第5話 17つのスキルが全能の学者
ライルが月下満開から去った後。
月下満開がまず直面しなければならない問題は、朝食のことだ。
3人の体内時計とも、ライルによって非常に規則正しく育てられた。
時間が来ると目を覚まし、慣れっこに下りて美味しそうな朝食を食べる。
空っぽの別荘の中で、3人がお互い顔を見合わせて黙っている。
この時になって初めて思い出した。もうライルはいないということを。
いつも香ばしい匂いが立ち込めるキッチンは、今は静かだ。
エミリアが自ら朝食の支度にしに行った。
シアは冷たい顔を浮かべて座っている。
フローとエミリアが微妙な表情で彼女を見ているのが明らかにわかっている。
だからなぜこんな風になったのだろう?
私ただ、もう少し頑張れば私たちは45層まで進むことができると言っただけだろう。
私は何が悪いの?
私たちは2年間もダンジョンで互いに頼り合って生きてきたんじゃないの?
それらのこと、あなたが一言で全て無効にできるの?
「さぁ、私の作ったものを試してみて」
エミリアが2つの皿を持って出てきた。
シアは俯いて自分の前に並べられた朝食を見つめた。
ライルが作るものとは全く雲泥の差だ。
彼は自分が何が好きで何が嫌いか知っている。
自分が朝には絶対に卵を食べないことも彼は知っている。
そして彼は牛乳をちょうどいい温度に温めて、直接飲める状態で渡してくれる。
「試してみます」
素直な魔法使いのフローは一口食べた。
2回噛むと、非常に冷静にティシューを取って口を拭いた。
「どう?」
「美味しいかったですよ、試してみてください」
「本当?」
エミリアはすぐにスプーンで一口食べた。
しばらくして、彼女はゆっくりとスプーンを下ろした。
「私がライルを連れて帰るわ。そして、シアは謝っていい。ライル本当に怒ってないから」
シアは一瞬で我に返った。
「いや!」
......
......
冒険者ギルド。
これは豪華な場所であり、壮大な雰囲気漂わせている。
正面広場には噴水があり、生き生きとした女神の彫像が立っている。
ライルがロビーに入った時、中には客はすくない。とても静かだ。
カウンターには金髪のエルフのお姉さんがうつ伏せて寝ている。
誰かがきたと感じたようで、エルフの尖った耳が少し動いた。
なかなか可愛いので、ライルはなでなでしようかと思っている。
彼女は半分顔を押さえながらぼんやりと座り上がり、しばらくして、ようやく目の前の人影をはっきりと見えた。
「あなたは……月下満開の学者ですね?」
ライルは一瞬驚いた。
「私のことを知ってるの?」
「有名な冒険団は、ここに記録されていますよ」
ライルは頷いた。
「脱退手続きをしに来た」
エルフのお姉さんは彼を一瞥した。
脱退させられたようだね......。
恐らく面目を保つために、自ら辞めるだろう?
それもそうだ。月下満開の名声はますます大きくなっていて、シアも美人だし、この学者の位置には何人もの人が羨望の目を向けているのだ。上層の冒険団、競争は本当に激しすぎるね。
彼女はのんびりと柔らかい腰を伸ばした。
「月下満開の団長の文書が必要なのよ」
ライルは少し考えた。
「なら直接消却しましょう」
「本当?冒険者ギルトから名前を消却したら、攻略した進度はすべて無効になりますよ。再登録する場合、レベルは1に戻りますよ」
ライルは頷いた。
「消却します」
エルフのお姉さんはあくびをし、眠い目で手元の本をめくった。
「まず能力値を更新する必要があるね、2年も来なかったので」
エルフのお姉さんは笑いだした。
「月下満開冒険団は、ダンジョンから帰ったら必ず協会に来て能力値を更新するのよ。あなただけ、登録した時以降、一度でも更新しに来たことがないよ」
「意味がないんだから」
ライルは苦笑した。
「学者のスキルや固有スキル、一つもないから、来る必要もないから」
それに、時間もなかったし。
彼はほとんどすぐに素材を売りに行ったから。
「ちょっと待ってね」
彼女は引き出しの中を探り、暗い色の羊皮紙を1枚取り出した。
ライルは袖をまくり上げた。そしてエルフのお姉さんは羊皮紙を彼の腕に巻いた。
「これから何をするつもり?」
エルフのお姉さんは、この学者は結構かっこいくて、大半の学者が持っている高慢な表情がないことに気づいたので、思わず彼とちょっと話をした。
ライルは少し考える。
「ちょっと遊びまわるかな」
「うん……それもいいね」
エルフのお姉さんは羊皮紙を取り上げ、うつむきながら見た。羊皮紙には細かい文字がびっしりと書かれている。
えっ?
今日の文字はいつもよりも多いのでは?
...…
【LV-44】
【月下満開】
【ライル・ゲフェンハット】
【学者】
【パワー:7】
【スタミナ:7】
【賢さ:15】
【固有スキル:???】
【スキル】:Lv6パン作り、Lv6調理、Lv6採鉱、Lv6園芸、Lv6木の彫刻、Lv6酒造、Lv6裁縫、Lv6錬金術、Lv6魚釣り、Lv6金属彫刻、Lv6鍛造……。
……。
エルフのお姉さんの頭がぼんやりしてしまった。
一つ、二つ、三つ……。
17つの伝説級スキル?!
彼女は目をこすり、そしてパシャリと羊皮紙を引き裂いた。
「……」
私の能力値は。
冒険家ギルトの受付ですら見下すほどにになっているのか?
「さっき寝起きで間違えた、もう一度行います」
「ああ」
そこで、エルフのお姉さんは完全に困惑した。
「どうしたの?」
「自分で見た方がいいよ」
ライルはそれを受け取って見る。
「何か問題でもあるのか?」
「えっ?!」
エルフのお姉さんは可愛らしく目を見開いた。
「17個の伝説級のスキル、本当に問題ないと思うの?」
「生活スキルだけだよ……シアがいつも努力させていたから」
ライルは一瞬呆然とした。
「生活スキルはそれなりに難しくないよね?できるのなら、これらの生活スキルで学者の固有スキルやスキルの1個でも交換したいよ。最低ランクのものでもいいよ」
もちろん、この点ではライルはシアに感謝しなければならない。
月下満開のお嬢様の世話をするために、彼は2年間かけて生活スキルのレベルをマックスに上げた。
突然の変な要求が出されることを心配していたからだ。
それに、シアは彼が学者の才能がないことをよく嘆いていた。
エルフのお姉さんの胸が動揺し、彼女は羊皮紙を指さした。
「この調理、レベル6になるまでにどれくらいかかったの?」
「3か月ね」
「園芸は?」
「おそらく3か月ほど」
「錬金術は?」
「それはもう少し長くて、学びと試行を含めて1年以上かかった」
「パン作りは?」
ライルは少し考えて、「2日間」と言った。
異世界転生者としては、この世界の手順を少し知悉するだけで、改善や手作りを始めることができる。
エルフのお姉さんは泣きそうでだった。
くそったれ。
彼女は「アルバイトの女王」でありながら、生活スキルはレベル2を超えるものは1個もない!
こいつはわざっと間接自慢しにきたのか?
「残念なことに、学者のスキルや固有スキルはないね」
ライルはため息をついた。
学者の多くのスキルは学院の系統的なトレーニングを経て、教科書で習得する必要がある。
それに彼は固有スキルも持っていない。
いえ、持っていないとは言えない。
疑問符が3つある。
何の役にも立てない。
「どのようにしてこれほど多くの生活スキルを習得したの?」
ライルはしばらく黙って、一つのわけわからない言葉を言った。「大学毎に、何らかの証書の習得狂人がいるから」
『証書の習得狂人、私の充実な大学生活!』
もちろん、シアの態度はさらに典型的だ――『一枚の旧帝大の修士の卒業証明書は他のすべてに勝る。多くの証書習得狂人を見てきたが、彼らが習得した証明書は何の価値もなく、ただの趣味だけだった」
イオフ学院はその旧帝大みたいなものだ。
エルフのお嬢さんはかなり驚愕した。
彼は本当に説級の生活スキルの概念を知らないらしい。
レベル6調理のなら、イオフ最高級レストランで働くことができる。
レベル6酒造のなら、冒険者たちの酒場で毎月数バライルの酒を作って、大金を稼ぐことができる。
レベル6の錬金術のなら、最も恐ろしいものだ。すでに講義をすることもできるのだ。
それでもデロ男になり続けるの?このライルは頭がおかしい?
そして、それでも付き合えないとは、このシアの頭でもおかしいなの?