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03. 黄レンガ道の果て ― 翡翠城への新たな旅立ち

そう呟きながら、案山子たちはジャックとともに、黄レンガ道を辿って翡翠城へ向かっていた。彼らは広大な草原を歩いていると、突如、ライオンの敏感な耳が何かをキャッチした。


「……ん? 何かいるぞ!」

と、ライオンが鋭く叫ぶと、周囲に緊張が走った。すぐに、ライオンは皆に「伏せろ!」と合図を出す。

「サッ、早く!」とジャックたちはばらばらに地面に伏せ、体を低くした。


その時――

「シュッ!」

という風の音と共に、頭上を何かが疾走した。ジャックが顔を上げると、そこには銀色の衣装に銀色のイヤリング、そして尖った銀の魔女帽を被った小さな女の子が、箒に跨り空を飛んでいた。


小さな魔女は、にっこりと微笑みながら言う。

「え? どうしたの? 『東の悪い魔女を倒したのは小さな女の子』って聞いてたのに、あれ? なんだか小さな男の子がいるみたいね。」


その声に、みんなは一斉に顔を上げ、不安と恐怖の表情を隠せなかった。なぜなら、オズの国には東の悪い魔女、南の善い魔女以外にも、数多くの魔女や魔法使いが存在する。果たしてこの小さな魔女は善か悪か、さらには、あの西の悪い魔女のように飛び猴を呼び出して襲ってくるのではないか……と、皆は記憶を辿る。


小さな魔女は、そんな皆の様子を見て、軽く笑いながら続けた。

「大丈夫、私、あの西の悪い魔女みたいな酷い奴じゃないわ。あの子は、顔にシワだらけで体も痩せ細ってて、心も冷たいの。私は違うのよ。私は、銀色の靴を履いた小さな女の子を探しに来たの。だけど、どこにも見当たらないわね?」


――その「銀色の靴」とは、かつて東の悪い魔女が奪い去った小さな魔女の大切な魔法の靴のことだった。靴を失って魔力を発揮できなかった彼女は、東の悪い魔女の死後、靴がドロシーの元に流れ着いたことを知り、取り戻そうと探していたのだ。


皆が「ドロシーは風にさらわれ、見つからない」と伝えると、小さな魔女の表情は一変。彼女は箒から降り立ち、草原の真ん中で涙をこぼしながら呟いた。

「……あの大事な銀の靴。ずっと私の宝物だったのに、やっと取り戻せると思ったのに……どうしよう、どこへ行ってしまったの?」


その姿を見た仲間たちは、次々と駆け寄り、励ましの言葉をかけた。そして、彼らは皆、翡翠城でオズ大王に助けを求めることに決めた。小さな魔女も、どうしてもドロシーを見つけられない自分に打ちひしがれながらも、オズ大王に興味津々という理由で仲間に加わることにした。


翡翠城に到着すると、オズ大王は皆に向かって笑顔で迎えた。

「よく来たな、皆。西の悪い魔女を打倒してくれたこと、感謝する。さて、約束のとおり……」


大王は、まず案山子に一つの魔法石を差し出す。

「案山子よ、この石は虹色に輝く魔法石だ。お前の頭に…はい、どうぞ!」

石は案山子の頭上でくるりと回り、やがてポンッと頭の中に収まる。すると、案山子は突然、無限の知恵が溢れてくるのを感じた。


次にオズ大王は、ブリキの木こりの前に現れた。手に持つ、滴るような音が響く魔法石を、木こりの胸元に近づけると、胸に小さな扉が現れ、ゆっくりと開いた。オズ大王はその中に石を収めると、ブリキの木こりは、温かい人の心と感情が全身に満ちるのを実感した。


そして、オズ大王はライオンの前に、一瓶の魔法薬水を差し出す。

「ライオンよ、これを飲むんだ。勇気を授けよう。」

ライオンは鼻をひくひくさせながらも、思い返す。あの時、悪い魔女の襲撃で震え上がった自分の姿を。ついには鼻をつまんで、嫌な顔をしながらも、飲み干し大声で叫んだ。

「くっ、まずい!でも、これで勇気が出るんだな!」

すると、ライオンの心は次第に熱くなり、もはや何も恐れることはなくなったようだった。


ところが、オズ大王がドロシーの願いをかなえようとする直前、皆はふと気づいた。

「……でも、ドロシーがいない!」

慌てた仲間たちは、オズ大王に事情を説明する。ドロシーは風にさらわれ、行方がわからない。さらに、ジャックと小さな魔女のことも伝えた。


オズ大王はしばし考え込むと、背後から一つの透明な水晶球を取り出した。

「これだ。この水晶球は、呪文を唱えると、見たいものの姿を映し出す。さあ、見せてみよう!」

大王が呪文を唱えると、水晶球の中に白い霧が立ち込め、やがて小さな女の子の姿が浮かび上がる。

その姿は、岩と黒い煙に包まれた山中にいた。周囲には未知の怪物が徘徊するが、ドロシーのおでこには北の魔女の祝福のキス痕が輝いており、怪物たちは彼に近づこうとはしなかった。ドロシーは、緊張と警戒の表情を浮かべながら、やがて小さな洞窟に身を隠す。そして、月光を浴びた金のブレスレットに向かって、ほんの淡い微笑みを浮かべながら呟いた。

「もう、誰にも奪わせはしない…」


その光景を見た仲間たちは息を呑んだ。なぜ、ドロシーはこんなにも不思議な行動に出たのか。そして、オズ大王の表情もまた、深い苦悩を隠せなかった。


オズ大王は重い口を開く。

「このブレスレット……非常に危険な魔物だ。どうしてドロシーの手に現れたのか、私にもわからぬ。だが、これを解決するには、君たちの協力が必要だ。」


大王は傍らのジャックと小さな魔女に向かって続けた。

「小傑克、お前がドロシーを救い、翡翠城へ連れ戻すなら、我が故郷への道を開いてやろう。そして、小さな魔女、お前もジャックと共に彼を救えば、いつの日か必ず銀の靴は返ってくる。さらに、南の魔女グリンダの助力も必要だ。北の魔女の祝福のキス痕が残っている限り、ドロシーは安全だ。」


そしてオズ大王は、部下に休息の部屋を準備させながら告げた。

「今夜は翡翠城でゆっくり休み、明け方には南の街へ向かえ!」


こうして、ドロシー救出のため、ジャックたちは翌朝、再び黄レンガ道を辿り南の街へ向けて旅立った。

小さな魔女は、飛行箒に跨りながら、時折ジャックの傍らに降りては話しかけ、また高く舞い上がって遠くを見渡していた。

ジャックがふと彼女の苦悩げな表情に気づき、問いかける。

「どうしたの? 何か心配なことでも……?」


小さな魔女は大きくため息をつきながら、空中で囁いた。

「黄レンガ道の先に、灰色に霞む不思議な森が見えるの。あそこは……何か、ひんやりと不吉な雰囲気がするわ。通るときは気をつけてね。」


一行はしばらく歩み、ついに森の端に辿り着く。黄レンガ道は森の中へと続いていたが、その空気はどこか異様で、鳥や虫の声すら聞こえない。

案山子が首をかしげる。

「……この森、まるで獲物を狙う獣が潜んでいるみたいに静かだな。」


ブリキの木こりが斧を握り締め、力強く口を開く。

「確かに、外回りの道なら安全だが、時間がかかる。ドロシーを救うには、急がねばならない。さあ、みんな、俺が先頭で斧を振るう。後は任せろ!」


そう言うと、木こりは斧を片手に一歩前へ。仲間たちは一列に続き、森の中へと足を踏み入れた。


しばらく静かに歩いていると、突然、ジャックの隣の茂みから金色の影が飛び出した。

「バッ!」

その影は一閃の如く、ジャックの前にいた案山子を一撃で吹き飛ばし、すぐさまジャックの後を追いかけ始める。

ジャックは驚愕し、必死に走り出す。逃げ込める木の洞穴が目に入っても、影は先回りして先にその入り口を塞いでしまう。

結局、ジャックは四方を倒れた大木に囲まれた空き地へ追いやられてしまった。


振り返って仲間の元へ戻ろうとするが、唯一の逃げ道を大きな影が塞いでいた。日差しが差し込むと、ジャックはようやくその正体に気づく――

それは、鋭い牙をむき出しにした母ライオンだった。じっとジャックを睨みつけ、牙をむき出しにしていたのだ。

その瞬間、上の方から轟くような獅吼が響いた。倒れた木々の上から、ライオンが勢いよく飛び降り、案山子を守るかのようにジャックの前に割り込んだ。

そして、ライオン同士が激しく牙を交え、互いに爪を振るい合う。

「友を傷つけるな!」と、ライオンが大声で叫ぶ。

母ライオンは驚いた様子で、「王子……! あなたが、まだ……生きていたのね! ずっと探していたのよ、アンナよ!」と叫びながら、自らの姿を明かした。


その瞬間、ジャックの目の前で、倒れていた母ライオン――名はアンナ――がかすかな笑みを浮かべ、かつての仲間であった王子に語りかける。

ライオンは動揺し、しばらくの間、互いに構えながらも、やがてアンナは穏やかに、しかし悲しげに語り始めた。

「王子、私たちは幼い頃からこの南の森で一緒に育った友達よ。あなたは私のこと、覚えていないの?」

しかし、王子ライオンは困惑し、首を振る。

「いや……俺は覚えていない。名前も、この場所も……ただ、ずっと東の森で暮らしてきたと思っていたんだ。あの日以来、何も変わらなかった……」


アンナは涙を浮かべながら、かつての勇敢な自分を語る。

「あなたは、かつてこの南の森で最も勇敢なライオンだった。洪水で王国が崩れたとき、みんながあなたの勇気を称えていたのに……」

その時、小さな魔女が声をあげる。

「ライオン王国?ええっ、そんな話……翡翠城と南の街の間には、かつて賑やかな動物たちの楽園があったと聞いたわ。でも、今のこの森はまるで死んだよう……洪水は一体何があったの? そして、ライオン王国はどうなったの?」


その問いかけに、皆の心はますます混乱し、謎は深まるばかりだった。


――こうして、ドロシー救出のための旅は、次なる試練と謎を抱えながら、ゆっくりと新たな展開へと進んでいくのであった。

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