中編
前編を短編で投稿しておりました。すみません。
前編・中編・後編の三部作です。
お楽しみいただければ幸いです。
姐さんこと公爵令嬢の友と私は同じ境遇の者同士で仲良くしている。
私らにはこの世界とは違う世界で生きていた記憶がある。
どうも同時代に生きていたらしい。
年齢も近く…友の方がちょっと年上だったので姐さんと私は呼ぶ。
気心がね、なんというか気骨のあるというか姉御な感じなの。
それでいて乙女な部分もあって。その姐さんの愛読書に乙女ゲームの転生小説シリーズがあるの。私は門外漢だけど。
その姐さん曰く。この女は乙女ゲームのヒロインポジじゃないかと。
そしてシナリオ通りにイベント起こしてんじゃね? だって。
ふーん。としか言えないわ。
なんでそんな律義にシナリオなぞるかな?
転生したんだったら新たな人生歩んだら?
えっ? 醍醐味? 何が?
時々この女子友の言葉が分からなくなるの。
えっ? 言ってる言葉は分かるの。只ね、内容が意味不明なの。
推しとか逆ハーとか、断罪エンドって何よそれ。不穏なワードじゃん。
えっ? 腹黒王子? ヤンデレ? はあ‥…ねえ大丈夫貴女?
まあそれは置いといて。
「ねえ。問題はうちの王子様よ! アレどうしようか?」
言い難いんだけど初恋らしいの王子様。今頃かよ。
お相手の女子がいい人だったら後押ししようかと思ったんだけど。
悪い虫ついちゃったらどうしようか心配なんだ。おかん的に。
「そうかー。初恋か~。ああ甘酸っぱい響き。あたしなんて初恋いつだったか忘れたわ。したのかどうかも覚えてないわ~。いいねぇ若い子は」
「ね、姐さん。姐さんも若いよ? 王子様と同い年なんだから」
「あっそうだったそうだった。わははは」
女子友が酔っ払いに見えるわ。
美味しそうに銜えているお菓子が『あたりめ』に見える。錯覚か!
「ああそれより王子様だったね。さてさて難問だ。それでその女、どんな奴なの? 私的には碌でもない女と見たな」
女子友は断言したけど、それは失礼じゃないかい?
「えっと、確かFクラス?の男爵令嬢なの」
「はっ? Fクラス? マジで? 出来ない子の入るクラスじゃん。しかも男爵? やばいなそいつ。貴族の暗黙のルール軽く無視して。そいつ絶対確信犯だって」
そう私らが通う学園のクラス分けは非情な成績順。
悪魔的学園支配者の意向で順位制なのよ。
私と王子様と女子友は特待生クラス。高成績者が在籍する。自慢? してないしてない。
「ちょっとちょっと! それは不味くない? 仮にも王子様のお相手でしょ? せめてクラスだけでも特待じゃなきゃ。釣り合わないじゃん!」
「そうなのよ。そこで躓くでしょ? 身分差もあるしね。王子様の初恋を実らそうと思えば彼女に頑張ってもらうか王子様に地に落ちてもらうかしかないわけ。悩みどころよね」
「そうよね。やっぱりそうくるか」
「これはあたしらでは荷が勝ちすぎる。助っ人呼ぼう!」
「そうだね。女子さん集めよか」
こうして私達は、重責から逃れがたいために責任の所在を分散することにした。
えーだって一人で背負いたくないもん。やだよ。
さて久し振りのおもろい案件。どう楽しませてくれるやら。
女子さんにメッセージを飛ばして急遽、明日集合となった。ごめんね皆忙しいのに。ちょっと面白過ぎて。私達だけで楽しむのもねぇ~。酒の肴‥‥じゃなかった。面白いネタ掴んじゃったからお裾分けよ。よろしくね。
「ねぇねぇ、他に王子様から聞いてないの?」
女子友がオバチャンに見えるわ。
「あるよ。あるある。運命の女性と思ったのが、何かの拍子でお互いの手が触れて。そしたらビリって衝撃があったんだって‥…」
「はっ? 静電気?」
「だよね。私もそう思う」
女子友堪らず爆笑してる。
「ちょ、ちょっとなんで静電気が運命になるわけ? 王子様そこまでおもろかったっけ?」
「それがさー違うんだ。王子様が言ったんじゃないの。お相手の子が、これは運命ですって叫んだらしい。どうも押し切られたっぽい」
「マジか! そいつ王子狙い決定じゃん!」
「そう思う? でもさ王子様婚約者いるよ? なのになんで手を出すの?」
「あーそれが醍醐味! 攻略対象者を堕とすゲームだからね。自分の魅力で誑し込むからさ。また格別なんだよね!」
もう女子友の言葉が意味不明過ぎで頭に入りません。なにそれ最低ー。女の敵。
さんざん女子友と盛り上がり(酒もないのに)お相手の子がなぞっているシナリオの粗筋を教えて貰って明日に備えることにした。
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次の日。
私と女子友と女子さん達は学園内にある学習室を陣取って緊急会議という名の女子会に花を咲かせている。
勿論酒はないよ。お茶とお菓子だよ。
議長役は女子友だ。まず挨拶からね。
「さてお忙しい中お集まりくださり誠にありがとうございます。今日の課題は『王子様に春が来た』でございます。えー皆様には忌憚ない意見を述べて頂きたくこの会議では無礼講でお願いしたいと存じます」
無礼講って‥…酒の席じゃあないっての(笑)
わいわいがやがや。淑女はどこに行ったのやら。
この場では‥‥というか私達と女子さん達の間に身分はない。
実際はあるんだけど、高位貴族の私らが気にするなと言ってあるので私的な集まりではざっくばらんだ。
おっ、どうやら意見がまとまった。
「では我らは『王子様の訪れた春を応援し隊』としてあらゆるサポートを行なうことで王子様の初恋を実らそうではありませんか」
満場一致だって。
ああもうね。皆の顔、笑ってるし。君達おもしろがってるね。
まあいいけど。
「それでは今後の計画を考えないといけませんね」
「そうですね。まずお相手の男爵令嬢の成績を上げるところからでしょうか」
「ええ。それが妥当でしょう。まさか王子様を王子の位から引き摺り下ろすのも首が飛びそうで恐ろしいですからね」
「ええまったく」
「では男爵令嬢のレベルアップを私達で…‥。私達では人手が足りなくて? あと数人呼びかけませんこと?」
「ああそれもいいかもですね。適任がいらっしゃればその方も引き込みましょう」
私達は有意義な話し合いを終え応援支隊の活動を開始した。
お読み下さりありがとうございます。
あと一話で完結です。