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42. 海賊混戦!虎リリー姫と少年たちの挑戦

ジャックは疲れ切った身体を引きずり、虎リリー姫と一緒に岩の裏へ隠れた。

そのまま力尽きたのか、彼は不意に眠り込んでしまう。

虎リリー姫は黙ってジャックのそばに座り、彼を守るように周囲を警戒していた。

時々、岩陰から顔を出しては、流刑者の岩(流放者之岩)で繰り広げられる戦いの様子をうかがっている。


一方、その“流刑者の岩”では──。

混戦状態だった海賊たちと迷子の少年たちの戦いも、いよいよ終わりが見えてきた。


「うりゃああっ!」

ルフィオの短剣がスミスさんの彎刀を受け止めると、トートが背後から猛ダッシュで突っ込み、スミスさんの尻めがけて渾身のキックをお見舞いした。

「ぎゃああっ!」

スミスさんはたまらず悲鳴をあげ、手に持っていた彎刀を落としてしまう。尻の痛みで頭が真っ白になったのか、敵がまだ目の前にいることすら忘れてしまったようだ。

そこにルフィオが追い打ちとばかりに、同じ場所をもう一度ドンッと蹴りつける。

「いでででっ……なんでお尻ばっかり狙うんだよぉ!」

スミスさんは尻を押さえたまま地面を転げ回り、すっかり戦意を失った様子だ。


そのころ、先ほど気絶していた赤服の海賊が目を覚ます。

「チッ、ジャックと虎リリー姫の姿が見えねえ……まさか逃げられたか!」

彼は悔しそうに地面を殴りつけると、すぐに彎刀を拾いあげ、再び戦場へ飛び込んだ。

そしてあたりを見回し、左手側にいた少年をロックオンして追いかけ始める。

「待ちやがれ、このクソガキがっ!」


ところが、途中でふと気づく。

「ん? さっき左にいたはずのガキが、なぜ右にもいるんだ……?」

海賊は目をこすりながら、左の少年、右の少年を交互に見比べる。

左側の少年がペロッと舌を出し、右側の少年がウインクして見せる。

「な、なんだこれ……幻覚か? それとも魔法か!?」

実は、彼らは双子の少年だったのだ。海賊が混乱している隙に、カーリーが素早く近づく。

「それっ!」

彼が投げつけたのは「コショウ爆弾」。

小さな袋が海賊の顔面でパァンと弾け、濃厚な胡椒の粉末が勢いよく舞い散った。

「ぐはっ……げほっ、げほっ……目が……鼻が……ひーっ、熱いぃ!」

激しい咳と涙で視界が真っ白になった海賊は、まともに呼吸もできない。まるで灼熱の煙に包まれたようだ。


「うわああっ、どこだ、どこに行けば……」

痛みとパニックで海賊は闇雲に走り出す。しかし視界が悪いため、近くにいた白服の海賊に勢いよく激突してしまった。

「ぶあっ!? おまえ、何すんだよ!」

2人はバランスを崩してそのまま岩場から海へドボーンッ!

「わあああああ……っ!」

派手な水しぶきが上がり、トートまで海水を浴びてずぶ濡れになる。


こうして、海賊たちは次々と脱落していき、最終的にまだ戦っているのはピーター・パンとフック船長のみとなった。

「ハアァァッ!」

フックは怒りに燃え、右手の彎刀を一閃。ピーター・パンの腰を狙うが、ピーター・パンの短剣がそれを受け止める。

「ふんっ!」

直後、左手の鉤爪が襲いかかる。しかしピーター・パンは素早く空へ飛び上がり、上下逆さまの体勢でクルリと回転、フックを翻弄する。

「くそっ、コイツ……!」

苛立ちを隠せないフック。

ピーター・パンとフックは互いに一歩も引かず、切った張ったの大立ち回りを繰り広げていた。


しかし、そのとき──。

ピーター・パンの耳に「チクタク、チクタク……」という時計の音が聞こえてくる。

(ふふっ、あいつが来たか……)

ピーター・パンの唇が不敵にほころぶ。


そう、フックの腕を食いちぎったあのワニが、またやってきたのだ。

ワニはフックの味を覚えて以来、どこまでも彼を執拗につけ回す。海でも陸でも、ぴったりと後を追いながら、いつ食らいつこうかと狙っている。

ただ、そのワニはかつて「チクタク音のする時計」をうっかり丸呑みしてしまったため、近づくたびに音で居場所がバレてしまう。それで何度もフックに逃げられていたが、今回もやはり時計の音を鳴らしながら姿を現したのだ。


ピーター・パンはフックの鉤爪をひょいとかわし、するりと彼の横へ回り込む。

「おや、フック船長。黙ってないで教えてくれればいいのに。きみのお友だちがもうすぐ来るよー」

「友だちなど要らん! おれには部下がいれば十分だ。……おまえこそ今ここで叩き斬って──」

フックが言いかけた瞬間、ようやく彼の耳にも嫌な音が届く。

「チクタク、チクタク、チクタク……」

「ひっ……!」

フックの顔色がみるみるうちに青ざめ、彼は慌ててあたりを見回した。

「スミスさん! スミスさん、やつが来る! あのワニめ、今度こそおれを丸呑みする気かっ! どこだ、どこにいる!」


尻を押さえたまま地面に転がっていたスミスさんは、顔を上げると絶叫した。

「船長、後ろ、後ろですう!」

「なにっ……」

フックが振り返ると、そこには鋭い歯をむき出しにしたワニが大きな口を開けて迫っていた。

「うわああっ、こっちに来るな!」

フックは恐怖のあまり全力ダッシュで逃げ出す。

「スミスさん! 船を用意しろ! 早くジョリー・ロジャー号に戻るんだ!」


スミスさんもあわてて立ち上がり、痛む尻を押さえつつ小さなボートへ飛び乗った。

赤服と白服の海賊たちも慌てて続き、必死にオールをこぎ始める。ボートは岩場からじわじわ離れだした。

そのとき、スミスさんはハッと気づく。

「船長が……乗ってない!」

「スミスさん、待て! まだおれはここだ!」

フックは必死に叫びながら、必殺のタイミングでワニの大きな牙をひらりと回避する。だが、その拍子に上着の裾をビリリッと引き裂かれた。

「あああ、やめろ、おれの尻まで食う気かぁ!」

今にも噛みつかれそうな恐怖に背中を冷やしながら、フックは岩の端まで走りきり、大ジャンプ。何とかボートの中へダイブした。

「ごほっ……はぁはぁ……急げ、もっと漕げ! こんなところで喰われてたまるかぁ!」


海賊たちは総出でオールを握りしめ、死に物狂いで海へ逃げていく。岸辺には、大きなワニがぱしゃぱしゃと海水をあげながら追いすがるが、やがてボートとの距離は離れていった。


岩場に残ったピーター・パンと迷子の少年たちは、フックが悲鳴をあげながら逃げ回る様子を見て大笑い。

「わははははっ、フックのやつ、相変わらずワニには勝てないんだな!」

「見て、あんな情けない格好になっちゃってるよ!」

中には笑いすぎて腹を抱え、地面をゴロゴロ転がる少年までいた。


しばらくして、フックやワニがいなくなったのを確認すると、ピーター・パンは「コケコッコー!」と鶏のような声を上げ、勝利宣言を放つ。

「みんな、またしても海賊に勝ったぞ!」

「イエーイ!」

少年たちも続々と歓声をあげる。トートがふと辺りを見回してつぶやいた。

「でも……虎リリー姫はどこ行ったんだ?」

皆で岩の方へ視線を向けると、そこには切断された縄だけが残されていた。

ルフィオが目を細め、ほっとしたように言う。

「よかった。きっと無事に逃げ出せたんだな」


ピーター・パンは高々と飛び上がり、皆に手を振った。

「よーし、それじゃあオレたちも帰ろう!」

少年たちは海賊が置いていった別の小船に乗り、楽しげにおしゃべりしながら砂浜へ戻る。

「ぼく、さっきこんなふうに海賊をやっつけたんだぜ!」

「こっちは鼻先ギリギリでかわされたんだけど、別のヤツが背中からぶん殴ってくれたんだ!」

そんなふうに、それぞれ自分の武勇伝を語り合う声が絶えなかった。


そしてピーター・パンはさっそくウェンディに自分の活躍を自慢しようと、先ほどまでみんなが隠れていた岩場へ向かう。

だが……。

「……あれ? ウェンディがいない? それにピノキオやジャックも……どこ行ったんだ?」

ピーター・パンが首をかしげると、少年たちも一斉にあたりを見回す。

ルフィオは「ごめん、オレたちも戦いに必死で気付かなかった」と肩をすくめる。

するとカーリーが「ねえ、あっちに足跡があるよ!」と砂浜を指さした。

見ると、ジャングルの奥へ向かう小さな足跡が伸びている。

「おそらく先に地下の隠れ家へ戻ったんだろ。よーし、オレたちも急ごう!」

ピーター・パンは得意げに言って、みんなを先導するようにジャングルへと踏み出す。


こうして少年たちは美人魚の礁湖をあとにし、わいわい騒ぎながら地下の隠れ家へ帰っていった。

だがその頃、岩場には微かな声が響いていた。

「……誰か、助けて……」

それは虎リリー姫のものだった。彼女は海水が満ちてきたせいで半ば水没しかけた岩陰から、なんとかジャックを中央の高い場所へと引き上げていたのだ。

「しっかりしてよ……こんなところで溺れさせるわけにはいかないんだから」

虎リリー姫はささやくように言いながら、ぐったりしたジャックの身体を必死に支えていた──。

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