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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
後編 俺と面倒臭い彼女と必然の決別
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第57話 綻び

 ふと机に置いた腕時計を見ると、正午を回っていた。


 俺は開いていた参考書を閉じ、席から立ち上がる。

 隣の椅子に置いた鞄から包みとスマホを取り出した。


 図書館は静謐な空気で満ちていて、その一角の自習スペースもカリカリと文字を記す音と、時折の紙をめくる音で埋まっている。


 極力静かに通路を歩きながら、ボタンを長押ししてスマホの電源を入れた。











 ――あの旅行から、一週間が経っていた。


 俺は意識的に、飛鳥と距離を置くようにしている。


 あ、それは勿論、邪険に扱ったりだとかそういう意味じゃない。

 ただ、今のままでは俺はまた彼女に甘えてしまうと思った。だから、少し離れて冷静になる必要があったのだ。



 そんな訳で、最近は朝から図書館に来ることが多い。


 飛鳥と距離を置く体の良い言い訳だったという他にも、授業をサボっていた分の遅れを、少しでも取り戻しておきたいというのが大きい。

 結局俺は夏休み前の期末試験でも、掲示板に載る50位以内に入ることは出来ていなかった。








 飲食スペースに入り、適当な場所に腰かける。テーブルの上に持ってきた包みを開くと、見慣れた弁当箱が現れた。

 これは勿論、飛鳥に用意してもらったもの……ではない。

 蓋を開けると、白米と共に少し焦げた肉と野菜炒めが目に入る。

 一人手を合わせいただきます、と小声で呟いて、早速ぱくりと一口摘まむ。


「……しょっぺ」


 最後に少し醤油を入れ過ぎたみたいだ。朝味見をした時は、良い感じかと思ったんだが。


 そう、俺は料理を始めていた。

 これまで学校がある日の夜は定食屋に行っていたが、それ以外は全て飛鳥に作ってもらっていた。しかし、それでは駄目だと思ったのだ。


 自分で作って改めて気づくが、調理の手間は馬鹿にならない。その上、飛鳥の場合は献立が毎日変わっていたし、恐らく栄養も考えたものになっていただろう。


「……」


 食べていると、先週彼女が夕食に出してくれた炒め物の味を思い出して、思わず比べてしまう。

 俺は残りを白米と一緒に勢いよくかき込んだ。







 飯を食いながら最近始めたSNSを開けば、夏休みを遊び倒している奴らをよく見かける。

 ふん、せいぜい今のうちに楽しんでおくがいい。夏休み明けに泣きを見ることになることも知らずにな。最後に笑うのは……俺だ。


 そんなことを考えてほくそ笑んでいると、


「…………あ」


 レインの通知が来た。

 家族や飛鳥は滅多なことではレインは送ってこない。

 さては、柊か橘だろうか。


 そんなことを考えながら、通知をタップした俺だったが。


『よーす! 今、何してる??』


 顔文字と一緒にそんな快活な人柄を思わせる文面送って来たのは、未来だった。

 彼女とは旅行が終わってからもたまに連絡を取っている。

 そう言えば、結局バドミントンは来週末に行くことになった。

 その件かな、と思いながら、ぽちぽちと返事を返す。


『図書館にいる』


『えっ何で??』


『お勉強』


 俺がそう返し既読がついて、向こうから返事が来るまでに少し時間があった。


『あのさ、明後日花火大会あるの知ってる?』


『いや、知らないが』


 未来曰く、この辺では割と有名なイベントらしい。


『出店も出て、お祭りって感じで、すっごい楽しいんだよー!』


『へぇ』


 ……文面で相槌を打つと、どうにも興味なさげに見える気がする。


『良さそうじゃん』


 結局そう付け加えた。するとすぐに反応が返ってくる。



『でしょ!? でさ、よかったら、一緒に行かない?』



「…………!?」


 

 予想外の話の展開に、返信を打とうと構えていた指が止まった。

 



『飛鳥ちゃんとレインしてるんだけど、最近二宮君が素っ気無いって言ってた。……何か悩みがあるんなら、聞くよ? それに、気晴らしにもなると思うし』


 俺が返事を返さないでいると、彼女はそんな内容を送ってきた。


「…………」


 俺は無言でテーブルに突っ伏した。横に座った奴がギョッとた顔をしているが無視する。




 最初から断る気はなかったが、返信が遅れたのは彼女に誘われる理由を考えていたからだ。

 もしかしたら、もしかしたらだが。

 彼女は俺に気があるのではないか――なんて、少しでも考えた自分の勘違いを恥じた。

 彼女は俺と飛鳥を心配して、こんな誘いをしてくれていたのに。

 全く、水瀬未来はどこまでも優しい。

 そして俺は、そんな彼女のことを人間として尊敬している。

 ――だからこそ、そこに思い違いをしてはならないのだ。


『行くわ』


 そう返信すると、グッと親指を立てた不細工な兎のスタンプが送られてきた。

 どんな反応をすればいいか分からず、話を変える。


『二人?』


『んー。私から誰か誘ってみてもいいけど。誠は、二人じゃないほうがいい?』


『いや、別にどっちでも』


『おっけー!』















「……あら、おかえりなさい」


「おう」


 午後の勉強を終えて図書館から帰ると、飛鳥が居間のソファに座っていた。

 彼女はパタリと手に持っていた本を閉じ、壁に掛けられた時計を見てもうこんな時間、と呟いた。


「これから準備するから、ご飯は七時半くらいになるかしら」


 彼女は何かに没頭していると、時間を忘れてしまうことが昔から度々あった。

 もちろん俺は夕飯を作ってもらっている分際で、急かすつもりは毛頭ない。


「了解。いつもありがとな」


 俺がそう言うと、飛鳥は微妙な顔で首を横に振った。


「……いえ、良いのだけど。ところで、お昼に持っていた野菜炒めはどうだった?」


「んー。微妙だった。火の通りもいまいちだったし、味付けが濃すぎた」


 俺が何とか腹に詰め込んだ弁当を思い出しながら言うと、飛鳥はふっと微笑を浮かべる。


「そう、残念だったわね。まぁ、貴方には少し早かったかしら。これに懲りたら、これからは――」



「――これからは、もっとうまく作れるように頑張る」



「………………そう」


 俺が彼女の言葉を引き取って言うと、彼女はぽつりと相槌を打って、立ち上がった。

 多分、夕飯の準備をしてくれるんだろう。

 俺はソファに座ってスマホを見ながら、エプロンを付け始めた彼女の背中に声を掛ける。


「あ、そうだ。俺明後日出掛けるわ」


 彼女も特に振り返らずに言葉を返してくる。


「ああ。えっと、柊君の家に泊まるんだったかしら?」


 そうだった。その日は橘と小田と一緒に柊の家に泊まりにいくことになっていたのだ。しかしそれはもともと夜に集まる予定だったし、花火大会に行くのに特に支障はないだろう。


「それもあるけど。夕方くらいから花火でも観に行こうと思って」


「…………誰と?」


 言われて、思考を巡らせる。

 一瞬黙っておこうかと思ったが、よく考えてみれば彼女に隠す理由はないだろう。

 偽彼氏をしていた頃にも二人で出かけたこともあったし、今更俺が未来と出かけたところで何かこいつに変な勘違いをされることもない。


「未来」




「――――ああ、そう」




 返事の前に少し間があった気がして、彼女の方を見る。

 しかし飛鳥はこちらに背を向けたままだった。


「良かったら、飛鳥も来るか?」


 未来との話では二人で行くことになっていたが、彼女が来ても問題ないだろう。

 最近俺は飛鳥と距離を取るようにしていたけど、それは俺が考える時間を得る為であって、こういう場面で敢えて彼女を誘わない理由はなかった。


「いえ、私はいいわ。二人で行くのでしょう?」


 しかし、飛鳥はそう言って冷蔵庫を漁っている。


「あ、ああ。言ったっけ?」


「……分かるわよ、それくらい」


 冷蔵庫の下段から取り出したネギを見つめながら、彼女はぽつりと言った。


 そしてそれをゴミ箱に捨てた。




「もう駄目ね、もっと早く使えば良かった」





 終焉へのカウントダウンが始まりました。次の投稿はちょっと間が空くかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] お互いちゃんと話し合わないと2人の関係が終わってしまうなこれ…幼なじみ好きなんだけどなぁ…
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