!? いや、きさらぎ駅って日本の都市伝説だから、てっきりそこに住んでるのって日本人とか、日系の怪異とかかと思ってたけど……欧米の人が市長やってるんだ……意外だ……」
「きさらぎ市ハ、白人至上主義デース!」
「なんできさらぎ市にポリコレの反動が来てんだよ……」
「ゼヒYOUモ、きらさぎstationヘ来テクダサイネ~!」
「そっちから来てんじゃねえか」
だいたい、そんな差別主義者が治めてる自治体なんかに行くわけねえだろ。
「そんなことより弁償しろよ! 家がめちゃくちゃなんだよ! 家にいたのがたまたま俺だけだったからよかったものの……死人が出てもおかしくなかったんだぞ!?」
「オヤァ~? ドウシテアナタハ、コンナ昼間カラ家ニイルンデスカァ~? モシカシテ、『ニート』デスカァ~?」
「だ、だからなんだよ……!」
「自宅警備員ノ名折レデスネェ~ッ! アナタガ家ニイナガラ、アナタノ家ハ、木っ端微塵デェ~ス! 自宅ノ警備、失敗シテマァ~ス!」
「コイツ、俺がいままで出会ってきたヤツの中で……一番ウゼェぞ!?」
そして唐突に、さらにデカい駅舎がドガアアアアアアッ!!!!! と出現した。
「もう一駅来ることある!? 」
予想外の展開に俺は呆然とした。きさらぎ駅が来たってだけでも大事なのに、まさかもう一駅来るとは……。
『もう一駅来る』って表現、なんだよ。
俺は、新たにやってきた駅の名前を確認してみる。看板にはこう書いてあった。
『Panama station』
「パ ナ マ ! ?」
俺は絶叫した。
まさかパナマオチとはな……。たまげたぜ。
完