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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
前編 クズと中間テストと学年二大美少女
22/66

第20話 君がそこにいるから

 あれから。

 いつのまにか授業は終わり、俺は放課後の教室に居た。


 ここに残っていたってやることもないので、いつもなら速攻で帰っているところだが。

 ……なんとなく、ぼーっと机に突っ伏していた。


 クラスの奴らは授業が終わるといつの間にか居なくなっていた。きっと今頃は開放感に溢れ、部活に行ったり友達と遊んだりしているのだろう。


 ……放課後になっても、水瀬はこちらを心配そうに見ていたが、やがて教室からいなくなっていた。

 それでいい。

 今は彼女に合わせる顔がなかった。



 机に突っ伏して暫く経った。

 とうとう教室には俺以外、誰もいなくなったようだ。

 ちらと顔を上げても、目の前にあるのは空っぽの机だけ。


 窓の外から聞こえてくる運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音が、自分とはほど遠いもののように思えて。

 ……。


 そして。



「――そんな顔して、どうしたの?」



 声が、した。



 …………。

 小さな頃から、ずっと聞き慣れてきた声だ。


 ゆっくりと、背後を振り返る。






 そこに。






 いつもと変わらない落ち着いた表情で、前川飛鳥は立っていた。







「……何って。いつも通り、寝る為のベストなポジションを探してるだけだぞ」


「もう放課後なのに?」


「……なんか、今日はだるくてな」


「いつもはどんな時でも、急いで帰っているのに?」


「こんな日もあるわな。人間だもの」


「掲示板」




 息が止まった。




「貴方の名前、無かったわね」


「……まぁ、しょうがねぇよな。今までサボってた奴が一週間ちょっと勉強したからって、そう上手く行く訳がない」


 席を立つと、椅子がガタリと耳障りな音を立てる。


「んじゃ、俺は帰るわ」


 彼女に挨拶し、そのまま教室を後にしようとした時、飛鳥が声を掛けてきた。


「鞄、忘れてるわよ」


「……」


 俺は無言で席まで戻った。

 飛鳥は俺の鞄を持って立っていた。


「……さんきゅ」


 そう礼を言って鞄を受け取ろうとしたが、飛鳥は鞄から手を離そうとしなかった。




「……悔しくないの?」




「ッ!」


 頭が真っ白になるのが分かった。

 気付けば、言葉を吐き出していた。



「……悔しいかって!? 悔しいに決まってるじゃねぇか!」



 俺の突然の大声に、飛鳥の華奢な肩がぴくりと震えた。


「俺は、勉強した! この一週間は、今までで1番真剣に勉強した! その結果が、これだ! お前にも、水瀬にも、担任にもたくさん迷惑かけたし、でもきっといい結果が出せるって、ひょっとしたら、俺は変われたんじゃないかって思ってた!」


 なんとなくぼーっとしていた? 

 そんな訳無い。

 本当はずっと後悔と自責の感情が溢れて、席を立てなかっただけだ。


「でも現実は、これだ! 俺は、馬鹿だった。何も、分かっちゃいなかった。くそっ、かっこ悪すぎだろ、俺…」


 呆れていた。

 身の程知らずの夢を見ていた自分に。

 飛鳥に感情のままに言葉をぶつける自分に。













 暫くすると、段々と沸騰していた頭が冷えてきて、どうしようもない感情だけが残った。


「お前も、分かりきったことを聞くんじゃねぇよ」


 ひたすらに、惨めだった。

 俺の心の一番柔らかい部分から、情けない言葉ばかりが溢れてくる。

 彼女に伝えたい言葉は、こんなものじゃなかったはずなのに。


「もっと本気になれたはずだった。怠け癖は肝心なところで、必ず俺の邪魔をした! こんなはずじゃなかったのに!」


 彼女だけには絶対に見せたく無かった、どうしようもなく醜い本心まで、口から零れ落ちる。


「結局さ。今だって、中学の時だって、俺がもっと上手くやれてれば、皆の期待に応えられれば、全部上手く行ってたはずだったんだ。お前も、こんな遠い高校に来る羽目にはならずに済んだんだ」


 何故彼女が県を跨いでまで、この高校に来たのか。

 その理由に触れるのが、どうしようもなく怖かった。

 俺のせいで、大切な幼馴染の人生を歪めてしまったんじゃないかって思うと、どうしようもなく恐ろしかった。
















 飛鳥は俺の自虐とも八つ当たりともつかない醜悪な叫びを、ただ黙って聞いていた。

 そして、静かに口を開いた。


「……それは、違うわ。貴方はこの一週間、恐らくこの学校の誰よりも勉強していた。それは私と未来が保証するわ」


「…………はっ! じゃあ俺は誰よりも勉強したくせに、結果を残せないゴミってことか」


「私が言いたいのはそんなことじゃない。貴方の結果が奮わなかったのは、1週間じゃどうしようもないくらいに、貴方の勉強が遅れていただけじゃない」


 彼女の真実を射抜いた発言に、言葉が詰まる。


「……それは、それはそうだとしても! 俺は、お前達の期待に応えたかった! 良い結果を出して、それで少しはお前達にに胸を張れるようになりたかった……」


 飛鳥は静かに左右に首を振り。

 そしてゆっくりと、言葉を選ぶように言った。


「私も、未来も、担任も、良い結果を残したかどうかで貴方を判断したりしない。貴方の頑張りはちゃんと見ていたから。だから、私達のことは大丈夫よ。少なくとも私は、貴方がまた何かに一生懸命になっているところが見れて、本当に良かったと思ってる」


 それに、と彼女は続けようとして、一瞬言い淀んでから、再び口を開いた。


「……それに、努力している人に女の子はそこそこ好感を抱くものよ」


 そう言って彼女にしては珍しく、悪戯っぽく笑った。


 俺は毒気を抜かれ、ため息を吐くと教室の壁に寄り掛かった。

 ……本当に、彼女には勝てる気がしない。


「……飛鳥」


「何?」


「……怒鳴ったりして、悪かった」


「ああ、あれ怒鳴ってたの。子供の癇癪だと思って気にも留めなかったわ」


 そう言って涼しげに笑った彼女は、しかしすっと真面目な表情に戻った。



「それで? これからどうするの?」



 彼女の言葉を受け止めて、考えた。


 本気で勉強して、それでも結果は出なかった。

 勉強は、俺には向いてないのかもな。

 他に何か、もっと才能があって、やってて楽しいものを探すべきだ。

 そんな言葉が胸に浮かんできた。


 ――今に至っても楽な方向に逃げようとする自分に呆れる。

 いや。

 もう呆れたりはしない。

 これが、俺なんだ。

 それを受け入れた上で、自分の中でもう答えは出ていた。



「ぜっってぇ、次のテストは成功させる」



 俺の安っぽくてなんの拘束力も持たない言葉を聞いて、彼女はにっこりと笑った。

 それは幼い頃の彼女のような、花が咲いたような純真な笑顔だった。

 ああ、お前は俺のことを信用し過ぎだ。


「言ったわね、約束よ」


 そうして、俺の初めて本気で取り組んだ試験は終わった。
















「それじゃ、行きましょうか」


「おう、帰るか」


「違うわよ。打ち上げに行くのよ」


「え? 打ち上げ?」


「中間の打ち上げ。参加者はクラスの皆。駅前のカラオケ」


「ああ、じゃあお前1人で行ってこいよ。俺が行っても、微妙な空気になるだけだけだろ」


 気を遣わせないように出来るだけ明るい調子でそう言うと、彼女は少しむっとした表情すると、何故かその場でどこかへ電話を掛け始めた。

 すぐに繋がったようで、何事か喋るとちらにスマホを渡してきた。


 替われ、と言うことらしい。


「もしもし」


 電話の向こうはがやがやと賑やかだった。


「あー! もしもし! 二宮か! 俺だ! 橘だ! 皆待ってるから、早く来い! 以上!」


 いつも爽やかな声が、今日は少し乱れていた。それだけ盛り上がっているんだろう。


 私も替わって、という声が電話越しに聞こえ、続け様に底抜けに明るい声が聞こえてきた。


「二宮君! 待ってるからね! 早く来ようね! これは勉強会の打ち上げも兼ねてるんだからね!」


 そこでブツっと通話が切れた。


 …………。

 飛鳥は俺の方をしてやったりという表情で見てくる。


「それで? 俺が行ったら何だって?」


「……」


 他に上手い言い訳が思いつかず、結局俺と飛鳥は打ち上げに行くことになった。
















 会場のカラオケに到着し、店の扉を開ける直前に飛鳥が言った。


「私がこの学校に来た理由は、進学の為よ。貴方の為に来ただなんて勘違いしないで頂戴」


「……分かった。変な勘違いして悪かっ……」


「だけど」


 前方で扉を掴んでいる飛鳥の表情は、見えない。


「もし仮に、貴方の為だったとしても、それを私が後悔しているなんてことは無いわ……むしろ、こうして貴方と一緒にいられて良かったと思ってる」


「え?」


「ほら、早く入るわよ」


 予想外の言葉に戸惑っているうちに、飛鳥はさっさと中に入ってしまい、慌てて彼女の後を追った。


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