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「え、えぇ……?」

 

 己の手の中で眠っている少女を前に僕は困惑の声を漏らす。

 ……まさか、あの悲鳴が本当に死にかけの人によるものだとは思わなかった。


「……とりあえず、応急処置をしていこうかな。このままじゃ死ぬし」


 僕は自分の手の中にいる少女を地面へと横にさせる。

 悲鳴を上げていた少女のお腹には魔物に開けられたであろう大きな穴が空いている。これをこのままにしておいたら普通に死んでしまうだろう。

 僕は魔力を貯めた自分の手元を目の前の少女へとかざす。

 ダンジョンで魔物を倒していると自分の身体能力が上がったり、何かしらの能力を得られることがある。

 僕がドラゴンを倒すときに使った光武と観音菩薩様もその類であり、少女の傷を治しているこの治癒能力もダンジョンで得られたものである。


「これでよしっと」


 僕はすっかりときれいな肌に戻った少女のお腹を見て満足げにうなづく。

 これでこの子がさっきまでお腹に穴が空いていたなんてことに気付けるものはいないであろう。


「……ん?」


 少女を助けて治癒行為までして、これで十分かな?なんて思っていた僕の目に配信用のカメラが映る。


『コメント』

 ・あっ、こっち見た。

 ・おっ?

 ・気づかれたか……。

 ・ありがとーっ!


 そして、そのカメラの上にあるホログラムの上には多くのコメントが流れている。


「……配信者なのかな?」


 配信用カメラがこうして空を飛んで自分たちを映し、それに反応して多くのコメントが流れていることを見ればこの少女が配信者だった、ことがわかる……それも多分このコメント数的にはかなり有名な。

 と、とりあえず……。


「え、えへへ。み、見えてますかぁー?」


 僕はカメラの前で笑顔を浮かべながら両手を振る。


『コメント』

 ・見えているよー!

 ・笑顔めちゃくちゃ引きつっている……。

 ・ライナちゃんを助けてくれてありがとうっ!

 ・良かった……マジで。


 するとコメント欄がしっかりと反応してくれる……おぉ、前世の僕は何を話しても何の反応ももらえない底辺配信者だった。

 こうして何か反応をもらえるだけでも感動出来る。


「えへへぇ……見られているぅ」


 前世では満たされたなかった自分の承認欲求が満たされているような気がして笑みを漏らす。


「……って、そんなことをしている場合じゃないか。えっと、それじゃあこの子がなんでこんなことになったかわかる人います?」

 

 せっかく少女をここまで見ていた人がいるのだから詳細を聞いていくべきだろう。うん。


『コメント』

 ・そりゃ全部配信されているのだから見ているやろ。

 ・そんなことをしている場合じゃない。

 ・えっと、ね?簡単に言うと34階層の方で転移型の罠に掛かって54階層にまで迷い込んだと言った形かな?

 ・魔物に追われてて!助けてあげてっ!


 そんな思いで聞いた僕に対して、しっかりとコメント欄が反応して多くの返信を返してくれる。


「……なるほど。それじゃあ、多分僕がこの場を離れるのはまずいか」


 コメント欄を見ていた感じ、経緯的に言えば転移型の罠に引っかかってここにいるだけでその実力はここのレベルではないそうだ。

 それならこのまま自分が放置してさようならするわけにもいかないだろう。

 下層にソロで潜れるような化け物であれば、勝手に襲われそうになったら跳ね起きるからね。


「起こす……いや、起きるまで待つか」


 叩いて起こすというのも一つの手だとは思うが、僕に少女を叩くような勇気はない。

 触っていいのかもわからない。

 とりあえずは放置でいいだろう。


「……」


 僕は少女の方からちらりとカメラの方に視線を移す。

 今でも絶えることなくカメラはコメントを表示し続けている。


「……っ!」


 ここで、僕はとてもとても悪いことを思いついてしまった。

 ここで宣伝すれば自分のチャンネルが伸びるのでは……?有名人の配信で自分の配信を宣伝する。それ以上の宣伝効果があるだろうか?

 いや、ない。

 間違いなくないと言い切ることが出来る。

 で、でもハイエナのように有名人にすり寄って宣伝することは許されるのだろう、か。


「……僕ってばこの子の命を助けたのだし、少しの宣伝くらいであればいいよね?うん。命を助けてあげた料ということでぇ」


 いや、でも僕は命の恩人。

 迂闊にハイエナ扱いされないのでは?ここで自分が踵を返して家に帰ったらこの少女は死ぬわけで……なら、彼女が起きるまでの時間くらい勝手に有効活用しても怒られないのでは?

 よ、よし……。


「こ、この少女が起きるまでは暇だよね?だ、だからぁ……僕の配信活動について語らせて?」


 僕は懐から自分のカメラを取り出して視聴者の方に見せながら言葉を続ける。


「ちょっとした諸事情で一から配信活動をしていくことになったのだけどぉ……え、えへへ。今からアカウントを作っていくので、チャンネル登録とかしてくれたら嬉しいな。それじゃあ、ちょっと配信アプリの方で自分のアカウントを作るところから始めていくね?」


 視聴者の反応が見えないように。

 カメラの方に視線は向けず、僕は自分のカメラを操作して己のアカウントを作っていく様子を勝手に人のチャンネルで始めていくのだった。

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