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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
中編 俺と優し過ぎる彼女と球技大会
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第41話 ――誰だって、心動いちゃうから




「おい二宮! そんなとこで何してんだ?」




 その声に、俺ははっと顔を上げた。

 少しぼーっとしていたみたいだ。


 俺は柊に今行くと返事を返して、座っていた岩から腰を上げた。

 水辺の爽やかな風が気持ち良い。


 昨日の球技大会の打ち上げということで、クラスの皆と郊外の方に遊びに来ていた。

 最初は川辺で遊んで腹を空かせて、今からはバーベキューが始まる。

 バーベキューは鉄板ごとにだいたい四人ずつ分かれる。


 俺のところは柊、橘、小田といつもの面子だ。

 橘や柊なんかがいたお陰で真っ先に準備が終わったので、俺は少し離れたところで少し考え事をしていたのだった。


 俺が戻ってくると、柊が右手に持ったコーラの缶を掲げた

 クラスメイト達も準備が終わったようで、柊の伸ばした右手に注目が集まる。


「おっしゃ、じゃあ俺達B組の総合優勝を祝って乾杯!……の、ま・え・に」


 ふざけんな何焦らしてんだ! と野次が飛ぶが柊は気にした様子も見せず、にやりと笑った。


「今回のMVPから一言貰わねぇか?」


 その言葉におお! とざわめくクラスメイト達。

 皆の反応に気を良くした柊がどぅるるるるるると口でドラムロールを鳴らし始めた。



「……るるるるるる、んじゃん! 今回の! МVPは! ……前川! 頼むわ!」



「えっ、私……?」



 柊に唐突にそう呼ばれ、飛鳥は困惑した表情を見せた。


 彼女は学年二大美少女に数えられるが、そのもう1人である水瀬とは違って、クラスの中心グループにいても余り普段人前に出ることはない。


 しかし、今の河原には彼女を讃える拍手が溢れていた。

 俺は結局一度しか観に行けなかったが、バレー部に熱烈に勧誘されるほどだ、大活躍だったのだろう。

 実際一緒にバレーに出ていた女子達は当然! といった顔でパチパチと拍手をしている。

 周りの姫野や古賀達にもせっつかれた彼女はとうとう諦めたのか、少し疲れた顔で前に出た。


「……はいはい。分かったわ」


 そして水の入ったペットボトルを持った白い手を掲げた。

 皆の視線がそこに集中する。

 飛鳥はんんっと軽く咳払いをして、ほんのりと微笑を浮かべた。


「それじゃあ、皆の頑張りに。優勝おめでとう、乾杯」



「かんぱーーーい!!」

 

 









 そして打ち上げが始まった。

 あっという間にばらけて最初の席分けは意味をなさなくなる。

 水瀬や姫野、柊、橘なんかも含めた集団が中央で今回の球技大会の名シーンについて盛り上がっている。

 飛鳥と彼女に今回の敗因を懇々と語る古賀のように二人で話す奴らもいる。

 他にもいつもの面子でバーベキューを楽しむ奴ら。

 あるいはバーベキューもそこそこにまた河原の方に遊びに行く奴ら。こっそりと男女二人で姿が見えなくなる奴らなんかもいた。



 さっき柊も言っていたが、結局俺達のクラスはバスケが準優勝、バドも優勝。バレーも優勝ということで、なんと総合優勝を果たしていた。

 皆のテンションが高いのはそのせいだろう。

 ……俺はまだ、余り実感が湧かないのだが。



 さて、中央の奴らのとこに行ってもいいが。

 俺がどうしようかと辺りを見渡すと、端の方に固まってデュフデュフしている集団を見つけた。

 俺が彼らのところに皿を持って近づくと、こちらに気づいてスペースを空けてくれた。


「あれ、お前ら昨日陽キャ宣言してなかったっけ? お前らだけでいていいの?」


「い、いきなりは厳しいでござるから。少しずつ慣れていく戦略であって……」


 俺が問うとそう言って目を逸らす小田達。

 とはいえ、時々クラスの他の奴らに声を掛けられて、厨二臭い返事をしていたりするので打ち解けてはいってるみたいだ。

 まぁいくら自分で決めたとしても、急に変わるのは難しい。

 それは俺が一番よく知っている。


「俺は別にそのままでもいいと思うけどな。変わることが必ずしもいいことじゃないだろうし」


 実際彼らは今のままでもクラスに受け入れらているように感じる。

 それに、と俺は続ける。


「あんまりお前らが陽キャになられても、話しかけ辛くなるしな」


 俺の言葉を聞くと、彼らはこれ幸いと騒ぎ始めた。


「それじゃあやっぱり、しばらくはこのままでござるかね」


「同意する……! 彼らの光は少し、眩しすぎる……」


「僕の読んでるラノベでも主人公はだいたい陰キャだしね。統計的に見てもここは待ちの姿勢を取ることが重要なんじゃないかな!」


「……ふん」


 どこか気を張っていたような雰囲気も消え、すっかりいつも通りの様子の小田達。田中も謎にインテリを醸しているが、楽しそうで何よりだ。

 俺の勝手な願いかもしれないが、やっぱりこいつらには好きなことに全力でいて欲しい。



 そんな彼らを少し羨ましく思いながらも暫く取り留めのない会話をして、それじゃあ、と言ってその場から離れた。

 しかし数歩行ったところで俺を呼ぶ声がした。


「あ、あの二宮氏」


 振り返るとそこにいたのは小田達の同志で、オタク集団の一人。


「この前見たアニメ良かったって言ってたよねっ?」


「おお、あれな。あれ映画もうすぐ始まるし、その特典もいい感じなんだよな。そっちも観るわ絶対」


「だよねだよねっ! それでさ……あの、もし良かったらそれ今度私と行かない?」


 言われて、思わず俺はオタク軍団の一人であるそいつをまじまじと見た。

 バスケをやっているせいか引き締まったスラっとした体形をした、爽やかな印象の女の子だ。

 初めて会ったときはアニメ好きなのに驚いたくらいだが、俺とは何かと趣味が合って話をすることも多かった。


「おう、いいな。いつにする?」


「いいの!? ……えへへ、やった」


 ぽしょりと呟いた彼女の声にどきりとした。

 オタク友達とは言え、こういうときにはうっかり勘違いしそうになる。

 俺は頭を掻きながら話を続けた。


「他に誰誘った? 小田とか田中?」


「え?……あ。その……良かったら二人で行かない?」


「? ……まぁ別にいいが」


 何で俺と、と言いかけたが、そこにちょうど通りかかったらしい水瀬がひょこりと顔を出した。


「あれ、二宮君! お肉持って何してるの!? 食べて良い!?」


 そこで俺が手に持った肉を目ざとく見つけたようだ。

 そのまま箸でひょいと摘まもうとするので、俺は皿を掲げた。

 こいつこんな食い意地張った奴だっけ。


「おい待て、冷めてそうだから一回温める」


「おっ、気が利くね! 流石私の彼氏! ……あ、ごめんね、なにかお話してたよね?」


 水瀬が振り返ってそう問うと、彼女はブンブンと手を振った。


「全然全然! ……じゃ、じゃあ私戻ってるね」


 そうして彼女が去っていくと水瀬は小さくため息を吐きながら、くるりとこちらに向き直った。


「もう……彼女いる人を気軽にデートに誘うかな、普通。……ていうか、二宮君も二宮君だよ! 断んなきゃダメでしょ!」


「あー、すまん。……でもあれはそういう感じじゃないと思うぞ」


「ふーーん。あんなに誘われて嬉しそうな顔してたのに?」


 水瀬の言葉に、俺は冷静に反論する。


「別に相手が男か女かは関係なく、好きな作品の映画を仲良い奴と観に行くんだぞ? 嬉しくないわけないだろ」


「確かにそう言われれば……。でも二宮君はそう思ってても、向こうは違うかもしれないじゃん」


 腰に片手を当てた水瀬は、もう片方の手の指でぴっと俺を指した。


「だいたい、自己評価が低すぎるんだよ。二宮君は自分が思うより、ずっとずっと、かっこいいんだよ?」


「いや、そんなことは……」


 ない、と言いかけて水瀬に遮られる。


「そんなことあるよ。……だって、私もそう思うもん。……ね、少し歩こうよ」


 水瀬はそう言って歩き出し、彼女の言葉に驚き立ち止まっていた俺は、慌てて後を追った。


















 河原のほとりを歩く。

 水瀬はよっ、と大きな石の上に跳び乗った。


「……うわっ、と。と、と」


 彼女がバランスを崩しそうになり、俺は慌てて手を差し伸べる。


「おい、大丈夫か」


 結局水瀬は自力でバランスを取り戻し、俺の出した手はぷらぷらと空を切る。

 俺はなんとなく恥ずかしくなって、出来るだけ自然にその手を自分の首元にやった。

 そんな俺を、石の上に立った少女は優しい目で見下ろした。


「二宮君って、やっぱり優しいよね」


 俺は彼女の視線から逃れようと視線を自分の足元にやった。


「いや別にそんなことないだろ。……それに手なんて毎朝繋いでるんだから、今更もう何とも思わねぇよ」


 それは嘘だったけれど、水瀬が余裕そうなのが少し面白くなくて、そう言ってみる。


「えー、それってちょっとひどくない?」


 すると水瀬は不満そうに頬を膨らませた。


「……私はいつも、ドキドキしてるのに」


 ……また勘違いしそうになったが、水瀬はそんな俺に構わず歩みを再開する。


「昨日の、準決勝の試合」


 水瀬は両手でバランスを取って歩きながら言った。


「観ている人が少なくて良かった」


 昨日は俺の疲労が限界で余裕がなかったこともあって、その話をちゃんとするのは今が始めてだ。

 俺は水瀬の言葉に笑いながら同意した。


「ああ、あんな汚いプレーを見られなくて良かった」


 しかしその俺の言葉を彼女は否定してみせた。



「そうじゃないよ。あんなの見せられたら――誰だって、心動いちゃうから」



 水瀬の言葉の意味が分からずに俺が立ち止まったままでいると、水瀬はくるりと向き直って告げた。


「ね、私の偽彼氏――もう終わりにしよう?」


 思わず立ち止まる。

 俺が何も言えずにいる中、水瀬は笑顔のまま続ける。


「私から別れたって皆に言うよ。それで、多分おしまい。さっきはあんなこと言っちゃったけど、もうあの子と映画に行っても良いんだよ」


「なんで、急に」


 何とかそれだけ絞り出したが、水瀬は答えをはぐらかした。


「なんでも。でも、誰かに何か言われたとかじゃないよ? 私が、自分で頑張ってみようって決めたの。人の気持ちに、ちゃんと向き合わなきゃって思ったから」


「……そうか」


 僅かな逡巡の後に俺が頷くと、水瀬も「ん」と真面目ぶって頷いてみせた後、おかしそうにころころ笑った。

 俺は笑う彼女を見つめながら、考える。

 ……まぁ彼女が自分で決めたと言うのなら、俺が口を挟むべきではないだろう。

 もともと彼女の願いで始めたことだ、彼女がもう要らないというのなら、それでいい。

 それに、


「ま、もし何か困ったことがあったら言ってくれ。彼氏じゃなくても、友達としては力になれるから」

 

 俺がそう言うと、水瀬は意表を突かれたように目を見開いて、それから顔を俯かせた。


「……そういうこと言うのは、少しずるいよ」


 何か呟いた水瀬の声は小さくて聞き取れなかったが、俺が聞き返す前に水瀬はパッと顔を上げた。


「はい、じゃこれでこの話はおしまいね! そろそろ皆の所にもどろっか!」


 そしてずんずんと俺を先導するように来た道を戻り始めたが、ぴたりとその足が止まる。

 彼女はこちらに背を向けたまま言った。


「あ、そうだ。名前」


「ん?」


「これからは名前で呼んでよ、私のこと。私も二宮くんのこと名前で呼ぶからさ」


「え、でもそれは……」


 恋人の振りをやめるのに、名前で呼び始めるのはどうなのだろうか。


「だめ? 飛鳥ちゃんとは呼び合ってるのに?」


 俺はうっと言葉を詰まらせる。それを言われると少し辛い。

 好機と見たのか、水瀬が畳みかけるように言葉を放つ。


「ね、いいでしょ? 友達なんだからさ」


 友達。

 その甘美な響きにとうとう俺は屈してしまった。


「分かったよ……み、未来。これでいいか?」


 俺が言うと、何故だか水瀬は肩をびくりと震わせた。

 何か駄目だったかとその顔を覗こうと隣に並ぶと、


「うん! 今回はほんとうにありがとう! 誠!」


 いつも通り、否、いつも以上に魅力的な笑顔で。

 水瀬未来はそう言った。


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