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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
前編 クズと中間テストと学年二大美少女
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第16話 同居開始

 

 ――室内にはシャーペンの音だけが響いていた。

 最近見違えて整頓された勉強机。

 その前に座った男は、ひたすらペンを走らせていた。

 しかしうまくいかないのか、その手は何度も止まる。男はがりがりと頭を掻いた。


「ふぅ………」


 一息つくと、彼の視線は机の上の問題集から脇に滑り……ベッドに投げられたスマホへと向かう。

 思えば、休日であった今日は朝からずっと勉強していた。そろそろ休憩してもいいだろう、というわけだ。

 そうして男の手がそちらに伸ばされ――何を思ったのか、途中でピタリと止まった。

 

「………うぁぁ」


 男は伸びをして、大きな欠伸を一つ。そして再び机に向かった。


 ――ベッドに置かれたままのスマホは通知が来たのか、画面が明るくなっていた。


『今日は勉強会ないけど、お互いがんばろーね!』 












 日曜日。

 今日は飛鳥の引越しの日である。


 結局同居の話はとんとん拍子に纏まった。飛鳥の両親は本当に反対しなかったらしい。

 俺の親にはなんと説明しようかと悩んでいたが、飛鳥に向こうから息子をよろしくと連絡があったらしい。いやマジかマミー。


 俺が部屋を軽く片付けていると来客のベルが鳴ったので扉を開ける。そこには今日から同居を始めるルームメイトがいた。


「お、おはよう」


「お、おう。おはよう」


 挨拶を交わし、そこで会話が止まる。

 飛鳥は玄関先に立ったまま、何故か俺と視線を合わそうとしない。


「……じゃ、じゃあお邪魔するわね」


「……おう。いらっしゃい」


 お互い普段は何とも思わないのに、いざ同居するとなるとやはり少し緊張する。


 ぎこちない会話をしながら飛鳥を招き入れる。


「結構綺麗にしてるじゃない、この調子ね」


 居間を見渡しながら少し緊張の取れてきた飛鳥が言う。今の今まで片付けてたことは黙っとこう。


「荷物はいつ届くんだっけ」


「ベッドとか最低限のものは今日中、他は中間が終わってからぼちぼちかしら」


 そりゃそうか、中間の勉強をしなきゃいけないからな。


 俺の家には、玄関から短い廊下を抜けるとキッチンと食卓のある居間と、居間の隣に二つの部屋がある。俺の部屋と、来年から妹が使う予定の部屋だ。

 そこを飛鳥の部屋として使うことになった。


「今日はどうする?」


「私はここで勉強してるわ、業者がいつ来るか分からないし」


「了解、じゃあ俺も勉強して待機してるわ」


「別にいいのよ? 重い物は業者が運んでくれるでしょうし」


「まぁな。でも人手は多い方がいいだろ?」


 俺がそう言うと、飛鳥は諦めたようにふっと息を吐き、こちらを向いて微笑んだ。


「それじゃ、お願いするわね」


「おう、任しとけ」


 2人でしばらく勉強していると業者が来たので荷運びを手伝い、その後荷ほどきや細々した生活用品を買いに行っているといつのまにか日が暮れていた。


 疲れたので食事はファミレスで済ませ、今は居間のソファに2人で座って、お茶を飲みながら一息吐いた所だ。ちなみにこのソファも飛鳥が持ち込んだ物である。


「今日はありがとね」


 ふーっと湯飲みに息を吹きかけながら飛鳥が言う。


「ああ? いいよこれくらい。いつも世話になってるし」


「そうかしら」


「そうだよ」


 会話が途切れ、しばらく2人とも無言でお茶をすする。けど居心地は悪くなかった。


 そういえば、と飛鳥が話し出す。


「あなた勉強のやり方変えたわよね」


「あー、担任に言われてな」


 担任には職員室に寄った際、勉強の仕方も教えてもらった。今は教科書の問題を中心に、ルーズリーフに答えや考えを出来るだけ丁寧に書いている。勉強会を始めた時のやり方より進むのは遅いが、身になっている気がして俺は気に入っている。


「……ごめんなさい」


「え?」


 俺は突然の言葉に驚いて飛鳥の顔を見た。


「勉強会の時、貴方に指摘するべきかどうか迷ったの。でもやめた。それで嫌われたくなかったから」


「……だから担任のところに行かせたのか」


「そう。ごめんね、こんな面倒臭い幼馴染で」

 

 隣で自嘲するような笑みを浮かべる飛鳥の額に、俺はデコピンを食らわせた。


「いたっ」


 大袈裟に痛がる飛鳥に、俺は何を言うべきか考えながら言葉を紡ぐ。


「べつにそんなこと気にしてない。そもそもその程度で面倒臭いなんて言ってたら、俺なんて面倒の塊みたいなもんだ」


「俺たちは幼馴染だし、同居してる今はもう家族みたいなもんだ。家族に遠慮なんていらないだろ、だから気になることがあったら何でも言ってくれ。俺はそれくらいじゃ、お前のことを嫌いになんかならないから」


 飛鳥からの返答はなく、代わりにことりと小さな頭が俺の肩に預けられた。さらさらとした黒髪が俺の胸元にかかる。


「おい、眠いならベッドで寝ろ」


「誰かさんの長台詞が退屈で」


「お、お前なぁ!」


「うるさいわね、もう少し静かに出来ないの?」


「……」


「心臓の音がうるさいわ」


「俺に死ねって言ってんのか!?」


 そりゃいくら幼馴染とはいえ、美少女とこんな距離で接していたら鼓動が早くならない方がおかしい。


「ねぇ」


「なんだよ」


「貴方の頑張ってるとこ、久しぶりに見たわ」


「……そうかもな」


「期待、してるから」


「……ん。あんがと」


 こうして俺たちの同居は始まった。


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