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28. 歓楽城の陰謀と海賊の罠

ショウトウシンはピノキオの手を引き、子どもたちを先導するようにして「歓楽城」の大きな木の門をくぐった。

ジャックも海賊たちを刺激しないように注意を払いつつ、後ろからそっとついていく。


ギィ……

重厚な木門を抜けると、そこには背の高い木柵で囲まれた広い土地が広がっていた。

反対側にも同じような木の門があり、その外は海岸になっているらしい。岸辺には見知らぬ船が数隻停泊していた。


敷地の中央には、帆布のテントや木造の建物がまばらに建ち並び、ちょっとした町のようになっている。

だけど、大人の姿はまったく見当たらない。いるのはジャックたちと同じか、あるいは少し年下の少年ばかり。

彼らは嬉々として走り回り、ぶつかっても怒りもせず、ははは! と笑い合っている。


「わあ、あの子たち、転んでも全然平気みたい……!」

ピノキオは驚いたように辺りを見回す。


ショウトウシンは得意げに口を開く。

「そうさ。ここには悲しみも痛みも怒りもないんだ。好きなことを好きなだけやれるんだよ。夜更かしだって、道路の真ん中で寝たって誰にも叱られやしないんだ!」


「すごい! そんな場所、本当にあるんだね……!」

少年たちは「うおおお!」と歓声を上げながら、いっせいに建物群へ駆け込んでいく。

普段なら躊躇するような子までも、周りの楽しい雰囲気に飲まれ、一緒になってはしゃぎ始めた。

ピノキオも両手を高く突き上げ、「うわあ!」と大声で叫びながらその輪に飛び込む。

ジャックはそんなピノキオを見失わないよう、必死で追いかけた。


町の中は、想像以上に荒れていた。

古い家屋はあちこち壊され、窓ガラスは割られ、そこここに板で雑に補修した痕跡がある。

少年たちがハンマーや木の棒で壁を殴ったり、ガラスを粉々にしたりしてはけたけたと笑う。その姿に、ジャックは思わず眉をひそめる。


(みんな……やりたい放題じゃないか)

“ここには大人がいない”とはいえ、すさまじい無秩序ぶりに、ジャックはただ唖然とするばかり。


さらに奥へ進むと、ペンキを浴びせ合う子どもや、ロバを馬代わりに乗り回す子どもまでいた。

ロバは酷く疲弊しており、お尻を何度も叩かれて涙を流している。

ジャックがロバのそばを通りかかると、小さな声が聞こえた。


「……遊べ、笑え……怠け者の子どもども。明日にはロバの耳が生えてくるってのに……」

驚いて振り向いたが、そこにはロバの悲しい鳴き声しか聞こえなかった。

(今の声……誰が言ったんだろう?)

ジャックは少し胸騒ぎを覚え、あたりを見回す。だが、その“声”の正体はわからないままだ。


広場のような場所では、さらににぎやかな光景が広がっていた。

ボールをぶつけ合い、木馬を乗り回し、逆立ちで歩き回る子。思い思いの“遊び”に興じていて、まるでカオスな遊園地だ。


その隣にある建物には、大きなハンバーガーの看板らしき絵が描かれていたが、ペンキでべったり塗られて原形がわからない。

ジャックが入ってみると、中は食堂らしい。

しかし、子どもたちは陶器の食器をガシャガシャ割って大はしゃぎ。

テーブルの上には山のようなお菓子やジュースが散乱している。


「うわ……甘そうな匂い」

ジャックはすでに警戒していたが、よく見ると子どもたちは普通に食べているし、大事にはなっていない様子。

それに何より、お腹が空いていた。

「少しくらいなら大丈夫……かな」

我慢できずに、ブルーベリーパイに手を伸ばしてぱくっと頬張る。すると、口いっぱいに甘さが広がって……。


「ん、うまい……!」

一口のつもりが、さらにもう一切れ、また一つ……気づけばジャックは夢中で食べ続けていた。

その背中からは、ほんのりとした白いもやがほろほろと立ちのぼる。

そして、ジャックの服の下で隠れていた銀の斧が、かすかに光を放っていることに、彼は気づかなかった。

――どうやら魔法を浄化するような力が働いていたらしい。


やがて日が暮れると、さすがの子どもたちも疲れ果て、あちこちで眠り始めた。

ピノキオも大きなあくびをしながらジャックに「おやすみ……」とつぶやくと、そのまま意識を失うように倒れ込む。


「まったく……こんな場所、どう考えても変だ。大人がいないどころか、誰かが常に監視してるみたいなのに……」

ジャックはぐっすり寝入ったピノキオを背負い、比較的安全そうな食堂の厨房へ向かった。

割れた食器が散乱しているのを見て、もし海賊が来れば足音でわかるかもしれないと考え、空っぽの戸棚の中に身を隠す。戸を少しだけ開けて外をうかがうと、やがてジャックも強烈な眠気に抗えなくなっていった。


翌朝、ジャックは人より早く目を覚ました。

そっと戸棚を開けて、食堂の様子を確認する。

昨日のままの荒れ果てた光景……が、妙なことに、子どもの姿は一人もいない。


「……どういうこと? みんなどこ行ったんだ……?」

ジャックはピノキオを起こそうと厨房へ入るが、ちょうどその時、ピノキオが飛び出してきた。


「た、助けてよ、ジャック! みてこれ……耳が……耳がロバになった! しっぽまで……どうしよう!?」

ピノキオは絶望の表情で、自分の長いロバ耳と灰色の尻尾を引っ張ってみせる。


「ええええっ!? ちょ、ちょっと落ち着いて……!」

ジャックも衝撃で言葉を失う。

ピノキオの耳はロバのそれと同じくピンと立ち、臀部にはフサフサの毛のついた尻尾が生えていた。


動揺するピノキオは外へ飛び出し、誰かを呼ぼうと声を上げる。

その瞬間、ドドドッと重い足音が近づいてきた。海賊たちが大きな網を抱え、あっという間にピノキオを取り囲む。


「おやおや、一匹だけ取りこぼしてやがったのか」

にやりと笑う海賊の一人が言う。


「船長の命令だ。見つけたガキは全部船に連行するんだよ。どうせもうすぐロバ化するんだから、手間は変わらねえ」


そう呟くと、海賊たちはピノキオを網でがんじがらめに縛り、容赦なく連れ去って行く。

行き先は海岸沿いの木門を抜けた先――。


ジャックはすぐに追いかけたい衝動を必死に抑え、海賊の残党がいないか慎重に確認する。

(なるほど……“歓楽城”は海賊の仕掛けた罠だったんだ。子どもたちに怪しい食べ物を食わせてロバに変えて、それを船に運ぶ……最初からそういう計画だったんだな)


ジャックはようやく事態を理解する。

――自分だって同じ物を食べたが、どういうわけかロバにならずに済んでいる。あとで考えよう。今はピノキオを助けなくちゃ。


海賊たちはピノキオを抱えて海蝕洞の奥へ向かう。

そこには巨大な海賊船が停まっていて、黒い帆に骸骨のマークが描かれていた。

「うわ……想像以上にヤバそうな船……」

ジャックは岩陰に身を潜め、様子をうかがう。ピノキオはすでに船内に連れ込まれているようだ。


(彼を助けるには、船に潜り込むしかない……)

そう決心したジャックは、潮で浸食された岩肌のデコボコを利用して船に近づく。

海賊の視線が甲板の方に集中している隙を狙い、そっと船内へ滑り込んだ。


(ごめん、ピノキオ。今度はボクが必ず助けるから……!)

ジャックは心の中で決意を固め、薄暗い船倉の奥へと足を踏み入れるのだった。

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