令嬢は爆発だ! ~卒業記念パーティで黒王子に婚約破棄された侯爵令嬢のタロウルはタロウの教えを思いだし芸術を爆発させる!!~
「本日、現時点をもって、この私の婚約者である、侯爵令嬢タロウルとの婚約を破棄させてもらうっ!!」
婚約者であった黒王子様がそんな事を全校生徒の前で宣言されたのは、卒業記念ダンスパーティの宴たけなわの時であった。
あまりの不意打ちに私は腰が抜けてダンスフロアで尻餅をついてしまった。
「そして、今日より、伯爵令嬢ヤンケルとの婚約を発表させてもらうっ!」
伯爵令嬢ヤンケルは黒王子さまの横に立ち、私を見下すように見下ろした。
私が尻餅をついていたからね。
「ど、どうしてですかっ!! 私は希有な全属性持ちの選ばれた存在なんですよっ!!」
「だって、タロウル、君は魔力が子供並しか無いじゃないか、それでは全属性持ちといえど王妃はつとまらない、ヤンケルは火属性のみといえど、膨大な魔力量を誇る!」
なんてことなの!!
無駄に大きい巨乳のようにヤンケルの魔力量はそれはそれは無駄に大きいけれども。
な、七色の全属性持ちと言われた私だけど、なかなか胸も魔力量も育たなかったけれどもっ!!
なんというショック!!
余りの事に手がわなわな震えた。
こんな大衆の面前で婚約破棄をされたという評判が付いては他国にも嫁にはいけず、結局女子修道院で女神さまの像を磨く一生が待っているにちがいないわっ。
『 能力があるかないかなんて、だれにもわからない。自分を賭けることで力が出てくるのであって、能力の限界を考えていたらなにもできやしないよ。むしろ能力のないほうが素晴らしいんだ、と平気で闘えば、逆に能力がひらいてくる』
なにか心の奥底から力強い言葉がまろびだしてきた。
なんだろうこの力は。
そうだわ、全属性を使えるというのは私の個性、個性を信じて生かせば良いのよっ、そう、オカモトタロウも言っていたわっ!
オカモトタロウが誰かはとんと解らないけれども、とても力強い言葉で私の背骨がまっすぐになった気がしたわ。
わたしは立ち上がり、黒王子さまに立ち向かった。
「お断りだわっ!! 魔力が少ないからって何よ!! 不利な条件と真っ向から取っ組み合ってこその人生よ!! だから婚約破棄をお断りするわっ!!」
「なっ、なにいっ!!」
そうよ、黒王子がイケメンだからと言って、なんでも気後れして言うとおりにしていたタロウルは死んだのよ!
一度死んだ気になって世間の荒波に立ち向かえば良いのよっ!!
私の個性は全属性の魔法が使えること!
それは言ってみれば私の心の中に全宇宙があるのと同じ意味なのだわ。
魔力が小さい、それは些細な問題よ!
全てがあるなら、それを組み合わせて自分の全存在を爆発させれば良いのだわ!!
私は心の中で魔法を起動させる。
全てを作り出せる!
なんだか不思議な全能感が私を包む。
追い込まれた時こそがチャンスなんだ!
硝石、炭素、硫黄を組み合わせる。
それぞれ発生させる量が微量でも、組み合わせれば。
私の背後でその物質を反応させる。
背中に陽が当たったような熱感、そして耳をつんざくような轟音!!
芸術は、爆発だ!!
チュドーーン!!!
「な、なんだあの爆発はっ! ま、まさかタロウルが引き起こしたとでも言うのかっ!! そして、なんだ、あの怪しい太陽のような顔はっ!!」
すこし爆発にふさわしい図形に沿って起爆してみたわ。
心の中に浮かんだ姿、それこそが爆発なのよっ!
「王子さまっ!! これでも私と婚約破棄すると言うのですかっ!!」
黒王子は気圧されたように一歩下がった。
伯爵令嬢ヤンケルも一歩さがり、無駄に大きい巨乳が揺れた。
くやしい。
「そ、その爆発は、君が自在に作り出せるのか」
「もっともっと凄いのも爆発できます、でもここは室内だから」
「ヤンケル、計画を変える、タロウル、屋上へ来い!!」
「え、え、なんでですか?」
「さあ、タロウルさま、こちらへ」
ヤンケルは私を誘った。
黒王子さまは走り出し王宮の階段を二段飛ばしで上がって行く。
ど、どこに行くの?
黒王子とヤンケルが私を誘ったのは王宮の一番高い塔の屋上だった。
「いま、魔王軍が我が領土を進軍中だ、明日にも王都は蹂躙されるだろう。形ばかりの婚約者であるタロウルだけでも逃がす計画であったのだが、その魔法、使えるかもしれん」
「そうですわ、子供並の魔力では全属性の魔法が使えるとしても魔王軍にはかないませんが、あの爆発、そしてもっと凄い爆発があれば、道が開けるかもしれませんわ」
な、なによ、ヤンケルは悪い巨乳じゃなかったのね。
黒王子も私に愛想を尽かした訳ではなくて、逃がそうとしてくれたの?
なんて水くさいのっ。
「そんな目をするな、お前が死ぬよりも、私とヤンケル、そして選ばれた魔法使いで逃げる時間を稼ごうとしただけなのだ。王族の勤めだ」
「おうじさま~~!!」
私は感極まって黒王子に抱きつき泣きじゃくった。
「さあ、お前の魔法で、奴らを撃退できるか!?」
「出来ますとも、たとえ出来なくてもやってみます!!」
そうよ、マイナスに飛びこめとオカモトタロウも言っていたわ。
私は精神を集中して、遠い国境の魔王軍の大軍の前に微細な物質を作り出す。
それは仕掛けは解らないのだけれど、大量に集まると、何やら凄い反応をする物質。
タロウの世界でも恐れられている究極の反応。
私は全属性魔力の全てを使ってウラニウムを創造していく。
「まだか、まだかっ」
「王子、ヤンケル!! 伏せて、直視すると目がつぶれますっ!!」
魔王軍の大軍の前に、ウラニウムが顕現していく。
そして、臨界点を突破して反応が始まる。
カッ!!
地上に太陽が降ったような巨大な輝きが発生した。
私は鉛入りの硝子を目の前に創造して視力を守る。
チュドーーーーン!!
巨大な爆風と共に魔王の軍勢は吹き飛ばされた。
後には巨大なキノコ雲がむくりこくりとうごめいている。
とても不吉な光景だ。
「あの爆発の直下では毒の雨が降り、しばらくは生物に害があります」
「あの軍勢が、一瞬で……」
「凄いです、タロウルさま……」
黒王子は私をぎゅっと力強く抱きしめた。
「これで我が王国は救われた、ありがとうタロウル。君は王国の守護者だ。結婚しよう」
「……はい」
私は幸福感に包まれた。
なんでも諦めてはいけない。
人生に立ち向かう勇気がなければ、決して幸せにはなれない。
そう、たなびくキノコ雲に掛かったタロウ風の顔が教えてくれているような気がした。
抱き合ってキスをする私たちをヤンケルは拍手をして祝福してくれた。
巨乳がゆれていて、それだけが少し悔しい。
(おしまい)