44. 森に響く鼓動、失われた絆の再会
ノキオと迷子の少年たちは、地上の森へ出てジャックを探していた。
すると、ピノキオが妙に雑草の伸びた草むらを見つけ、そっと手を伸ばす。
「ジャック、もしかしてここにいるの……?」
彼が草をかき分けようとした、その瞬間だった。
バサッ!
草むらの奥から、まるで鋼のように頑丈そうな褐色の腕が伸びてきて、ピノキオを一気に引きずり込んだ。
「うわああっ! ピノキオ!」
周囲の少年たちが驚いて叫ぶやいなや、近くの林からドンドンと重たい太鼓の音が鳴り響き始める。
そのビートはどんどん大きくなり、少年たちの心臓を締めつけるように揺さぶった。
「な、なに……この鼓動みたいな音……?」
「まずいよ、囲まれてる……?」
少年たちは恐怖で声を震わせた。しかも慌ただしく家を飛び出したせいで、武器らしい武器を持っていない。
「くそっ!」
ピーターパンが空から急降下してきて、少年たちのそばに降り立つ。
「みんな、森の中で使えそうなモノを探せ! 手当たり次第何でもいい、武器にするんだ!」
ピーターパン自身は太い枝を一本拾い上げる。分かれた先端が自然な取っ手になっていて、まるで剣のように握れそうだ。
少年たちも必死に動き出す。固い木の枝を折って短剣代わりにしたり、石を拾って投擲用にしたり、葉っぱを大量に集めて目くらましにしようという者もいる。
全員が警戒態勢を整え、鼓動のような太鼓の音に耳を澄ませながら周囲を睨んだ。
そんな張り詰めた空気の中、意外な姿が木立の向こうから現れる。
「えっ、ピノキオ……!?」
さっき、草むらに引きずり込まれたはずのピノキオが、ケガ一つなくにこやかに歩み寄ってきたのだ。
「だ、大丈夫なのか? 痛みはない? 怪我は?」
少年たちは驚きと安堵で、思わず口々に問いかける。
しかしピノキオはどこも傷ついた様子がない。少し照れくさそうに笑いながら言った。
「みんな、落ち着いて。ぼくは平気。あの人たち、別にぼくを襲ったわけじゃないんだよ。上の枝に大きなヘビがいて、危ないから草むらに引っ張ってくれただけなんだ」
「ヘビ……?」
少年たちが目を凝らすと、確かに上のほうの枝に茶色いヘビがとぐろを巻いていた。
「あ、あんなところに……」
「おお、ほんとだ。びっくりしたなあ……」
そのとき、森の奥から一人のフライングイーグルが姿を現した。
背が高く、体つきは筋肉隆々。白い戦衣に鷲の刺繍があしらわれ、立派な羽根飾りを頭に戴いている。
表情は険しいが、武器は持っておらず、両手を開いて少年たちに敵意がないことを示していた。
その男は、低く落ち着いた声で語りかける。
「少年たちよ、安心してくれ。私はインディアンの戦士、フライングイーグルと言う。流刑者の岩で海賊と戦い、虎リリー姫を助けてくれて感謝している。緑のマントをまとい、銀の斧を持った少年がケガをして、今うちの部族のキャンプで手当を受けているんだ。酋長が、姫を救ってくれたお礼に、君たちを宴に招待したいと仰っている」
「銀の斧……それってジャックじゃないか!」
ピノキオは目を輝かせて飛び上がる。
「よかった、無事だったんだ……! 僕たちはずっとジャックを探してて……」
ピーターパンもひと安心したように枝を降ろすと、フライングイーグルと視線を交わした。
そして振り返って他の少年たちに向かって言う。
「よし、決めた。今日はインディアンと戦うつもりはない。むしろ友だちとして、彼らの集会に参加しようじゃないか。ジャックはオレたちの仲間だ。見捨てられるわけないだろ? 行くぞ、みんな!」
少年たちも次々と即席の武器を投げ捨て、フライングイーグルのあとに続く。
インディアンのキャンプには、不思議な空気が満ちていた。
中央では大きなかがり火が赤々と燃え上がり、そこから放たれる明るい光と熱気があたりを包んでいる。
海賊たちの根城のような陰鬱な雰囲気とはまるで違う。
部族の人々は華やかな羽根飾りや、多彩な色彩の図柄が描かれた服を身につけ、それぞれ神秘的な模様の入った装飾品を身にまとっている。
(……なんだかすごい。どの模様にも意味が込められてるんだろうな)
少年たちにはまだ理解できないが、そこには自然への敬意や祈りが表されているらしい。
かがり火の周りでは大勢のインディアンたちが輪になり、歌や踊り、太鼓のリズムに合わせたパフォーマンスを繰り広げていた。
「す、すごい……生き生きしてる……」
少年たちはその迫力に圧倒され、ぼう然と立ち尽くす。
(オレたちが地下の家で適当に踊ってるのとは、まったくレベルが違うなあ……)
フライングイーグルに連れられて、彼らはあるテントの前へ案内された。
「緑のマントの少年なら、この中で休んでいる。ケガは手当したから、もうすぐ回復するだろう」
テントの入り口をめくって中へ入ると、ちょうど夕陽が差し込み、横たわるジャックの顔を照らし出していた。
彼はうっすら目を開け、周りを見回す。
「……ここは……? みんな、どうして……」
するとピノキオが駆け寄り、思わずジャックに抱きついて泣き出した。
「よかった、ほんとによかった……! おまえがいないから、みんなで探したんだよ。岩の上で倒れたままじゃないかって、すごく心配したんだ!」
ジャックは寝たまま首をかしげ、テント後方に控えているフライングイーグルに目を留める。
「……そっか。ぼく、海賊との戦いでへとへとになって、そのまま寝ちゃったんだな。いつの間にかここにいて……。虎リリー姫は無事なの?」
フライングイーグルは前へ出て、ジャックの手を握る。
「老鷲が飛んできて、君たちを沈みかけた岩から救い上げたんだ。おかげで姫は無事。あなたにも心から感謝している」
「そっか……それなら、よかった……」
ジャックはほっと息をつく。
そこへ、印地安の酋長が娘の虎リリー姫を連れてテントに姿を現した。
酋長は腕を組んで厳かな面持ちで近づいてくる。
(これが、インディアン最強の戦士であり、彼らを束ねるリーダー……)
少年たちはさすがに緊張を隠せず、思わず唾をのむ。ピーターパンでさえ、手汗がにじんでいるのを感じていた。
やがて、酋長はゆっくりと両腕を広げ、重々しいが落ち着いた声で語りかける。
「少年たちよ。我々は長い間、お互いを敵とみなし、島のあちこちで戦いを繰り返してきた。だが今日、そなたらの仲間は命を顧みず、わが娘を救ってくれた。その恩を、我々インディアンは永遠に忘れない。ここに酋長として宣言する――。今より、インディアンと迷子の少年たちは同じ家族だ。もはや敵ではない。共にこの島を守り合い、助け合う仲間となろう。今夜はその記念に、神聖なかがり火のそばで祝宴を開く」
「わああああっ!」
少年たちは大歓声を上げ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
(インディアンとオレたちが……家族になれるなんて!)
こうして夜が更けるとともに、かがり火の周りはさらに盛り上がっていった。
太鼓の響きが夜空に溶け込み、力強いリズムが大地を揺らす。
インディアンたちは手を取り合い、歌い、笑いながら踊り始める。
「おもしろそう! オレも混ぜてくれ!」
ピーターパンが真っ先に踊りの輪に飛び込み、インディアンの動きを真似しながら陽気にステップを踏む。
その姿に感化された少年たちも、次々に輪へと加わる。
「うおお! なんだかワクワクしてきた!」
「足の運びが早くて……うわっ、つまずく!」
ウェンディはインディアンの女の子たちを見よう見まねで、優雅に手足を動かしてみる。
「ふふっ、なんだか素敵な踊りね……」
篝火の光がウェンディの髪や表情を照らし、幻想的な美しさを醸し出す。
「うわ、ウェンディ、きれい……!」
少年たちは思わず踊るのを忘れ、見惚れてしまう場面も。
一方、ピノキオは「よいしょ、よいしょ」と慎重に踊ろうとするが、絡んだ足をほぐしきれずにズテーンッと転んでしまう。
「うわっ……痛ったあ……」
周囲からは笑い声が起こり、本人も照れ笑いを浮かべる。
やがて踊りがひと段落すると、皆は炎を囲むように座って円陣を作り、食事や物語の披露を楽しんだ。
インディアンも少年たちも、さっきまでは敵同士だったとは思えないほど打ち解けて、和やかな笑い声が絶えない。
「なあ、これって何の肉? うまいな!」
「これは野生のターキーだ。スパイスが決め手なんだぜ!」
そんなやり取りを耳にしながら、ピーターパンは改めて思う。
(今までケンカばっかりだったけど、こうやって心を開けば、すぐに友達になれるんだな……)
互いを尊重し、助け合うことで、世界はもっと温かく、穏やかになっていく。
それは、インディアンと迷子の少年たちが、この夜に築き上げた大切な絆だった。




