後編ー①
一話投稿の予定でしたが文字数が多くなってしまったので
二回に分けて投稿します。
「わぁー! さすが王子様。教え方がお上手ですね!」
「ええ? そうかな?」
「‥…‥‥‥」
「ウフフ。もちろん。ご謙遜なさる王子様って素敵です」
「ははは」
「‥…‥‥」
キャッキャウフフとじゃれ合う二人に挟まれて今針の筵状態になっている王子様の婚約者の私。
何故こうなったの。
放課後の勉強会に突然王子様がいらっしゃって、この状況。
女子さん達は王子様同席だと気後れするので帰ってもらった。
今は彼と私と男爵家の彼女の三人。
姐さんには‥‥逃げられた。くぅぅぅ。
「ええ~そうですよ~。私今迄何度も聞いてもわからなかったんです。
でも王子様が教えて下さったら直ぐに分かりましたもん。
やっぱり教える方によって違いますよね!」
「‥…‥‥‥」
この子、あからさまに私達の教え方が悪いって言ってる?!
何この子性格悪くない? 王子様、こんな子が好いの?
「ああ、いつも王子様が教えてくれたら私の成績なんか直ぐに上がると思いますぅ~」
上目遣いに頬を朱に染めて王子様にすり寄る彼女の魂胆が透けて見えて嫌になる。
王子様、本当にこの子が好きなの?
「そこは自力でお勉強なさいませ。授業を真面目に聞いていればわかりますよ。
それでも理解できないのでしたら先生に質問されてはどうでしょう。
先生も生徒が何処で躓くのかわかられて宜しかと思います」
彼に勉強を見てもらおうだなんて、図々しいにも程がある。
ポヤポヤしていてもこの人は王子様。意外と忙しい身の上なの。
学園内のまとめ役は王族の中からと決まっていて責任者の立場を与えられた。
と言っても生徒間同士でのことだけど。教師や学園に対するのは別な話。
今の学園にいる王族は彼だけ。彼が忙しいのは必然なの。
そんな身の上だから、彼女のお強請りは俄然反対します。
幾ら好き同士でもこれはダメ。却下します。
はぁ、王子様の立場がわかっていればこんな我儘言わないでしょ? 違う?
‥‥王子様の初恋を応援しようと意気込んだけど、彼女性格に問題ありかも。
ああどうしよう。
彼女は一瞬何を言われたのか分からない顔をしたが意味がわかったのだろう。
突然泣き出した。
「うぅ、ぐす‥‥ぐすう。
わ、わたしの身分が低いからですか、そんな意地悪なことを言うのは。
ひ、酷いですぅ。そんなに私のことが嫌いなんですかぁ、ぐすん。
私と王子様が仲良くしているからって僻まないで下さい‥‥ううぅぐす」
「「はあ?」」
ん? 今私と被ったの王子様だよね?
王子様、しまったって顔してもダメですよ。私見ちゃいましたから。
そんな横向いてもバレてるから。
王子様に構ってもらいたいから泣き真似ですか。困ったちゃんか。
彼女、泣いては王子様をチラリ。また涙してはチラリを繰り返している。
ええーこれメンドクサイ。
私は横目で彼をチラ見する。彼も気不味そうにこちらをチラ見。
なに? 王子様慰めないの? 貴方の想い人でしょ?
王子様、大きな溜息吐いたわ。
‥…あれ? 変な違和感がある。
「そうだね。私の婚約者の言う通りだよ。私は暇ではない。
まずは自分で復習をしてその上で分からなければ教師に聞けばいい。
教師も生徒からの求めに真摯に応えてくれるだろう。うん、それがいい!」
王子様。丸投げかよ。
‥‥この人本当に王子様? いつものピュアピュアさが陰っている?
なんだか別人っぽい‥…。
私の訝しむ視線に気が付いたのか徐に彼が、急に忙しいアピールをしてきた。
「あーーーーもうこんな時間か! ああ、しまった!
私は予定があったんだ! すまないがこれで失礼するよ。あとよろしくね!」
王子様は私達を置き去りにしてさっさと逃げ出した。
「「えっ?!」」
王子様が王子様でない‥…。
いつもと違いすぎる対応じゃない?
残されたのは彼女と私…‥めちゃくちゃ空気が悪い。やだな。
「えー王子様、帰っちゃった! 信じられない!
あーもうやる気ないわー。私も帰ろうっと」
「えっ?」
ちょっとちょっと貴女、勉強教えてもらう身なのに何勝手に帰ろうとしてんの。
礼儀知らずも甚だしい。この子このままだと不味いわ…。
社会人‥‥もとい淑女として貴族社会で生きていけないわ。
私の中のおかんが顔を出して来た。
この傍若無人なこの子を私が躾けないと! 変なスイッチが入ってしまった。
私は帰宅準備を始めた彼女の首根っこ捕まえて、貴族に必要な常識を叩き込んだ。
**********
「ねえ今日は一緒に帰れる?」
「あっ王子様。申し訳ございません。
放課後は彼女をしつけ…もとい、礼儀作法を教える予定です」
「えっ。また? 最近、彼女とばっかりだね」
「申し訳ございません」
王子様のお誘いだけど、これは譲れない。
「ねえ、僕王子だけど。僕からの誘い断るんだ」
「はい。存じ上げておりますがこれも王子様の為です。お許しくださいませ」
「ふーーーん。わかった、一人で寂しく帰るよ」
ん? 王子様やけにつっかかるな?
私は貴方の真実の恋に手を貸しているんですけど?!
‥‥やっぱり最近の彼、何か変ね。
私はここ最近ルーティン化した彼女の躾のために、待ち合わせの教室に向かった。
さあ、今日もはりきってビシバシやるぞ!
ちなみに女子さん達による『王子様の訪れた春を応援し隊』は解散です。
ええ、残念ながら。
彼女の規格外すぎる非常識さに皆さん心が折れました。そうぽっきりと。
私も折りたかったのに、王子様の世話を焼き過ぎた弊害か全く折れませんでした。ええ、残念です。
ですので今やマンツーマンレッスンです。ええ、本当に残念でなりません。
*******
王子様とのこのやり取りもルーティン化しちゃいました。
何の因果か私は王子様よりも彼女と過ごす時間が多い気がします。
腑に落ちないけど。
王子様からブーブー不満が出ちゃってますが、それは自業自得では?
そして今日も今日とて同じ会話が‥‥‥。
「ねえ、今日は?」
「申し訳ございません。今日も無理です」
「‥‥‥そればっかりだね」
そう言われても今の進捗では毎日でも足りないぐらい。
ちょっと王子様、我慢なさい。
ほっぺを膨らませてもダメです。可愛いけど。
「‥‥僕も一緒に行く」
「え?」
王子様、そんなにあの子と一緒にいたいの?
そう思うと胸がチクリと痛みだした。
王子様は私を選ばない‥…頭の片隅にあるこの想いが私の心を苦く悲しい想いで満たしていく…。
ああ、嫌だな。王子様の幸せを願うのが辛くなる日がくるなんて‥…。
私の気持ちは沈んだまま王子様と一緒に待ち合わせの教室を訪れた。
良かった彼女はまだ来ていない。
王子様と仲良くする彼女の姿を見るのは辛い。
私は自分が思った以上に王子様に好意を抱いていたみたいだ。
王子様に恋心なんて抱くわけないじゃんって、高を括っていた自分に説教したい。今更だけど。
「‥‥ねえいつまで続けるの。これ」
「いつまでと申されても。彼女次第でしょうか」
「‥…もう止めない? どうも身に付いていないようだし」
「‥…それは、わたくしの力不足と言うことでしょうか」
王子様の為を思っての行為をこうも否定されると中々きつい。
喜ばれるのも微妙だけどダメな奴と思われるのはもっと辛い。
認めて欲しい‥‥とまで言わない。でもせめて労いの言葉は欲しい。
「違う。君の努力と献身はわかっている。君に落ち度はない。
あるとすれば彼女だ」
「え? そ、それだと彼女と一緒にはなれませんよ?よろしいのですか」
「うっ‥‥、そのことなんだけど、聞いてほし「あっ! 王子様!」…」
へ? 王子様の言葉遮ったの? ちょっと!
あれほど注意したのにあの子は!
声のした方を見ると案の定の彼女がニコニコ顔で走り寄って来た。
犬か! 走るんじゃありません!
「やだ~王子様来てたんですね。だったら私、もう少し早く来ればよかった。
すみませんお待たせしちゃいました? 先生に頼まれ毎があって遅れました」
めっちゃ嬉しそうに王子様にすり寄る。
彼女、淑女らしさが全く身に付いていなかった。うう凹む。
ああ、王子様の表情が硬い。貴女、遮っちゃたのわかってる?!
「王子様、お時間が無いのに私の為に来てくださったんですね。わぁ嬉しい!
私の為にありがとうございます!」‥…ドヤ顔か。
そして王子様の腕を組もうとした…‥のだけど、王子様はその手を払い冷静な声で彼女を窘めた。
「未婚の男女が気安く体に触れるのは貴族として致命的な行為だよ。
どこで誰が見ているかわからないからね。そんなことも知らないのかな君は」
「え? お、王子様‥…」
彼は呆れた顔で彼女を一瞥した。
「彼女への個人レッスンは時間の無駄だと思うな。もう潮時だろう」
彼から意外な言葉が‥‥。
「これからは妃教育と私のサポートをしてもらいたい。
今以上に忙しくなるだろう。礼儀作法など家の者に教わればよい。
男爵位の娘は高望みなどせず身の丈のことをすればよいだろう」
「「えっ?! お王子様?」」
私と彼女の声が被った。これは仕方ないわ。
彼女は驚愕って顔だけど。口閉じてね。女の子でしょ。
「ふむ。私は伝えたぞ。さて帰ろうか」
そういって満足顔の王子様は私の手を取り教室を後にした。
一人残された彼女の怒鳴り声が教室に響いたのを耳にして。
*******
王子様と同じ馬車の中です。居た堪れない。
話がしたいと言われ同乗したのだけれど‥…。
私の思考が追い付かなくて困ってる。
待ってよ、王子様の初恋はどうした? 真実の愛はどこに?
頭の中はクエスチョンマークだらけです。
だって、王子様、横並びでピッタリ密着状態で座っています。
隙間よ何処に行った‥‥。
おまけに腰に手を回してくるし。どこでこんな技覚えたの? また悪い人に引っかかった?
いつもと違う行動をされて内心プチパニックです。
「ねえ、もっと僕と一緒に過ごしてよ。あの子のことはもういいから」
王子様らしからぬ言葉に驚いた。
「えっ? 王子様の真実の愛のお相手ではありませんか」
王子様はバツの悪い顔で、
「ああー、それは‥‥。もう忘れて欲しい。
あの時は‥…ちょっとおかしかったんだよ」
いえ、いつも通りの王子様でした。
その手に引っかかるだろうとも危惧しておりました。なんて言えない。
今の王子様は彼女に好意も未練もなくて逆にあんな子に惹かれたのかが分からないと首を傾げておいででした。
これはもう姐さんだね。姐さんに聞くしかない。
頭のメモに緊急案件と書いて彼との話を続けた。
*******
「と言うことがあったの昨日。姐さんどう思う?」
「‥…それは、強制力か? でもそれなら続行するよね?
ああ、だったら魅了か! なら説明が付くわ!
最近あの女、王子様ではなくて貴女といたでしょう?
それで魅了の効果が落ちたとか?」
「ごめん、通じる言葉でお願いします。それと語尾、疑問形だよ」
姐さんによくある転生ものの小説の話を聞いた。でもわからない。
姐さん。もういいじゃん! だって。そりゃそうだけど。
こうして王子様の浮かれた真実の愛は棚上げとなった。
副産物なのか私と王子様の距離が近くなり以前よりも一緒に過ごす時間が増えちゃった。
それは…良かったんだけど。
最近の王子様、距離感がバグってる。
近いのよ。全てが近距離!
歩く時も手を‥‥恋人繋ぎに握ってくるし、着席時は隣り合わせで密着状態。
隙間!どこだ!
会話も息がかかる近さでするし。
もう、ドキドキしっぱなしです。
これで意識しないのは‥‥女としていろいろ終わった気がします。
以前は弟か近所の子供のような感覚で接していたのに今や年相応の男の子。
うわーん。まてまて。私の方が精神年齢上だから! 相手は年下!(精神年齢が)と自分に言い聞かせる日々です…‥困った。
やっぱり王子様、悪い人に唆された?
続きも投稿します。
お読み下さりありがとうございました。