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クラスの問題児、小豆君の悩み事

作者: ムドー

主な登場人物

橋田智子__二七歳__女性__気が強い女性。クラスの担任を持っているということもあり精神面でも強く、他の先生からも信頼されている。ただ、教頭先生は苦手な模様。また、面倒なことになるとわかっていても困っている人がいたら助けるタイプ。(ちなみに身長は一六二センチ)


小豆太一__高校三年生__男性__とある悩み事を抱える男子生徒。しかし、それが原因で暴走してしまう。

「小豆君、なんで今日、お前が生徒指導室に呼ばれたかわかるか?」

「うーん、よくわかりません」

「天誅!」

「いてっ! 何するんですか橋田先生」

「お前の自覚のなさに私の水平チョップがさく裂しただけだが?」


 ああ、なんでこんなことをしているのだろうと私____橋田智子は思う。私は今、うちのクラスの問題児____小豆太一の指導をしていた。


「どうして、あんなことをした」

「あんなこととは?」

「どうして、教室の椅子を勝手に改造したかと聞いているんだ!」


 そう、この小豆君は、こともあろうか学校の備品である椅子を改造して、自分が座る席だけを高くしたのだ。


「しかも、お前の教室だけでなく、移動教室した時の席にまでやるとかおかしいだろ」

「…………」

「天誅!」

「あいたっ!」


 なんか、僕なんか悪いことしましたか? みたいな顔をしていたので、次は水平チョップよりも威力が高いクロスチョップを食らわせてやった。橋田先生、それは体罰ですよ! とほざいている小豆君は無視だ無視。


「というか、ここ最近の小豆君はなんか変だろう」

「……へへっ、やっぱりわかっちゃいますか」

「そりゃ、誰でもわかるだろう、ここ最近のお前は自分の身長を盛ろうと躍起になっている。そうだな?」

「その通りです」


 小豆君の身長は約一五〇センチと一般男子生徒の中では小さい方だろう。それを気にして、高校二年生あたりからやたらと自分の身長を盛ろうとしている。最初は可愛いものだった。身体測定の時に、踵をこれでもかと上げ、背伸びをして身長を高く見せようとしていたのだ。その場にいた全員は、空気を和ませようとしてやっているのだろうと思っていた。しかし、当の本人はまじめだったようだ。


 それからも小豆君は自分の身長を盛るためにいろいろなことをしていた。しかし、そんな日々が続いて高校三年生に進級したあたりからどんどんおかしくなっていった。


「おいっ、小豆君。どうしてお前の上履きだけ厚底靴になっているんだ」


 この学校では、上履きは学校が指定しているはずなのに、小豆君の上履きだけ厚底靴になっている。しかも、見た感じだと十センチぐらい盛っているぞこれ。よく堂々とこんなものを学校に履いてきたもんだ。そう思い私は小豆君の言い分に耳を傾ける。


「なんでですかね、靴が成長期でも迎えたんですかね」

「天誅!」

「あいたっ!」


 この時の私は、これはただのおふざけと思い、注意してその場は収めた。しかし、これは、小豆君が問題児へと変貌する序章でしかなかった。


「おっおい、小豆君。その髪型はいったいどうしたんだ」


 あの厚底上履き事件から数日後。次は彼の髪型がまるで少し大きめのゴミ箱のような形をしていた。その高さは、私の二分の一ぐらいの大きさだ。その圧巻の髪型にさすがの私も目をこれでもかというくらいガっと見開く。


「うーん、なんですかね。妖精がいたずらでもしたんですかね」

「…………」

「えっと、そう! 寝ぐせです」

「天誅!」

「ああ! せっかく2時間かけてセットしたのに」


 という感じでこんなのばかりだ。お前のクラスの担任である私の身にもなってくれ。この前なんて、職員室で教頭先生にお前のことで注意されたんだぞ。そして、その後に他の先生たちに笑われながら慰められるんだ。ああ、精神的に疲れる。

 そして、今回は学校の備品に手を出し生徒指導室行きとなった。本来ならば、生徒指導の先生がいるのだが、頼み込んで私が担当させてもらうことにした。これでも一応こいつの担任だからな。あと、何でこいつがこんなことをするのかが気になっていたからだ。


「で、どうしてお前は自分の身長を盛りたがるんだ」

「実は、僕には好きな人がいるんです」

「ほう、そうなのか」

「同じクラスの葛原悠花です」

「いや、そこまで聞いてないんだが」


 どうやら、小豆君は、同じクラスの葛原のことが好きらしい。それがどうして今回の事件につながるんだ?


「葛原って、身長がかなり高いじゃないですか」

「そうだな、一応バレー部ではエースを務めているしな」

「なんか、好きな女の子よりも男の方が身長低いとか恥ずかしいじゃないですか」


 え、そんな理由? と私は思った。しかし、これはそう簡単に流してしまってはいけない気がした。こいつは身長にコンプレックスを抱えていて告白できずにいる。

 ましてや、小豆君は恋の問題を抱えている。これを鼻で笑ってはかえってまずい。ここは先生として。いや、人生の先輩としてアドバイスをしてあげよう。


「まあ、なんというか。葛原のやつがそんなことをお前に言ったのか?」

「いや、それは言われてませんけど……」

「ということは、だ。それは全部お前の思い込みなんだよ」

「でも、普通の女子は自分よりも小さい男子と付き合いたくないって……」

「……お前はそうやってなにかと理由を付けて逃げているだけなんじゃないか?」

「……っ、そんなことは……」


 小豆君は私に言われたことに対して言い訳をしようとしたが、まるでのどに何かが詰まってしまったかのように黙り込んでしまった。先ほどの饒舌だった彼からは考えられないな。


「……先生、僕はどうした良いんでしょうか」


 彼は深くうつむきながらそう私に聞いた。なんだ、こうしてみるとこいつもそこら辺にいる男子高校生と一緒じゃないか。ただただ好きな子に告白することができずにもやもやしているだけのただの男子生徒。まあ、完全に脱線の仕方がおかしな方向に向かったことは例外だが。


「……まあ、とりあえず葛原にアプローチするなり、当たって砕けるなりしてみろ。お前の行動力ならできるだろう」


 まあ、こんなところが無難なアドバイスだろう。小豆君の悩みの原因を指摘することで、彼自身が納得するようにその悩みを飲み込ませ、私の助言を受け入れやすい状況をつくる。我ながら良い感じだったと思う。


「……それでもだめだったときはどうしたらよいでしょうか」

「その時は、またこうして私と進路を決めらば良いだろうが」

「……そうか、そうですよね! 分かりました、僕頑張ってみます!」

「その意気だ」


 そういって小豆君は、失礼します! と大きな声を上げて教室を去っていった。教室の外から……たったった、と廊下を走る音が聞こえる。どうやら彼は今すぐ葛原に告白しに行ったようだ。普段なら廊下を走るなと注意をするところだが、今回だけは免除してやろう。うら若き若者が今羽ばたこうとしているのだ。それを邪魔することなんて誰にもできやしない。

 

 彼は悩みを乗り越えて前に進むことができるだろうか。いや、それは私が考えることではないな。それを決めるのは全部小豆太一次第だ。私がここで何を考えようともその結果に影響を与えることはできない。さあ、感傷に浸ってないで仕事でもしようか。

 

 そうして、私も彼が出ていったドアを開け職員室に向かう。今まではあんなに小豆君のせいで職員室に向かう足取りが重かったはずだった。でも今はそんなことはない。正直、ついさっきの彼のように走りたい気分だ。まあ、職員である私には廊下を走るなんてことなんてできやしないが……。

 そんな意味のないことを考えながら、私は職員室に向かうのだった。



☆☆☆



「で、なんであんなことしたんだ」

「あんなことって、どんなことですか?」

「…………」

「あれ、先生。言ってくれないとわからないなぁ~。あんなことってどんなことか教えてください」

「……それは」

「うんうん、それで?」

「天誅!」

「アイタッ!」


 どうしてこんなことになってしまったのだろうか? 私____橋田智子は後悔しながら、今とある男子生徒と生徒指導室にいた。


 以前の問題は解決したはずだ。そう思っていた。しかし、さらなる問題が起きた。それは……。


「どうして、『橋田先生愛してます。付き合って下さい』なんていう横断幕を学校に取り付けなんかしたんだ!」


 なんと、件のとある男子生徒____小豆太一はあろうことか、部活動で全国優勝した時に使うような横断幕を使い、私に愛の告白をしてきたのだ。まあ、そんなことしたから彼は生徒指導室行きとなったわけだが。


「本当は、付き合って下さいを結婚しましょうにしたかったんですけど……」

「天誅!」

「アイタッ!」


 私はおかしなことを呟いていた変態に、脳天チョップを食らわす。


 本当にどうしてこうなってしまったのだろうか。私は、あの生徒指導室でのやり取りからのことを思い出す。


 あの日から小豆君は葛原に猛アタックをしていた。葛原は、小豆君の告白を何度も断っていたらしい。しかし、彼のことだ。そんなことはお構いなしで何度もぶつかったというわけだ。その話を聞いたとき私は彼が一皮むけたようで良かったと安心したものだ。


 そんなとき、私は彼から相談があると言われた。そこで私達はいつもの生徒指導室で話し合うことになった。


「おい、小豆君。一体どうしたんだ?」


 そこで彼に会うと彼は相当落ち込んでいるように見えた。


「実は、葛原に振られちゃって」

「また、振られたのか。でも、どうしてそんなに落ち込んでいるんだ、今までそんなに気にしていなかったじゃないか?」


 そう、彼は今まで何度振られようともあきらめずに葛原に告白していたではないか。


「実は葛原に『私より身長の低い男性は恋愛対象じゃないの、ごめんなさい』って言われたんです」


 と言われ彼の当初の危惧が奇しくも当たってしまったというわけだ。しかし、それでどうして私を呼んだのだろうか。慰めてもらおうとでもしているのだろうか? それか先生の言っていることは間違っていたと言って私を責めるのだろうか? とそんなことを思っていると……。


「ということで先生。いや、橋田さん。僕と付き合ってください!」

「…………はぁ?」


 え、今なんて言った? 今こいつ私に告白しなかったか? もしかして、私を葛原だと間違っているのか? そうか、こいつはあまりのショックで私のことを葛原だと勘違いしているんだな。こいつだったらやりかねない。


「おいおい、小豆君。私は葛原じゃな……」

「いえ、葛原ではなく、先生に言っているんです!」

「…………え、わたしに、か?」

「はい、そうです」

「いや、でもどうしてだ」

「それは先生が言ったからじゃないですか」

「私が言った? 何をだ」

「それは先生が『その時は、またこうして私と進路を決めらば良いだろうが』って言ったじゃないですか」


 いや、待て。確かにそれは言った。だけどそれは、お前が葛原に振られて落ち込んでいるなら相談に乗ってやるという意味で言ったんだ。なんで私がお前に告白させる事態につながるというんだ。


「『私と進路を決めれば良い』つまりこれって僕と先生が同じ進路を行く。同じ進路、すなわち一生僕と先生は寄り添いあう。つまり、先生と僕が付き合うって意味で良いですよね」

「どういう解釈したらそうなるんだよ!」


〈回想終了……〉


 ということがあり、私は小豆君に追い回されるようになったというわけだ。はあ、本当にどうしてこうなったのだろう。私はただ一人の男子生徒の手助けになればと思っていただけなのに。そう思いながら職員室の机で突っ伏しながらうなだれていた。


「橋田先生、よかったじゃないですか、先生にもようやく彼氏ができるじゃないですか」


 と、私の隣の席の、男子から人気のある女教師____星宮夏希が言ってくる。


「よくないですよ、先生と生徒が付き合うとかもってのほかです」

「ええー、いいじゃないですか! 先生と生徒の禁断の恋とか燃えるじゃないですか」

「はあ」


 なんだか興奮している彼女を軽くあしらいつつ、私はまた机に頭をのせる。だらしないのはわかっているがこれぐらいは許してほしい。これをしている時が一番楽なんだ。あんな奴に四六時中、愛の告白をされるとか意味が分からん。やるならせめて普通の告白をしてほしい。いや、普通の告白もしないでほしいのだが。なんだか毒されてきた気がする。


「疲れている先生も可愛いですね」


 その声を聴いて肩をビクッと揺らす。後ろをゆっくり振り返ると……。


「付き合いましょう、橋田先生」


 奴がいた。


「もう、勘弁してくれー」


 そうして、私は逃げるように職員室から立ち去ったのであった。


 あーあ、逃げちゃった。


 先生は僕から逃げるように職員室を出て、廊下をバタバタと駆け出す。普段は廊下を走っている生徒を注意する側の先生が廊下を走っている。せっかくサプライズで先生に告白しようと思ったのに。傷ついちゃうな。


「本当のこと、言っちゃえばいいのに」


 職員室を後にしようとしている僕に星宮先生が声をかけてきた。


「なんのことですか?」

「もう、とぼけちゃって。本当は相談に親身に乗ってくれる橋田先生のことが好きになっちゃったって」

「いやですよ」

「えー、どうして?」

「だって、好きな女性に、本当の好きな理由を話す男って、なんか恥ずかしいじゃないですか」


 彼はもじもじと顔を赤らめて下を向く。その様子に星宮はこうしてみると普通の男子生徒なんだよな。まあ、やることがおかしいの以外は__と思うのであった。


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