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ダンジョンに入って催促してみた

 翌日の同時刻。ダンジョンの入口前でアイを待ってるのだが現れる気配ない。

 昨日あれだけ怯えたり泣いたりしていたから疲れて寝坊しているのかも。

 待つこと3時間。午後2時を回って漸くアイが現れた。


「やっと来たな。寝坊したのか?」


 いつもの装備のアイは来て早々、俺を横から両手で必死に押してきた。


「何だ? 何してるんだ?」

「……んーっ! ……配信……退いて……」


 微動だにしない俺を退かせようとしている。どうやら配信するから俺が邪魔なようだ。


「はいはい、わかったよ。退けばいいんだろ、退けば」


 配信のカメラに映らないように俺は近くの草陰に隠れて、そこからアイの配信を見守る事にした。

 配信を開始して20分弱で配信は終了。

 満足そうな雰囲気を醸し出しているアイへ寄って行き、本日の本題を伝える。


「もういいか?」

「……ん」

「なら、とりあえず中で話そうか。いつ雨が降ってもおかしくない天気だし」

「ひっ! ……な、中……」

「あー、そういえば……」


 アイがダンジョンを怖がっているのを忘れていた。でも、どこかの店へ行くのは金が掛かるから避けたい。


「心配するな。生活空間に直通の扉があるから」

「……でも」

「外だと金が掛かるだろ? 無駄な金をかけるくらいなら配信に使った方がいいと思わないか?」

「……うん、わかった……ダンジョンの中……入る」

「じゃ、ついてきてくれ」


 生活空間へ直通の扉はダンジョン脇の木が生い茂っている所にある。こちらが所謂、玄関みたいなもんで扉の横には郵便受けやインターホンも設置してあるのだが、なにぶんこの出入口は隠しておかないとダンジョンの意味をなさないから見付け難くなっていて引っ越してきた時に郵便や宅配が届かなくて困ったもんだ。


「ここだ。さぁ入ってくれ」

「……普通のドア……?」


 コンクリートの1枚壁にごく一般的な扉だけが付いている。裏側を覗いても何も無いから見付かっても建物の残骸だとしか思われない。

 しかし、郵便受けやインターホンがある側から扉を開ければ2LDKの生活空間の玄関口。

 ダンジョンによって生活空間への出入口の形は違うけど、どこも大体こんな感じの仕様だ。


「先に言っておくけど過度な期待はするなよ。ダンジョンマスターって言っても普通の人と同じように生きているんだから、生活空間も一般的だからな」


 一応、前置きだけ言って扉を開けて中へ先導する。

 後に続いて入ってきたアイの様子を窺うと何か凄くキョロキョロしていた。


「あんまりジロジロ見られると何か恥ずかしいんだけど」

「……初めて」

「何が?」

「……初めて……お友達のウチに……遊びに来た」


 あれ? なんだろ。涙が出てきたんですけど……。

 俺を既に友達認定しているのは置いといて、何とも悲しい事実を口にするアイにかける言葉がない。


「そ、そうか。良かったな」

「……何で泣いてるの?」

「バ――バカ野郎! 泣いてなんかないやい! 目にホコリが入っただけだ」

「……ホントに?」


 そっぽを向いて顔を見せないようにしているのにアイはめちゃくちゃ顔を覗き込んでくる。

 何でコイツはこういう時に積極的なんだよ。


「俺の事はいいから奥の右の部屋へ先に行ってろ。俺は飲み物用意するから」


 玄関を入ってすぐの部屋はダイニングキッチン。その奥に横並びで2部屋あって、右側が来客用、左側が寝室となっている。


「……うん……オレンジジュース……」

「え?」

「……オレンジジュース……飲みたい」


 招いたのは俺だけど、普通出して貰える飲み物の種類を指定するか?

 怯えて泣いていたクセに。


「わかったよ。オレンジジュースだな」

「……うん……早くしてね」


 催促までしやがった。これって内弁慶ってやつか?

 こんな事で機嫌を損ねられても困るから、要望通りにオレンジジュースを用意して右の部屋へ入る。

 ちゃぶ台の所に大人しく座っていたのは感心だが、設置してあった4枚の座布団を全部重ねてその上に座っていた。


「やりたい放題だな」

「……ん?」

「いや、何でもない。ほら、オレンジジュース」

「……ん」


 オレンジジュースをアイの前に置いて俺は向かいに腰を下ろす。

 畳とはいえ、座布団無しは少々ケツが痛い。


「じゃ、話を始めようか。まずはどれから話そうかなー……」


 何から話そうかと考えていると、アイがちゃぶ台の上にリュックから取り出した平たい箱を置いた。

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