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30. 金銀島の宝図と沈んだ信天翁号

「フリント船長……!?」 ジャックは思わず前のめりになった。 「それって、いろんな海賊の物語で出てくる伝説の海賊だよね! 本当は実在した海賊だったんだ……」


ジャックの言葉を聞いて、シルファはゆっくりと立ち上がり、夕食の準備を再開する。 「“物語”だと? とんでもない。フリント船長は現実にいたんだよ。当時、海軍ですら彼の船を見ると逃げ出したって話さ。金銀財宝を略奪しては、どこかの島に隠していたらしい。その名も“金銀島”……そして、その場所を示す地図があったわけだ」


「じゃあ、その地図ってどうやって奪い取ったの?」 ジャックが身を乗り出す。


「勘違いしないでくれ。フリントの手から力ずくで地図を奪うなんて不可能だ。彼は病気で死んだんだが……そのあと、地図がどこに行ったか誰も知らなかった。

ところがある日、おまえの父さん――ジムが酔っ払った海賊“ビル”を助けたらしくてな。ビルは『やつらが来る……! 箱を奴らに渡すな……』とか訳の分からんことをつぶやいて、そのまま胸を押さえて倒れ、二度と目を覚まさなかったそうだ」


ジャックはごくりと唾をのむ。 「それで……父さんは、その箱を開けちゃったんだね?」


「そう。その中には“金銀島”の地図が入っていた。ジムはリーフィー医師と地元の名士と相談して、宝を発掘すれば病院を作って多くの人を救えるんじゃないかと考え、船を出すことにした……。だが、その噂は海賊の耳にも入ってな。俺たちは海賊仲間を集め、料理人や船員になりすまして船に乗り込むことにしたんだ。宝を見つけたら、その船ごと奪うつもりでね」


「ええっ……じゃ、船を乗っ取ったの!? それに、父さんは大丈夫だったのか?」 ジャックは声を荒らげるが、シルファは落ち着いた口調で続ける。


「はは、まあ落ち着け。話は最後まで聞け。

船出の前、リーフィー医師は子どもであるジムを危険だからって置いていくつもりだった。でもな、ジムはおまえと同じでこっそり船に潜り込み、しかも俺に見つかった。船はすでに出航した後だ……結局、彼を港に戻せず、仕方なく一緒に連れていくことになったわけさ。

もちろん船に乗ったからには働いてもらう。ジムは厨房で手伝い始めたんだが、メキメキと仕事を覚えてな。帆を扱う水夫の仕事も器用にこなし、海賊どもよりよっぽど優秀だった。だから俺は彼が気に入ったよ……」


そう語るシルファの表情はどこか楽しそうだ。だが、ジャックは心配になってくる。

(この人は昔、海賊だったって言ってたし……父さんを裏切ったりしてないよね……?)


シルファは口元にわずかな笑みを浮かべ、胸を張る。

「だがな、海賊どもががまんできなくなって、船を奪おうとしたとき……ちょうどジムが“リンゴ樽”に隠れて俺たちの企みを聞いちまってな。まあ、それで俺たち海賊とジムたちは完全に敵対。金銀島に着くと、ジム一行は宝の地図を持って上陸し、小屋に立てこもった。俺たちは奪還しようと攻撃を仕掛けた……が」


「が……?」 ジャックは息をのむ。


「結果は惨敗さ。ジムらの巧妙な策にはまり、半数の海賊はジャングルの病に倒れ、俺たちはギブアップ。少ない手勢で戦っても勝ち目がないから降伏したのさ。

宝を見つけたジムたちは、俺たち海賊を捕虜として連れ帰る途中、別の海賊団に襲われた。でもな……うちの海賊たちは『捕虜のまま死ぬなんて、まっぴらだ』って言ってね。

だから、ジムたちと手を組み、他の海賊どもを撃退したんだ。で、無事に港に戻ってきたとき……ジムは俺たち海賊が国に引き渡されるのを不憫に思ったのか、こっそり小船を出して逃がしてくれたよ。

もっとも、俺は手ぶらで帰るわけもなく、こっそり金貨の袋をいくつも拝借したがな! ははは!」


その言葉に、ジャックは少し肩の力を抜いて安堵した。

(父さんは無事だったし、シルファも……今は悪い人じゃないといいんだけど……)


ジャックはさらに質問を重ねる。

「それで、父さんとはその後も出航したりしたんですか……?」


「ま、その話はまた今度だ。今は晩メシの支度を急がないとな。海賊どもがもうすぐここに押し寄せてくる」

シルファは手を止めずに言うと、ジャックに倉庫の仕事を命じる。

「ジャック、あそこにある赤い箱を開けて、あの草を持ってきてくれ。くれぐれも、匂いを直接嗅ぐんじゃないぞ?」


ジャックは倉庫で蓋を開けると、ふんわりと甘い香りが漂い、思わずくんくんと鼻を近づけそうになるが、シルファの忠告を思い出して慌てて鼻を押さえる。

そっと一房だけ草を掴み取って、鍋へ渡した。


シルファはそれを煮えかけのシチューに投げ込み、ニヤリと笑う。

「これは強力な眠り草だ。食べるとすぐには効かなくても、夜になると一瞬で深く眠り込む。加えて、今日は驢馬の搬入で疲れ果ててるからな……今夜の船内は死んだように静かになるだろう。

おまえはその隙に、友達を助け出すんだな」


「ありがとう、シルファさん……!」

ジャックは深くお辞儀をして、引き続き食事の準備を手伝う。


バターン! 食堂の扉が大きな音を立てて開き、海賊たちがぞろぞろと入ってきた。

「オイ、シルファ! 腹減ったぞ! 飯はまだか!」 「ちくしょう……ロバを運ぶのに疲れたんだ。腹が減って死にそうだ!」 「今日は何でもいいから二人前くれよ~!」


「はいはい、食いたきゃ全部平らげちまえ!」

シルファは大笑いしながら、大鍋に盛ったシチューを振る舞う。

海賊たちはまるで野獣のようにがっつき、ある者は早々に食べ終えた皿を仲間から奪い合ったり、大立ち回りを演じたりする始末。

それでも最後にはみな満腹となり、ふらふらとあくびをしながら食堂を後にしていった。


シルファは厨房の方に向かって声をかける。

「ジャック、もう出てきていいぞ。奴らはみんな引き上げた。片付けが終わったら好きにしろ。多分、今夜は船じゅうが泥のように眠るはずだ」


ジャックは隠れていた木箱の陰からそっと出て、テーブルの後片付けを急いで済ませる。そして、厨房の裏手にある小部屋で休んでいたシルファに一礼した。

「シルファさん、本当にありがとう。僕、もう行きます……!」


「ほう。さて、うまくいくかどうか……」

シルファは何も言わず食堂に出てきて、ジャックがきれいに片づけた光景を見て微笑んだ。

さらに、明日使おうと思っていたジャガイモまで全部皮をむいてあるのを見つけ、「さすがジムの息子だな」と感心する。

「……俺ができるのはここまでさ。上手く逃げ切れよ、坊主」


一方ジャックは、廊下をコソコソと進んでいたが……意外にも船内は物音一つしない。

(本当に幽霊船みたい……。あの眠り草と疲労が効いてるんだな)

そう思ったジャックは、勢いよく走って“ピノキオ”が囚われているであろう部屋を探し回る。


そしてついに、ある小部屋で大きな鉄格子の檻を見つけた。中には数頭のロバと、まだ完全にロバ化していないピノキオの姿――

「よかった……!」

ジャックは壁に掛かっていたカギを外し、そっと扉を開け、眠るピノキオを揺り起こす。


「……う、うーん……ジャック? どうしてここに……」

ぼんやり目を覚ましたピノキオは一瞬嬉しそうな顔をするが、すぐに自分の耳と尻尾を触って落ち込む。

「……耳も尻尾も生えて……もうすぐ僕もロバになっちゃうんだ……」


「そんなこと考えてる暇ないよ! ここを抜け出さないと、本当にロバにされちゃう。海賊たちはみんな眠ってる。今がチャンスだよ!」


ピノキオは周囲のロバたちを見渡し、「ショウトウシンや他の子も……」とつぶやく。

ジャックは急いで答える。

「まずは港町へ戻ろう。君の父さんと海軍に知らせれば、きっと大勢で助けに来られる!」


ピノキオは力強くうなずき、ゆっくり立ち上がる。

だが、そのとき――


ブヒヒィンッ!! 一頭のロバが甲高い声を上げた。ピノキオが踏みつけてしまったらしい。

その衝撃でほかのロバも跳ね起き、驚いて暴れだす。


「わ、わあ! ごめんっ……!」

パニックになったロバたちは、次々とキックを繰り出し、あっという間に大騒ぎ。檻から飛び出すや否や、海賊たちが寝ている部屋に突撃してしまう。


ロバの強烈な蹴りを受ければ、いくら深い眠りに落ちていた海賊たちもさすがに起きる。

ドゴッ、バキッ!

「な、なんだと……!? いてえええ!」

罵声と悲鳴が響き渡り、船内はたちまちカオスと化した。


海賊たちは怒り心頭でロバたちを追いかけまわし、そんな混乱の中でジャックとピノキオの姿を発見する。

「あそこだ! まだロバになってないガキがいるぞ!」

「檻を開けたのはおまえらか! 逃がすか……!」


「うわっ……!」

ジャックはピノキオの手をつかみ、絶叫するように叫ぶ。

「走れ、ピノキオ! 甲板まで行って小船を探すんだ!」


こうして二人はロバと海賊の大混乱を後目に、甲板へと一目散に駆け出した。

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