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05. 魔龍山の秘宝 ― 邪悪なブレスレットの謎

ジャックたちは南の森を後にし、黄色いレンガ道を一歩一歩進みながら、南の魔女グリンダの住む城へ向かっていた。道中、予想に反して危険な出来事は一切なく、むしろ物産豊かな南の大地に次々と驚かされる。目の前には金色に輝く稲田、道端には実り豊かな果樹。みんなは、歩き疲れると果樹の下で香り高いフルーツを頬張り、のどが渇けば、すぐ近くのせせらぎのような小川で水を飲んだ。夜になっても道に迷うことなく、近くの農家が温かい夕食と安らげる部屋を提供してくれる。南の住民たちの笑顔と優しさに、ジャックは心の底から感動し、「この南の魔女は、町をうまく治め、みんなに幸せを与える人に違いない」と、心の中で呟いた。


しばらくして、農家と別れ、花畑や小さな丘を次々と越えていくと、やがて灰白色にそびえる大きな城が眼前に現れた。

その城は、険しい山々に囲まれた湖の中央に建ち、灰白のレンガでできた長い橋で湖岸と繋がっている。ジャックたちは、橋を渡りながらワクワクした気持ちで前進し、やがて城門の前にたどり着く。


城門の前には、金属の鎧を身にまとった二人の衛兵が、無表情にそこへ佇んでいた。

案内板は、好奇心から一歩踏み出し、衛兵の兜の中を覗いてみると…中は空っぽ。どうやら装飾用の兜らしい。


その時、二人の衛兵が同時に振り向き、長い槍を持ち上げながら厳しい口調で問いかけた.


「こちらへ何の用だ?」


皆はびっくりして顔を見合わせる。さっきまで中が空っぽだと確認していたはずが、どうして突然動き出し、しかも喋りだしたのか……。


すると、小さな魔女がゆっくりと前に出て、落ち着いた声で告げる.


「私たちはエメラルドシティから参りました。偉大なるオズ大王の命により、グリンダ様のご助力を仰ぎに来たのです。こちらは、大王直筆の書状です。」


小さな魔女が差し出した書状を確認すると、衛兵は槍を下ろし、元の所作に戻ってこう告げた.


「かしこまりました。南の魔女は城内におります。どうぞお入りください。」


その瞬間、城門が重々しく開かれ、淡い黄色の光が城内から溢れ出し、まるで温かな歓迎のように皆を包み込んだ.


中に入ると、広大な芝生の広場が広がっていた。広場の左右、遠くに大きな金色のアーチがそびえ、アーチの間では、青や赤の服を着た子供たちが箒を持って元気に戯れていた。まるで、何かの試合の準備をしているかのようだ.


突然、ピィーッという哨笛の音が鳴ると、子供たちは素早く箒に飛び乗り、空へと舞い上がる。彼らは木製の櫂のような棒を手にし、銀色の球体を追いかけながら、互いにパスを送り、見事に敵陣のアーチへシュートを決める。その光景は、まるで小さな魔女とそっくりの飛行スタイルに見え、皆は自然と視線を小さな魔女に向けた.


しかし、小さな魔女はふんと鼻を鳴らし、少しムッとした声で言う.


「何を見ているの? 箒に乗って飛ぶのは、どの魔法使いも当然のことよ。これはただの練習だわ。さあ、急ぎましょう!」


皆は彼女の促しに従い、さらに前へ進む. すると、ガラス窓がびっしりと並ぶ建物が現れた.

案内板は、好奇心から窓越しに覗くと、部屋の中では、子供たちがそれぞれ大きな鍋の前に座り、色とりどりの奇妙な材料を棚から取り出しては鍋に投入、長いスプーンでぐるぐると混ぜ合わせ、時折、鍋から黒煙が立ち上り、驚いた子供たちが逃げ出す様子が見えた.


その光景に皆が見入っていると、ふと気が付けば、一人の大人の魔法使いが近づいてきた. 彼は低く「フム」と唸ると、皆の注意を引き寄せた.


「こちらへ、何の用で巫術学校にお越しになったのですか?」


ブリキの木こりが、頭をかきながら答える.


「巫術学校? そんなもの、聞いたこともありませんよ。我々は、南の魔女グリンダ様にお会いに来たのです。」


大人の魔法使いはにっこり笑い、答えた.


「巫術学校は、正しい教養と心構えを教えるために設立されたものです。オズ国に、東や西の邪悪な魔女が増えないようにするため――そして、南の魔女グリンダ様は、この大地の統治者であり、また本校の校長でもあります。彼女は校長室にいらっしゃいます。案内板に従ってお進みください。」


そう告げると、魔法使いはその場を去った.

皆が戸惑いながら周囲を見渡すと、元々無人だった壁に、ふいに「校長室」と書かれた案内板と矢印が現れた.


ジャックたちは案内板の示す方向へと歩み出す. 庭園や池を通り抜け、やがて草むらで作られた迷宮に足を踏み入れる. しばらくして、次々と現れる案内板に従い、迷宮を抜けると、あの大きな芝生広場の前に戻ってしまった.


案内板は首をかしげながら呟く.


「おかしい……案内板に従ったはずなのに、またここに戻ってしまった. どうやら迷宮の中で見間違えてしまったようだ. もう一度、挑戦しよう!」


皆は再び案内板を頼りに歩き出すが、結局、広場に戻るだけ.


ジャックは焦り気味に叫ぶ.


「どうしてまた原点に戻ってしまうんだ? 俺たち、間違ってないはずだよな!」


ライオンが自信をもって答える.


「俺は最後まで、ちゃんと案内板の方向を辿ったつもりだ!」


そのとき、小さな魔女はため息をひとつつくと、苦々しそうに呟いた.


「はぁ……ここは、魔法の心得が足りない者をいじめるのね。」


皆は、成年魔法使いの仕掛けに騙されていたことに気づき、恥ずかしそうに笑いながらも、小さな魔女の後について進むことにした.


そして、小さな魔女は皆を連れて、豪華で高い城へと入っていく. 城内を歩く彼らは、立派な装飾に目を奪われながらも、小さな魔女が突然脇の木製の扉を開いて先に進むため、しっかりと彼女の後をついて行かねばならなかった.


ジャックが思わず訊ねる.


「どうしてこんなにこの城に詳しいんだ?」


小さな魔女はにっこりと微笑み、軽やかに答える.


「当然よ. 私もこの巫術学校の学生ですもの!」


皆は、その事実に驚くと同時に、彼女が冷静沈着な理由も納得できた.


しばらく歩くと、城の隅にある古びた高塔へとたどり着く. 塔内に入ると、螺旋階段を上り、やがて古びた木製の扉が現れる. 扉横には「校長室」と書かれた古い看板が掛かっている.


小さな魔女は皆に告げる.


「着きました. グリンダ様はこの中におられるはずです。」


彼女の誘いに従い、皆は古い扉を押し開けると、そこは外の粗野な印象とはまるで対照的な、真っ白で清潔な部屋が広がっていた. 部屋には、ジャックたちが今まで見たことのない奇妙な品々が所狭しと並び、一方、暖かい雰囲気のある暖炉のそばには、火を使わずとも、湯気が立ち昇る大きな鍋が置かれていた. 皆は「なんだ, 火がなくてもこんなに熱い蒸気が…」と, 驚嘆の声を漏らす.


やがて, 白い大扉がゆっくりと開き, 黄色いローブに身を包み, 黄金の長い髪を揺らす美しい女性が現れた. 彼女は小さな魔女の元へ歩み寄ると, そっとその額にキスをし, 優しく告げた.


「久しぶりね, 可憐な子. あなたが無事に戻ってきたと聞いて, 安心したわ。」


小さな魔女は少し頬を染めながら, 控えめに答える.


「私たちの友, ドロシーが困っているのです. 彼女を救いに行かねばならず, さらに, 私の靴はドロシーの足にあって, 取り戻せない状況…。だから, オズ大王はあなたに助けを求めるよう, この書状を託したのです。」


そう言い, 彼女はオズ大王の書状をグリンダ様に手渡す. グリンダ様は書状をゆっくりと読み, しばらく沈黙した後, 静かに暖炉へと歩み寄る. そして, 看板の付いた大鍋の中へと書状を投げ入れると, 瞬く間に, 白い蒸気が青い炎に変わり, 部屋中に青い光が満ちた. やがて, 蒸気は次第に黄色へと変化し, その中から, ドロシーの姿が浮かび上がる.


その光景に, 皆は安堵の息をついた. ドロシーは, かつての荒涼とした野外ではなく, 宝石や金貨, 銀器が散りばめられた, まるで宝の山のような煌めく丘の上で, 穏やかに眠っていた. そして, 彼女の手には, どこか邪悪な雰囲気を漂わせる奇妙なブレスレットが輝いていた.


ジャックは, 眉をひそめながら問いかける.


「どうして, 前回見たときは, 荒野に囲まれていたドロシーが, 今度はこんな宝の中で眠っているんだ? それに, あのブレスレット……一体何なんだ? オズ大王も, あのブレスレットを見たとき, ずっと眉をひそめていたんだ。」


南の魔女グリンダは, ジャックの頭を優しく撫でながら答える.


「その場所は『魔龍山』と呼ばれる, 危険極まりない場所よ. しかし, 多くの者が命を懸けて向かうほど, そこには大いなる財宝が眠っているの. あのブレスレットは, 魔龍山の火口から生まれた邪悪な魔竜の産物. 非常に強大で危険な怪物の証なのよ。」


案内板が焦るように問いかける.


「ブレスレットが魔龍のものなら, なぜドロシーの手に? 魔龍は今, どこにいるのだ? ドロシーは一体どれほど危険な目にあっているんだ……!」


グリンダは皆を落ち着かせるように, 白く輝く魔杖を取り出し, 校長室の天井に向かって一振りする. すると, 眩い光が天井を旋回し, 次第に雲に覆われた. 暗雲の中, 遥か昔, 魔龍山にまつわる伝説が, 映し出されるように現れた.


――そして, 物語はまた, 新たな謎と冒険へと, 次章へと続くのであった.

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