第14話 逃れられぬさだめ
勉強会の為に図書室へ向かう途中、俺はふと気になって飛鳥に尋ねた。別に必死になって勉強会から逃げようと考えを巡らせているわけではない。
「ところでお前ら部活は良いのか?」
最近こいつら部活行ってなくないか。
「今はテスト前だから部活は休止中よ」
「この前のミーティングで終わりだったんだよね!」
「チッ!」
俺は盛大に舌打ちをこぼした。畜生、もう逃げ場はないのか。
……ちなみにこいつらは揃ってバドミントン部である。
橘もそうなので、同じ部活の人気者が3人集まればそりゃクラスの中心にもなる。
ちなみに俺も一応バドミントン部ということになっている。一回も参加していない完全な幽霊部員だが。早く辞めたいのだが、この学校は規則で全員何らかの部活に入っていなければならないのである。
放課後の図書室では俺たちの他にも何人かの生徒が勉強していた。小声での会話は黙認されてるので、俺たちは声のトーンを落として会話をする。
「この辺でいいんじゃないかな」
丁度3つ並んで空いている席を水瀬が見つけたのでそこに座ることにした。奥から水瀬、飛鳥、俺の順番で座る。
「今日は数学をしましょうか、では二人とも教科書を出して頂戴」
「はーい」
水瀬が素直に返事をし、俺も流石に諦めて渋々教科書を取り出した。
水瀬の教科書は丁寧に使っているのか綺麗なままだった。
一方俺の教科書は一度お茶を溢してカピカピになっている。
「今回の範囲の例題を順に解いて行って。分からないことがあったら聞いてくれていいから」
「おっけー」
「……わかったでやんす」
水瀬はノートを取り出して書き始めた。
飛鳥はなにか参考書を解いているようだ。
俺もやるかと思い、教科書を眺める。
単元の最初の方の例題は易しいものが多く、授業に置いてけぼりの俺でもなんとか分かった。
答えを教科書に書き込み、次の問題に移る。……むーん。もう少しで解けそうだったが、いまいち分からなかったので答えを見ると解き方の方針が違っていた。
そういうのもあるのかぁ、まぁ解法は一つとは限らんよなうんうんと俺は腕組みをしながら頷き、答えを見て覚えてからさらに次の問題に移る。
……全然分からん。すぐに諦めて解説を読むとすんなりと納得できた。
これは拙者才能あるでござるかなニンニンとニヤニヤしていると、飛鳥がとんとんと肩を叩いて来た。
そちらを見ると何故か溜息を吐かれた。
「もう少し静かに出来ないの?」
「あ、悪い。気をつけるわ」
「存在がうるさいのよ」
「それは気をつけようがなくないか!?」
……全然分からん。
俺は教科書から顔を上げた。
時計を見ると、もう一時間ほど経っていた。
さて、そろそろ休憩挟んでもいいんじゃないか?
と両隣の彼女達の様子を伺うと。
「「………………」」
彼女達は、顔を上げていなかった。
というか、俺の様子にも気付いていないみたいだ。
飛鳥が右手でペンを走らせながら、左手で垂れた髪を耳の後ろに掛けていた。
水瀬はペンをおでこに当てて、何やら考え込んでいるようだ。
そんな、彼女達の真剣な横顔を見て。
……あーあ。
俺は教科書に再び目を落とした。
俺達二人とも分からない部分を飛鳥に聞き、彼女の噛み砕いた解説に納得し、また続きをやる。それを繰り返し下校時間まで俺たちは図書室で粘った。
図書室を出た後はそのまま3人で一緒に帰る。
「勉強会、この3人でやるのは初めてだったけれど、どうだったかしら?」
「うーん、なかなか進まないけど……まぁまだ一週間あるしね! なぁに余裕ですわ!」
「俺は結構進んだ。こりゃ中間はもらいましたわ!」
水瀬が少し不安そうな顔をした一方、俺は特に根拠なく勝利を確信してみる。飛鳥はそんな俺を微妙な表情で見ていたが、何も言ってこなかった。