戦闘不能になったのでチームからの脱退を余儀なくされた私は～伝説級の生活スキルを17つ持っている全能学者だ～

第７話 あなた本当にやり直せると思っているの？

「これでいいんじゃない？」

リリスは黒いシルクハットを手にした。

先生は本当に潜在能力があるわ！

学者っぽい雰囲気が漂っている。

本当にかっこいい。

ライルは腰に吊るされた青水晶のペンダントを指で揺らした。

白いシャツ、金色のネクタイピン、そして黒いコート。

「ちょっと居心地が悪いな……」

リリスの真っ赤な尖った耳がピクピクと動いた。「第一印象ってすごく大事ですよ、先生。あなたはこれまで本当に消極的すぎた。誰だって不潔な男とは関わりたくないもの。」

「俺は不潔じゃない、一日に三回も歯を磨いてるんだぞ！」

「私は見た目のことを言ってるの、見た目を整える必要があるのよ！」

リリスはぷんぷんしながら言った。「だからいくら追いかけても手に入らないのよ！」

あぁ、自分の先生にこんなことを言ったら、普通は怒られるよね？

なんて…なんて刺激的なんだ！

彼女はこっそり丸いフレームの眼鏡をポケットに入れた。

ライルは勘定を一瞥し、疑わしい表情を浮かべた。

あまりにも高すぎるだろう……

「君、この店で歩合給があるんじゃないか？」

「そんなことあるわけないでしょ！先生、何を考えているの？」

「でも君の耳が赤いぞ。」

「それは恥ずかしいからだよ！恥ずかしいんだよ！」

リリスは怒った顔をして拳を上げた。「叩いてやるんだから！」

二人はオーダーメイドの服屋を出た。

注目される視線が普段より多い。

ライルは少し慣れずに、黒いシルクハットを深くかぶった。

リリスは自分の小さなバッグの中を探し、一枚の依頼書を取り出した。

『オーク酒場、四級の醸造師募集』

「まずはここに行ってみようか。ここの醸造師が引退したんです。」

だが道中、ライルを探し回っていた牧師のエミリアと出くわした。

正直言って、エミリアは怒り心頭だ。

シアの性格は本当に酷いものだ。

謝らせるとまるで猫の尻尾を踏んだかのように、ドアをバタンと閉めて行ってしまった。

牧師は心の中で何度も彼女を罵っていた。

ライルとリリスが歩いてくるのを見て、彼女は一瞬立ち止まった。

何でこんないい格好してるの？

まさか本当に服を変えただけで状況が好転すると思っているわけじゃないよね？

私に触れなかったからここでストレス発散しようとしてるの？

それと、この忌々しい尖った耳まで！

この隙に乗じようとしているのね！

「ライル！」

エミリアはすぐにスカートを持ち上げて、駆け寄ってきた。

彼女の顔には深い疲れが浮かんでいた。

「エミリア？」

彼女はライルの袖を握り、心配そうに言った。「あなたが住む場所がないかもしれないと思って、ずっと探していたの。それに何も持ち出せなかったでしょう？衣類や日用品とか。」

ライルは口を開けた。「大丈夫、私は元気だよ。」

「あなた、一体いつ戻ってくるの？」

エミリアの目は再び赤くなった。

ライルはため息をついた。「エミリア、そんな風にしないでくれ。」

エミリアは目を拭いた。「あなた、ライル、仕事を探しているの？」

「うん…そういう感じかな。」

リリスは瞬きをし、何も言わなかった。

「一緒に行ってもいい？せめて、あなたが戻ってくるまでの間、ちゃんとしているかどうか見ておきたいの。」

エミリアは今にも泣き出しそうな顔で、涙ぐんでいた。

ライルは少し黙った。

彼は以前、エミリアがこんなに自分を心配しているとは思わなかった。

それとも、牧師はただ二年間一緒に戦った仲間を大切にしていただけで、ライル個人を思っていたわけではないのか？

牧師の演技はあまりにも見事だった。

長い睫毛にはもう涙のしずくがかかりそうだ。

オーク酒場。

店主は髭をたくわえた男だ。

リリスが醸造師を連れてきたと言うと、彼は三人を快く席に案内した。

「彼を六級の醸造師として連れてきましたよ！」

リリスは指を一本立てながら強調した。「六級！六級なんですから！」

「冗談だろ？」

ウィルソンは眉をひそめた。「醸造師の最高ランクは四級だって聞いているし、イオフ全体でも六級の醸造師なんて聞いたことがない。」

隣の男を見て、直接追い返すことはしなかった。

リリスの説明はある程度効果があった。

「嘘なんか言ってないわ！」

リリスは耳を掻きながら、自分のバッグを探した。

そういえばライルは冒険者協会で学者の身分を取り消したんだった。

その羊皮紙は保存されており、持ってきていなかった。

うーん……言葉だけでは、確かに信じられないかもしれない。

エミリアは彼女の困惑を見て、心の中で何かを察した。

醸造？

ライルが醸造できるのは確かだ。

彼女たち三人が温泉につかり終えた後、毎回一杯のワインを飲んでいた。

彼女たちがライルに飲酒をさせなかったからといって、自分たちが飲まないわけではない。

だが問題は、その技術だけで酒場で仕事が見つかると思っているのか？はは……

エミリアは深く眉をひそめた。「ライルは私たち『月下満開』の学者よ、もう少し礼儀をわきまえなさい。」

ウィルソンは首を振った。「月下満開が何だって言うんだ？俺はただの酒屋だぞ。学者を雇うためにここにいるんじゃない。彼の醸造技術を見たいだけさ。」

「あなた......」

牧師はよく考えてみると、それも一理ある。

「ライル？」

ライルは微笑み、理解を示した。

彼はあたりを見回した。

鎧を身につけた冒険者たちは、楽しそうに飲んでいたが、実際に手にしているのは果実酒やビールのようなものばかりだ。

「あなたの酒は全部、醸造酒ですか？」

ウィルソンは彼を一瞥した。「果物、穀物、小麦などの酒だ。」

ライルは指で酒杯の底を軽く叩いた。「どうやらおれが生活スキルで六級な理由がわかったみたいだ。」

正直言って、彼の醸造技術は特に卓越しているわけではない。

だが、評価は確かに最高の六級だ。

だから評価の基準……おそらく革新性なんだろう。

皆が醸造法を用いているこの状況で、

彼の頭の中の知識は、確かに革新的な理論だ。

ウィルソンは目をそらした。

彼は二十年間酒を醸造してきたが、その技術は今でも三級に過ぎない。

六級だと？

生活スキル全てが六級だとでも言うつもりか？

ライルは思案した。「二つの液体の沸点の違いを利用して、アルコールの濃度を高め、高濃度のアルコールと芳香成分を集める、そういった方法を考えたことはないですか？」

ウィルソンは眉をひそめた。「意味がわからない、何の話だ？」

「水と酒、どちらが先に沸騰するか？」

ウィルソンは答えた。「もちろん酒だ。」

彼の瞳孔が収縮した。

ライルは頷いた。「なら、その中間には、酒が水から離れる適切な温度があるはずです。」

「なぜだ？」

ライルはこめかみを揉んだ。「この方法を使えば、これまで飲んだことのないような強い酒を作ることができる。ただし、詳細は君には理解できないだろう。」

蒸留法。

液体混合物を分離・精製するための一般的な方法だ。

ウィルソンは何となく理解できたが、まだ完全には理解していなかった。

蒸留酒という概念が彼の頭の中で初めて浮かんだ。

リリスは全く理解できなかった。

だが彼女は今、自分の目に敬意を示すべき時だと知っていた。

先生はすごいすごい！

「でも、その温度をどうやってコントロールし、アルコールをどうやって集めるか、それが問題だ。」

ライルは微笑んだ。「それは私だけが知っている。」

ウィルソンはしばらく考えた。「試してみることはできる。しかし満足できたら、一月に五十金貨でどうだ？」

ライルは少し考えた。

その革新的な概念の割には、五十金貨は足りない。

まずは実物を作って見せるべきだ。

エミリアは眉をひそめた。「五十金貨？ライルが私たちとダンジョンに一度行けば、毎回五百金貨以上の収益があるのよ。あなたはライルを侮辱しているの？」

ウィルソンは首を振った。「当然、冒険と比べられないが、五十金貨は本当に悪くない。ドリームランドに行ってサキュバスを一匹頼んでも、二金貨しかかからないんだ。」

ライルは一瞬驚いた。「たった二金貨なのか？いや、その値段の話は後でにしよう。まずは実物を見せねば。」

「了解。」

ライルは彼と握手を交わし、帽子を手で押さえながら言った。「明日来るよ。準備が必要なんだ。」

愉快な面接だった。

エミリアは無意識に指を噛みたくなる衝動に駆られた。

水とお酒の温度のこと。

彼女も実はよく理解していなかった。

ライル、君は本当にやり直せると思っているの？

醸造？

「月下満開」を離れて、君は何も残らないというのに。

本当に私を追いかけたがる人が少ないと思っているの？

言ったじゃない、君が道具人でいることは栄誉なんだから。