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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
前編 クズと中間テストと学年二大美少女
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第1話 怠惰な俺のごく日常的な風景


「……いっけない遅刻遅刻ー」


 俺、二宮誠(にのみやまこと)は昨日プレイしていたゲームの冒頭の台詞を呟きながら、通い慣れた通学路をゾンビのような足取りで歩いていた。


「って、遅刻ってレベルじゃないやろかーい……」


 起きたらもう昼前だったので、昼休みに着くように調整して家を出た。ちなみに独り言が多いのは最近人と余り話していないからかもしれない。



 穏やかな春の昼下がりを、しかし全く楽しむ余裕もなくふらふらと歩き、ようやく学校に到着する。


 目の前に見えるのは、どこにでもありそうな三階建ての少し古びた校舎。

 特徴と言えばせいぜい、桜が多めに植えられていることくらいだ。 


 ここが俺の通う、県立山桜(さんおう)高校。

 一応、周辺ではそれなりの進学校である。



 俺は玄関で上履きに履き替え、校舎内に入った。

 今は昼休み、出歩いている生徒達に紛れることは容易だ。


 堂々と廊下を歩き、自分の教室に到着する。

 ここで一つ深呼吸。


「ふぅーー。……………よし」


 そして、極力静かに教室の扉を開けた。

 だが建て付けの悪い扉はガラガラと音を立て、教室内の視線がジロリと俺の方に集まる。


 一瞬静かになる教室。

 俺は俯き、なるべく彼らと目を合わせないようにしながら席へと向かった。


 頻繁に学校を休み友達もいない俺は、まだ2年生が始まったばかりにも関わらず、早速クラスで浮いているのだ。こんなに浮いてたらきっと空も飛べるはず。


 武空術~! と俺はクラスメイト達はもちろん、過酷な現実からも目を逸らしながら自席にたどり着いた。


 午前の授業内容が書かれたままの黒板をちらりと見つつ、鞄を机に置き椅子に座る。

 さて、午後の授業までは少し時間がありそうだ。一眠りしようかと思った、その時。


 教室内でも一際騒がしい集団からするりと抜け出て、こちらに近づいてくる男の姿が見えた。



「おはよう、二宮」



 にこやかな笑みを浮かべたこいつは橘圭介(たちばなけいすけ)

 爽やかで、バドミントン部のエースで、成績も良くて、クラスの中心で……だいたいそんな感じの奴だ。いけ好かないほどのスペックの持ち主だが、彼は不思議とそれを嫌みに感じさせない。実際随分と人間が出来ているようで、この通りクラスに馴染んでいない俺に話しかけてくるくらいだ。

 

 俺は寝るのを諦め、鞄から教科書を取り出しながら返事を返す。


「よう」


「今日も重役出勤だな。これ、午前の分な」


 そう言って、橘が俺に数冊のノートを渡してくる。


「あ、ああ。ありがとな」


「いいよこれくらい。ちなみに次の授業鎌田だから、眠らないように気を付けろよ」


 げ、と顔をしかめた俺を、クックッと橘が笑った。

 鎌田教諭の陰湿な説教は、最早このクラスの共通認識だ。

 そうして話していた時、教室に2人の女子が入って来る。



 ――途端、教室が一気に華やいだ気がした。



「……それでね、その後が面白かったんだ! 亜理紗ちゃんが『ここは私を倒して先に行け!』って言って魔王に一人で突撃して行ってね! あはは! 思い出すだけでおかしい!」



 今話している彼女は水瀬未来(みなせみらい)


 整っているがまだ少しあどけない顔立ちと、やや低めな身長も相まって、大人びた中学生のようにも見える。

 ちょっと抜けているところもあるが、いつも笑っている彼女の周りは自然と明るい雰囲気になる。

 それだけでなく周りのことをよく見ている印象もあって、彼女のことを一言で表すなら、可愛くて優しい女の子だろう。

 一部の生徒の間では、天使と呼ばれることさえあるらしい。

 まぁ、俺は話したことないけど(ここ重要)。



「あなたが楽しそうでよかったわ。でも、あなたの支離滅裂な夢の話を聞いているこちらの身にも、なって欲しいのだけれど……」



 そう言って額に手を当ててため息を吐いている彼女は、前川飛鳥(まえかわあすか)という。

 陶磁器のように真っ白な肌や、腰まで届く程の綺麗な長い髪に、驚くほど小さな顔。

 見た目だけならどこかのお嬢様のように上品で慎ましやかだ。

 けれど彼女は言葉遣いこそ丁寧だが、その内容は時にぞっとするほど冷たい。





 彼女達は学年の二大美少女として名高い。

 彼女らと同じクラスになれて良かった、とクラスの奴らが話しているのを聞いたから間違いない。

 ……ちなみに俺はそいつらの会話に混ざろうかとタイミングを伺っていたが結局諦めた。


 まぁそんな俺の黒歴史は置いておくとして。


 二人は入口の方で話をしながら、俺の席とは反対側の方に向かって歩いて行く。

 俺が何となくそれを目で追っていると――ふと、その前川と視線が合った。 



 が、それも一瞬のこと。

 俺が素早く目を逸らすと、前川も何事もなかったかのように水瀬の話に相槌を打っている。

 俺は立ち上がり、教室の前方へと歩いた。


「あれ、どこ行くんだ?」


「あー、ちょっとした眠気覚ましだ」


 橘の声に適当な返事を返しながら教壇に上がると、黒板消しを手に取った。

 橘が納得したような声を出し、俺の傍に立って黒板を消し始めた。


「よく気がつくな」


「いや暇だったから。それに怒られるのは勘弁だ」










 板書を消し終えて席に戻り、暫く取り留めのない話をした後、それじゃ、と言って橘が離れて行った。

 再びやることのなくなった俺は、机に突っ伏して寝たふりをした。

 寝てしまってもいいと思うのだが、こういうときは意外と眠れなかったりする。

 それでも諦めずに寝心地のいいポジションを探っていると、



「……大丈夫? 顔色が悪いわよ」



 ――透き通るような、綺麗な声が聞こえた。


 顔を上げると、そこに前川飛鳥が立っていた。

 彼女はぼっちな俺に度々話しかけてくる。

 恐らく橘同様、人間が出来ているのだろう。


 前川は両手に教科書を持っていて、後ろのロッカーに荷物を取りに行った帰りらしい。

 もしかしたら俺が目立ってしまわないよう、話しかけるタイミングに気を遣ってくれたのかもしれなかった。


 ……素直に答えるなら、『そりゃそうだ。今日は寝不足だし朝から何も食ってないから』になる。だけれど、彼女には出来るだけ心配を掛けたくなかった。


「気のせいじゃないか?」


「確かに貴方の顔が悪いのはいつものことだけれど」


「顔色ね、顔色」


 俺がそう言ってガタリと席を立つと、前川はそれ以上追及してこなかった。 










 そのまま教室から出る。と、入れ違いに女子の集団が入ってきた。


「やばいやばい、そう言えば私今日当番だったじゃん。黒板消さなきゃ鎌田の餌食に……ってもう消えてる! 誰がやってくれたの? あ、もしかして橘君?」


「俺も手伝ったけど、二宮が最初に……って、あれ? 二宮?」


 彼女らの一人と橘が何やら話しているのが聞こえたが、俺は気にせず自販機に飲み物を買いに行った。

・現在のステータス(10段階)


 勉強:2 運動:5 コミュ力:2 体力:1 見た目:2





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