第11話 朝から登校
次の日、俺はまだ早朝と言っていい時間帯に目が覚めた。綺麗に片付いた室内を見渡し、俺は大きなあくびをひとつする。
昨日は飛鳥を送って帰ってくるともういい時間だったこともあって、シャワーを浴びてとっとと寝た。不健康な生活の疲れも溜まっていたみたいで、割とぐっすり眠れた。
とりあえずLINEで今起きたと水瀬に報告した。すぐに既読がついたが返信は来なかった。もしかして怒っているのだろうか。ふぇぇ、学校行きたくないよぉ〜ママ〜。
久しぶりに朝食に何か食べようと冷蔵庫を開く。昨日の食材の残りでもないかと見ると、「朝食用」と書かれたラップに包まれて卵焼きと焼き鮭が入っていた。……本当にあの幼馴染には頭が上がらない。
昨日の白米と味噌汁と一緒にありがたく頂き、他の準備も済ませているともういい時間になった。
再び学校に行きたくないという本能的な欲求に駆られたが、今日行かなければ更に行きづらくなると自分を説得して家を出た。一日サボった後の学校の怠さは異常。
学校に近づくにつれ、制服を着た奴の姿が増えていく。今日は天気が良い。晴れた空の下、周囲の景色を楽しみながら俺はのんびりと歩いていた。
「おいもうぎりぎりだぞ〜、たらたらしてんじゃねぇぞ〜……って、二宮じゃないか」
校門の前にやる気無さそうに立っていた教師がこっちを二度見していたので足を止めて挨拶すると、いかにもだるそうにジャージを着た我が担任は驚いた顔をしている。
「あれ? もう昼過ぎてたっけ?」
「僕を時報として使わないで下さい!」
「一体どうした? この前の私の名言が効いてきたのか?」
「ただの心境の変化です。え、すいませんなんか言ってましたっけ」
担任の話は一応ちゃんと聞いていたつもりだったのだが、これは少し反省――
「まぁ思い出せなくても無理はない。だって言ってないからな」
「言ってないのかよ! じゃあ何で名言なんて言ったんですか!? 余計な罪悪感感じちゃったんですけど!?」
「いや、私のなんでもない言葉でも名言扱いしてくれないかなって」
「自分に自信あり過ぎか!」
「あ、ひとつ思いついた。……『二宮ぁ! お前はなぁ、腐ったみかんなんだよ!』」
「パクりじゃねぇか! しかもそこは否定しなきゃ駄目でしょ!?」
そこまで話して、割とぎりぎりの時間だったことに気付いて会話を切り上げる。
下駄箱まで移動し、靴を履き替えて廊下に出る。そこで目についた近くに落ちていた空のペットボトルを手に取った。砕けろリア充の残骸、こうしてやるーと思いながらゴミ箱に投げ入れていると、もう生徒への挨拶はいいのだろうか、戻ってきていた担任が微妙な顔をしていた。
「……お前そういうとこあるから、なんか嫌いになれないんだよな。……まぁなんにせよ、お前が学校に来てくれて良かったよ。それじゃあな」
彼女はそう言って、俺の頭をくしゃくしゃと撫でて玄関へと戻っていった。
……わざわざそれを言いに来たのか。俺はなんとなく、撫でられた髪を指で弄った。