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45. インディアンの誓い、未来を照らす炎

夜空には大きな月が浮かび、その銀色の光が森の輪郭を優しく照らしていた。遠くの茂みからは狐の低い遠吠えが聞こえ、フクロウが羽を広げながら「ホゥ、ホゥ」と森を巡回している。

そんな静寂を切り裂くように、森の中央では巨大なかがり火が勢いよく燃え上がっていた。その光に照らされ、インディアンたちと迷子の少年たちが手を取り合い、リズムに乗って舞い踊る。夜の闇と燃え上がる炎が織りなす光景は、まるで幻想の世界のようだ。


盛り上がる輪のそばで、ジャックはピノキオとの冒険を語り始める。ふたりが港町を出たあとに訪れた「歓楽国(歡樂國)」で目撃した、少年たちがロバに変えられてしまう悲劇。

「その国じゃ、大人の目を盗んで毎日遊び放題なんだけど……。魔法の粉がかかった食べ物を口にすると、みんなロバに変えられちゃうんだ。で、変身させられたロバの少年たちは海賊船に載せられて、この島に運ばれてきた。海賊たちは、ロバを売って武器を買おうとしてるらしいんだ」

この話に、皆は息を呑む。インディアンの酋長は険しい表情で眉を寄せた。

「人を動物に変える魔法の粉とは……ずいぶん古く危険な呪法だな。どうやってフックが手に入れたのかわからんが、その粉を放置すれば、子供だけでなく、うちの族人も危険に晒されるかもしれない」

するとジャックはさらに言葉を続ける。

「そうなんです。もしロバたちが世界各地に売られたら、もう救い出せなくなる。だから、奴らがロバたちを売り払う前に海賊のアジトを叩いて、みんなを助けたいんです!」


酋長は目を閉じ、深くうなずく。

「もはや我々は家族。私の“家族”が傷つけられるなど、許せるはずがない。フックどもを一刻も早く止めねばならぬ。やつらに武器を買う金を与えるわけにはいかん!」

そう言い切ると、酋長は立ち上がり、周囲に呼びかける。

「インディアンの戦士たちよ! そして迷子の少年たち! 今こそ力を合わせ、海賊をこの島から永久に追い払うのだ! 我らはロバにされた少年たちを救い出す!」


勢いよく燃え上がるかがり火の周囲で、インディアンたちと少年たちは大声で歓声を上げる。これから始まる大きな戦いの前触れに、みな興奮と決意に満ちていた。


そのとき、ジャックが意を決したように立ち上がる。

彼はインディアンの勇士“フライングイーグル”と、そばにいる虎リリー姫の前へ進み出た。

「前の海賊との戦いでは、自分の弱さを思い知らされました……。だけど、もっと強くなりたいんです。大切な仲間たちを守るため、どうか、戦い方を教えてください!」

フライングイーグルはジャックの瞳に宿る熱い意志を感じ取り、虎リリー姫に目配せをすると、微笑んでうなずいた。

「ジャック。おまえの勇気と決心、しかと受け止めた。インディアン第一の戦士、フライングイーグルの名に懸けて、おまえを鍛えよう。わが部族の戦闘術を叩き込んでやる!」


その言葉を聞いて、ピノキオもそっとジャックの隣へ歩み寄る。

「……僕、前の戦いじゃ、ほとんど何もできなかった。だからもう傍観者にはなりたくないんです。ジャックみたいに強くなって、ちゃんと自分の力でみんなの役に立ちたい……。フライングイーグルさん、虎リリー姫、ぼくも鍛えてください!」


虎リリー姫は短く「いいわよ」と答え、ニッと笑う。

「このあと数日は、ロバたちがどこへ拘束されてるのか探りを入れないと。海賊港を攻める計画が決まるまでに、あんたたちを徹底的にしごいてやる! 明日の朝から森の奥で修行を始める。……覚悟、いいわね?」


そう告げられたジャックとピノキオは、互いに視線を交わし合い、力強くうなずいた。ふたりの胸には、困難への不安と同時に、高揚感がこみ上げていた。


朝日が差し込む森の入口。ジャック、ピノキオ、虎リリー姫、そしてフライングイーグルの四人は、インディアンのキャンプを出発する。

酋長は彼らのそばに立ち、穏やかな声で言う。

「この道のりは厳しいだろうが、おまえたちなら乗り越えられると信じている」

ウェンディもピノキオの頭をポンポンと叩いて笑みを浮かべた。

「ピノキオ、あなたの力を信じて。ちょっとやそっとじゃ戻ってこないでね?」

するとピノキオは、瞳に涙をためながらも意地っ張りそうに背筋を伸ばす。

「へへっ、大丈夫だって。ぼく、そう簡単に諦めたりしないから!」


こうして仲間たちに見送られながら、ジャックたちは森の細い道を進んでいく。しばらく歩いた末、静かな滝の近くへ辿り着いた。

「ここを拠点にする。しばし休憩してから、特訓を始めよう」

フライングイーグルがテキパキと指示を出す。


ピノキオは川辺まで行き、水で顔を洗う。気を引き締めるように深呼吸していると、不意に視線の先に何かを見つけて叫んだ。

「えっ……あそこ、見て! あの大きな木の上にある鳥の巣……子ワシが今にも落ちそうだよ!」

しかし他の三人は必死に目を凝らすが、まったく見えない。

「鳥の巣……? どこにも見えないぞ」

ジャックが首をかしげると、ピノキオは大きく手を振りながら指し示す。

「あの奥に三本並んだ大樹があるでしょ? その右の木だよ!」

ジャックが改めて目を凝らすと、ようやく葉の間からわずかに鳥の巣らしきものが見えた。


そこでフライングイーグルが指笛を鳴らすと、上空からワシの鳴き声が返ってくる。

「カァァッ!」

何度か笛を吹き分けると、大きなワシがピノキオの指すほうへ急降下し、巣からこぼれ落ちそうだった子ワシをくちばしでくわえて、無事に巣へ戻してやった。

「やった! よかった……」

ピノキオは大喜びで手を叩く。


すると、虎リリー姫は目を丸くしてピノキオを見た。

「すごいわね。そんな遠くの巣をはっきり見えるなんて……“鷹の目”みたいな鋭さね。多くの弓使いが憧れる才能よ」

フライングイーグルもうなずきながら、ピノキオの小柄な体を上から下へと観察する。

「さっき森を進んだときも、枝や低木を器用にかわしてた。小さい体は隠れるのにもってこいだし、しかも遠くを見通せる……。ピノキオ、おまえは弓矢の名手になれる素質があるぞ」

「わあ……ぼく、弓矢なんて使ったことないけど……やってみたい!」

ジャックも隣でニコニコ笑いながら言う。

「すごいじゃないか、ピノキオ! じゃあオレの背後から海賊を狙ってくれよ! バシバシ倒してくれると助かる!」


フライングイーグルは嬉しそうに笑みを浮かべると、虎リリー姫を振り返った。

「ピノキオは運がいいな。虎リリー姫は部族でも指折りの弓使いだ。短期間で弓の基礎を叩き込まれるにはうってつけだぞ」

すると姫は腕を組んで口角を上げる。

「フフン、あたしの訓練はきびしいわよ? 途中で逃げ出したら、あのワシたちに追わせるからね。覚悟なさい、ピノキオ」

「ええっ!? そ、そんな……」

ピノキオはジャックの後ろに隠れてプルプル震える。周囲は思わず大笑いに包まれた。


やがてフライングイーグルはジャックのほうへ向き直った。

「ジャック、おまえは銀の斧の扱い自体は馴染んでいるが、実戦経験が足りない。これからはオレが相手をするから、模擬戦を通じて動く標的に慣れるんだ。地形を生かす術や、奇襲を仕掛けるタイミングも学ばなきゃならないからな」

「はい、お願いします!」

ジャックは力強くうなずく。


そして滝のそばで一息ついたあと、特訓が始まった。

フライングイーグルは素早いステップで斧をかわし、逆にジャックの死角を突く。

「うっ……!」

ジャックは反応が遅れ、何度も地面に転がされる。だが、そのたびに立ち上がって挑みかかる。

時間が経つにつれ、ジャックは相手の動きに合わせて斧の軌道を変える術を少しずつ掴みはじめた。


一方でピノキオも、虎リリー姫から弓の持ち方や矢の番え方、狙いを定めるコツなどを厳しく叩き込まれていた。

「弓はこう……引き絞るときに肩を上げないの。いい? 余計な力みは正確さを失う原因になるわ」

「は、はい……!」

必死に言われたとおりの姿勢をとるピノキオ。少しでも気が緩むと、虎リリー姫が「そこ、違う!」とビシッと指摘を飛ばしてくる。


そんなこんなで、二人の訓練は始まったばかり。まだまだ苦労は尽きそうにないが、どこか楽しげな空気が漂っていた。

(もっと強くなって、ロバにされた少年たちを救いたい……!)

ジャックとピノキオの決意は、滝のしぶきとともに、きらきらと光り始めていた。

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