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『異世界綺譚』 林檎が嫌いだったら魔法はなかった   作者: 竜彦
1 異世界転生と結婚
6/24

十三夜の月光

結婚の祝宴が終わった後、約束の時間がやってきた


僕は酒を好んでいるものでも、格別強くもないので勧められた酒を飲みすぎない程度になめていた


ルイゼも極力飲むのを抑えていたようだ


アリサのほうはだいぶ飲まされ、かなり酔ってている様子だ どうやら見た目通り酒に強いタイプでもないらしい

おかげで言い訳をすることもなく自然に抜け出すことができた


彼女は「ジュリアン……愛してますよぉ……大好き……大好き……」

何てことを言っていた

酔っている奥様の、素面とは違うギャップに萌えた


料理なんかは卵を使った料理が多かったような気がした なんでも、レーナル家が育てている自慢の鶏の卵を使っているということらしい

ここは田舎の村だからほぼ自給自足で成り立っているのだろう


その他親戚の集まりにありがちな会話をしていたようだが、あまり気にも留めていなかった


この時間だけを待ち望んでいた。これほど時間が過ぎるのを待ったのは久しぶりかもしれない


相手の出方によれば僕の異世界生活はチュートリアルで終わってしまうのだ






僕は抜き足差し足にレーナル家の、彼女の部屋へと向かった

特に誰かに怪しまれることはなかった、と思いたい

アリサも今夜、いや今夜からは僕の家に泊まることになっていたので酔ってそのままに寝てしまうなら自宅には来ないはずだ それもルイゼは分かっていたことだろう


僕は既に鍵の開いている彼女の家に入り、彼女の部屋、今では部屋だったところへ行き扉を開けた


ルイゼは待っていた

窓から外の景色を眺めていた。


やがて僕の存在に気づいて振り向いた


「来てくれたのね」


僕の顔を見るなり、そう言って長い髪をかきあげた


窓から差す月明かりが、モデルみたいで端麗な彼女の容姿をさらに磨き上げ部屋にくっきりと浮かび上がらせていた

このときによく観察できたが、異世界のお嬢様みたいな格好が実によく似合っていた。雅なおみ足の魅力を限界まで引き出していた


だが僕はこのとき彼女の表情の僅かな変化を見逃さなかった

それは僕にとっても彼女にとっても、いいとも悪いともいえない複雑な感情が内在したものだった。


筆舌に尽くし難い想いが第三者の僕の目から見て読み取れた


「一体何の用で呼んだんだい?」


僕はすぐに本題に入ろうとした まずはそれを聞かなきゃならない


「……それより少し外に出てみない?月が綺麗よ」



…まずかったか?いきなり単刀直入に話を聞こうとした自分が恥ずかしい 生き急いでしまっている

何だか早く正解を知りたくて解答を見てしまう学生のようだ


ここは彼女が話してくれるタイミングを待つことにしよう


けども雰囲気から察するに僕自身にとって悪い話があるわけでもなさそうだ。


僕は先に独り部屋を出る彼女の後から、彼女の家の庭へと出た




月は綺麗だった

僕たちは二人、庭からうす明るい夜空を見上げ眺めていた


「だいぶ草が生えているじゃない。あの子は庭の手入れをしていないのかしら」


そう言いながら彼女は荒れた庭を気味悪そうにしながら僕の方へ歩み寄っていりのを見た しかし気づいただけであって、心は月に釘付けになっていた

彼女の髪が月明かりの下、輝きを増しているとこに気を払わずに…


「今は色んな準備で忙しかったからなあ…」


僕は知らぬ間にそう呟いてしまっていた 無意識であったが、一体どっちの言葉だろうか


聞いていたのか彼女は黙って俯いてしまった


そのまま沈黙が続いた

月にもう飽きてしまった僕は、彼女の出方を伺っていた。


「あそこの小屋にいってみましょう」


ようやく口を開いた彼女はそう言って、すぐそこにあった小屋を指差した


…小屋? 一体何をする気なんだ!!


完全に相手のペースに持ってかれてしまっている、というか本題のほうも危うく忘れてしまうところだった


一体何の小屋かは分からないが、彼女に従うことにした。

近くまで来て分かったが、さっきの祝宴に出てきた卵の親鳥の小屋だった 独特の臭いがした。


二人は鶏小屋を覗いた


「…寝ているわ」


「そうだね……気持ちよさそうに……」


「卵を取られた鶏が…」


彼女が最後にそう言っていたような気がした

それを見届けた後、さっきのところへ戻った




「今日呼んだのはもうこれから二度とあなたに会うことはないかもしれないから…最後に会っておきたかったの」


いきなり彼女のほうから単刀直入に言い出した


()()()


もしかしてジュリアン本人にということなのか!

まさか今までの会話で正体がばれてしまったのか?


僕は不意を突かれた いや、しかし今までの会話からしてそんなことがあるはずがなかった……


「じゃあなぜアリサには、妹には秘密なんだ?」


「それは…最後くらいあなたと二人っきりでいたかったの。昔からの幼馴染だし、あなたにはもう立派な奥さんだっているんだし、変な気を起こすこともないでしょ?会えてもう満足したわ。来てくれてありがとう」


満足?そんなことはない!


ルイゼは確かにジュリアンに惚れていた、愛していた

部外者の僕から見ても分かる

結婚だってしたかったはずだ


それなのに、それなのになぜ彼女は他の男と!


それは僕の疑問であってジュリアンのものではなかった


この時、ジュリアンなら何というのだろう

僕自身には何ができるというのか

僕にはモテ男の気持ちなど到底理解できそうもなかった


だがもし、これが二人が選んだ道というならば…


彼女が下した決断ならば…


僕は口を出すべきではなかった


そんな無力さに悔しい思いを噛みしめて、ただ黙っていた。


「それじゃ…さよならね…」


そう言い残して去ろうとした彼女の振り向きざまに、僕は彼女の瞳に涙が溜まっていたのを見た。月明かりに耀き、彼女は今日最上の光を放っていた。


ただその姿を見送ることしかできない…


彼女の涙が整理されていない庭の草に落ちて、その雫は雨上がりのように残っていた




その夜はアリサと共にベットを共にしたが特別なこともなくただ二人で寝たというだけだった

彼女はやっぱり酒に酔って睡眠欲のほうが勝ってしまったのだろうか?


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