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第1話 祖国

―大陸暦 1421年12月25日 フラーニュ・ヴィトルの山―


「よりによって、ターゲットはここか。・・・・・。」


(これから俺は、愛する祖国の、母なる故郷を、家族すらを血に染め上げのか。

でも仕方がない。今は戦争中で、祖国フラーニュは敵なのだから。)


アドンは、故郷ヴィトルを一望できる、よく幼少に登った思い出深い小高い山から街を見下ろし、

グリーツの甲冑を身にまとい、剣を振り上げ、『友軍』とともに街をめがけて走り出した。



―大陸暦 1420年7月16日 フラーニュ・ヴィトル市街地―



「今日も補講か。」


俺は深くため息をつきながらそう呟いた。


(平和だ。俺が生まれたフラーニュ王国は、大陸の西側に位置する比較的先進的な大国だ。

1400年にグリーツ帝国との大戦争が終結してからここ大きな戦争もなく実に平和。

兵役なども無く、経済も成長期真っ盛り、だから『学業』なんてことをやらされている。

しかしこの学業ってやつは、何かと上手くいかないから嫌いである。)


「はぁ・・・」


ため息が出る。


(俺が小さいころ夢見ていた将来は、国の英雄になることだ。東の悪の枢軸、グリーツに

天の罰を与える。英雄譚を読みながら、よくそんな妄想にふけっていた。

いや、実は今もそうなりたいと密かに胸に抱いている。その自覚がある。もう16にもなるのに。)


フラーニュ王国とグリーツ帝国は大国同士、仲が悪い。歴史上何回にもわたって

戦争を繰り返してきたし、その中でも最大規模であった大戦争がつい1400年に終結した

ばかりである。結局決定的な決着はつかず、消耗しあうだけ消耗しあって終戦した。


「まあ、こんなアホみたいに平和な世の中じゃ叶わない夢か。」


アドンが嘆くと、教室の扉を開けながら誰かが言葉を返してきた。


「なにを寝ぼけたこと言っているのだねアドン君、平和を嘆くなんて。

まったく、アホは君だよ。君一人のために私の時間まで奪われていく。

いいかね、1400年に戦争が終結するまでは、今日の寝食さえどうなることかと日々・・」


逞しい髭を蓄えた中年男性がブツブツと説教を垂れながら教室に入ってきた。

今日の補講を担当する教師だ。


「あー・・・すみません。気を付けます。」


アドンが遮って謝罪した。

(適当に謝って、早く補講終わらせて帰ろう。)




「ただいま」

「おかえり」


アドンが帰宅して自身の帰宅を知らせると、こだまするように母から返事が返ってきた。

しかしどこか不機嫌そうな声をしている。


「あんた、また補講だったの?せっかく学業なんていう贅沢ができる平和な時代なのだから、

いまのうちから勉強を・・」


(デジャヴだ。数時間前も同じような説教を聞かされた。)

「わかってるよ!飯出来たら呼んで!」


自室に逃げ込み、思い切りドアを閉めた。

部屋は真っ暗だ。まだ夕方なのに。そういえば朝カーテンを閉めたまま学校に向かった気がする。

(なぜだろう。こう真っ暗だと、いるはずもない誰かの気配が感じられる気がする。

それと、カーテンは高級品だ。わかっている、学業が贅沢なことも、俺が恵まれていることも。)


カーテンの隙間から漏れる光を頼りに窓辺まで近づき、カーテンを開ける。

眩い西日が部屋に差し込むと、すぐに人の気配が真実であったことに気が付く。


「うーん・・・朝?」


そこには下着だけを身に着けた妖艶な美少女の姿があった。

金髪碧眼・・・いや、碧髪金眼の14ほどの女の子だ。寝癖が酷いが、少女が少し手ぐしで整えると、

すぐに元の髪型に戻った。後ろは首下くらい、もみ上げから横はそれより少し長く、

美しい青色の髪が靡く。


「・・・なにやってんの?エマ。人の部屋で、半裸で・・・。あと朝じゃなくて夕方・・・。」


アドンが妹のエマに半ば呆れつつ尋ねる。


「いやー、お兄ちゃんの部屋掃除してあげてたんだけど、なんだか眠くなっちゃってさぁ。」

体を伸ばしながらエマが言う。


「そ、そう・・・。まあ服着ろよ、てかなんで脱いでんだよ。」

(なんで少し恩着せがましいんだ・・・・結局部屋汚いし、いや、汚くしてるのは俺だけどさ。)


「服、めんどくさいじゃん。」

言葉通り、ものすごくめんどくさそうに服を着始める。


(まあ確かにめんどくさいのはわかる。女性用の服は男性用と違って上下一体の

ワンピース型がほとんどだからな。)

(エマは俺に似て非常に整った顔立ちだ。いや、俺は決してナルシストではない。

俺とエマは兄妹であり、エマがこんなに可愛いのだから兄である俺も整っているはずである。


アドンは訳のわからない理屈を並べながら、確かに汚い部屋を今度こそエマと二人で

掃除していると、先ほどよりは少し柔和なトーンで母の声が伝わってきた。

「晩御飯、できたわよ。」


やはり、まだ少し怒っているようである。



アドンは、幼きに見た夢を思いながらも、満更でもないこの日常を謳歌していたし、

これからも平和な時代を生き抜くのだと、どこか漠然とそう感じながら過ごしていた。


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