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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
後編 俺と面倒臭い彼女と必然の決別
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第46話 彼の感情

 柊はこちらを振り返らず、砂浜をざくざくと音を立てて歩いて行く。


 向かう方向が丁度自販機の方向だったこともあって、俺も敢えて話しかけようとはせずにその背中を追う。

 ビーチから離れると段々人が減り、とうとう辺りには俺達だけになった。

 その時になってようやく、柊は足音に気づいたようにこちらを振り返る。


「……お前、ついて来てたのか」


 彼の顔に浮かぶのは少し困ったような表情。

 柊は歩く速度を落とし、後ろを歩いていた俺に並んだ。


「飲み物買って来いって言われてな」


 俺が向こうに見える自販機を指差して答えると、柊は小さく笑った。


「わりぃ、気ぃ使わせちまったな」


「……なんのことだ?」


 俺がとぼけると、柊は申し訳なさそうな顔をした。


「……さっきは悪かったな。空気悪くしちまった」


 目の前の男はへらへらと笑う。


「割と上手いことやれるつもりだったんだがなぁ……。どうにもお前らと一緒にいると気が抜けちまって、余計なことを言っちまうみたいだ」


 居心地が良すぎるんだよあそこは、と柊。

 .........彼は他の誰と話している時でも楽しそうに見えたが、そうでは無かったのかもしれない。





 俺達は2人で並んで自販機の隣に腰掛けた。


 暫くの無言を挟んで、彼はまた口を開く。


「……俺さ、割となんでもできんだよ。こう見えてテストで掲示板から外れたことはねぇし、スポーツもそれなり。誰かと話してる時も、なんとなくこうしたらいいんじゃねぇかって分かるから、モテるし」


 そこまでいつものチャラけた調子で言った彼だったが、声の調子が変わった。


「だけど、それだけだ。よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏。――何にも意義が見出せなくて、周りを気にして本気になることも出来ず、それが自分なんだって言い聞かせてる」

 

 俺は彼が自分のことをそんな風に思っていることに驚いたが、柊は構わずに悪口に聞こえたらわりぃが、と話を続けた。


「お前も、同じなんだと思ってた。.........だけど違った。お前は明らかに変わった、まるで別人みたいに。……変えられないものなんてないって、そう見せつけられた気分だったさ」


 柊は空に向けて腕を突き出した。それは俺が球技大会で優勝した時の真似かもしれない。


「――ハッキリ言って、痺れた。憧れたよ、強烈に」


 柊は俺のことを見た。


「だからこそ、お前に少し肩入れし過ぎていたみたいだ。……前川にあの場であんなことを言うのはうまくないだなんて、誰にでも分かることなのによ」


 俺は彼の言葉を静かに聞いていた。

 あの柊が、俺のことをそんな風に思っていたとは。

 それは素直に嬉しかった。


 そして、飛鳥の態度の話。

 ……彼女が少し乱暴な言い方をしたのは確かだ。

 だけど、と俺は口を開いた。


「何ていうか、あいつは多分お前が思うよりもっとずっと不器用で、口下手な奴なんだよ。……だから、あの言葉があいつの言いたかったことを全て表しているとは俺には思えない。それに、なんていうか」


 前原飛鳥。

 まっすぐで、だからこそ勘違いされやすい。

 俺にとっては家族みたいな女の子。


「……今更あいつに何言われたって怒る気にはなれない。誹謗中傷みたいなことを本気で言うような奴じゃ、絶対にないことを知っているから」


 柊は俺の言葉を黙って聞いていた。


「それにあいつなら多分……」


 と、その時。

 俺が砂浜の方を見ていると、案の定向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。


 柊は近づくにつれてそれが彼女だと分かったようで、一度俺の方を驚いたように見た。


 彼女は俺達の正面まで来た。

 小銭入れを持っているので、俺達同様飲み物を買うと言って来たのかもしれない。真っ白な細い二の腕をもう片方の腕で掴み、その場に立っている。

 立ち上がった俺達と彼女の間には、薄らと緊張感が漂っていた。


「……あの、」


「……さっきは悪かったな。お前がこいつのこと認めてないわけないのに」


 飛鳥が何かを言いかけたのを制して柊がそう言うと、彼女は動揺したように目を泳がせた。

 そしてたどたどしく言葉を紡ぐ。


「その、……私も悪かったわ。言い方が良くなかった。柊君が怒るのも当然だと思う」


「! ……あ、ああ」


 柊は飛鳥が自分の非を認めたことが意外だったのか、一瞬ぽかんとした顔をしたが、その後へへっと笑った。

 飛鳥も少しほっとしたような顔をしている。


「……あー。前川は飲み物買いに来たのか?」


「そう、女子の分も買おうと思って」


 いつの間にか、もう空気は弛緩していた。






 八本の缶ジュースを三人で持って砂浜に帰ると、皆が出迎えてくれた。


 今まで準備運動なんかをしていて、まだ海に入っていなかったみたいだ。

 俺達が荷物を下ろすと姫野と未来がもう待ちきれないとばかりに海に走り出し、それを古賀と飛鳥が追う。


 きゃーきゃーと海に飛び込む彼女らを見ながら、俺達も海に向かって歩く。

 橘と小田が笑いながら戻ってきた柊の肩を叩いた。


「貸し一つな」


「出世払いでいいでござるよ」


 へいへい、と肩を竦める柊。


 するとその顔面目掛けて、ばしゃりと水が掛けられた。

 狙撃手の目論見通り直撃し、柊は髪や顔からポトリポトリと水を滴らせる。

 真顔の柊がぶるぶると水を飛ばし、弾の飛んできた方を見ると、


「隙だらけですよ、柊さん」


 水鉄砲を片手に、ドヤ顔をした古賀が立っていた。そしてシュパッと海へ逃げ始める。


「……やられたらやり返す。倍返しだ!」


 そう言って渾身の顔芸を披露した柊は、彼女を追ってバシャンと海へ飛び込んだ。





















 ――柊を狙って放たれた一発の弾が、全員を巻き込む大戦の火種となるなんて、誰が想像しただろう。


「ごめん、ね~……、どうやら、私はここまでみたい……」


「え。亜理紗ちゃん、嘘、だよね? ……嘘だって言ってよ! 一緒に故郷に帰ろうって、約束したじゃん!」


 かくっと穏やかな表情のまま目を閉じた姫野の手を握り、未来が慟哭する。


「水瀬さん、早くこっちへ! 時間がないんだ! 奴が、奴が来る……!」


 焦った様子で言う橘だが、もう遅かった。怪物がやってきた。

 その顔に一撃を浴びせた古賀を速攻で海に沈め、全員に警戒されたにも関わらず、勢いの衰えない怪物が。


「……追い付いたぜ。オラ、これでも喰らいやがれぇぇぇえ!」


 柊の全力のバタ足から繰り出されるそれは最早飛沫の暴力。

 2人は天災のような力を前にして何も出来ずに逃げ惑う他無い。


「うわぁぁあああああああ!?」


「フハハハハハ! 沈め! あの哀れな女のようになぁ!」


 柊の言葉に、ピクリと逃げ回っていた少女の肩が震えた。


「哀れな女……?……っ!……亜理紗ちゃんのことか? ……亜理紗ちゃんのことかァァァアア!?」


「うおっ!?」


 激しい怒りによって覚醒した水瀬が大型の銃を乱射し、柊と戦闘を始める。

 ここが僅かな勝機と悟り、橘も必死に援護する。


「約束したんだ……、必ず帰るって! 行くよ橘君! フォーメーション大和だ!」


「了解! フォーメーション……何だって?」


 恐らく共倒れになる、そう分かっていても彼らは闘いを止められない。誇りを賭けた闘いを前にして、最早そのような些事は意味をなさないのだ。

 そんな、彼らが激しい攻防を繰り広げる一方。






 ――もう一つの戦場。


「ふしゅるるるるる……追い詰めたでござるよ」


 息を吐きながらにやりと笑う小田。ぷかぷかと俺達の周りを旋回しながら、徐々にその包囲網を狭めている。彼の泳ぎは常軌を逸していた、どうやら五中のトビウオの名は伊達ではなかったようだ。


 俺は弾の残量を確認し、チッと舌打ちした。


「私はもう残量が尽きたわ。後一発ってとこね」


「……同じく」


 背中合わせになった飛鳥に報告すると、彼女はふっと息を吐いた。


 つられて、俺もへへっと口元を歪めた。


「悪かったな、飛鳥。巻き込んじまって」


「良いのよ、今更じゃない」


「……そうだな。俺はお前に、昔っから迷惑かけてばっかりだった」


「何、それこそ今更」


 軽い口調で返してくる飛鳥に俺は、なぁと呟いた


「――俺と、この戦いが終わったら結婚してくれないか?」


「……っ。……それって、プロポーズ?」


「あ、ああ」


 ノリで喋っていた俺は、飛鳥に真剣な声で確認され思わずどもる。

 するとその動揺が伝わったのか、彼女は黙ってしまった。

 ばっしゃんばっしゃんと小田の包囲網が縮まってくる。

 奴の動きに俺は一歩後ろへと下がろうとして、


「きゃっ」


「! わ、わりぃ」


 飛鳥と軽く背中が触れてしまい、俺は慌てて位置を調整する。


 ――そんな俺達の敵を前にして在ってはならない隙を、この相手が見逃す筈もなかった。 


 カッ! と目を見開いた小田が叫ぶ。


「リア充ェエエエエエエエ!!!」


 小田の魂の一撃が俺の顔面に直撃した。





 ……そして長い長い闘いの歴史に、終止符が打たれた。




 ブクマありがとうございます。いつの間にか400ptを超えてて、おお……ってなりました。

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