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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
前編 クズと中間テストと学年二大美少女
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第9話 幼馴染in俺の部屋

「へぇ、このアパート変わってるわね。建物の1室が丸々ゴミ箱になってるなんて」


 俺の部屋の扉を開けた彼女の第一声だった。


「おいおいよく見てくれよ、ちゃんと下着は一箇所に纏めてあるだろ? ゴミ箱じゃこうはいかねぇぜ?」


 飛鳥は弁明する俺を信じられないものでも見るかのように睨んだ。


「当たり前でしょう。もしそんな汚物が散乱していたら絶交していたわ。二度目の絶交ね」


「1度目と2度目の間隔が狭すぎる! 俺達は小学校低学年かよ!」


 彼女はふんと腕を組んだ。


「これは掃除が必要ね」


「え、良いよ別に。調理器具は使ってなくて綺麗なままだし、料理はできる」


 俺は少し慌ててそれを止めたが、


「うるさいわね、今更変な遠慮なんていらないわ。それとも、見られると不味いものでもあるの?」


 結局飛鳥に押し切られてしまった。全く、彼女には世話になりっぱなしだな。 


 ちなみにそういう見られて不味いものは全部スマホに入ってるので安心だ。
















 そういう訳で、2人で掃除をする。

 飛鳥は明らかなゴミを処分し、俺は散らばった服なんかを整理している。


「かなり広いわね、この部屋」


「二部屋分の広さがあるらしいぞ。来年には妹と住む予定だからな」


「もうあの子も高校生になるのね……。それで? 今のうちに散々に部屋を汚してアパートを追い出されることで、妹との同居に抗議しようとしてるの?」


「そんな身体張った抗議しねぇよ!」


「でもそんな計画でもなければ、こんなに散らからないと思うのだけれど」


「はぁ、すいませんね」

















 そんな会話をしながらも飛鳥がてきぱきとやってくれたおかげで、部屋はだいぶ綺麗になった。



 ごうんごうんと洗濯機の回る音が室内に響く。


「ようやく普通に散らかってる部屋くらいにはなったわね、今日はこの辺で勘弁してあげるわ」


 飛鳥はそう言って制服の上から紺色のエプロンを着けた。

 ちなみにそのエプロンは俺が以前張り切って買ったものだ。安心の新品未使用である。4月病って怖いよね。


 いつもは下ろしている髪を後ろで縛った彼女の姿は中学の頃を思い出させる。


 ……それにしても、絶えず告白されているというだけのことはあるな。俺も幼馴染じゃなかったら割とやばかったかも知れない。



 そんな風にぼーっとしていた俺に声が掛かった。


「貴方も手伝って頂戴。お米くらい研げるでしょう」


「おっし、じゃあこの洗剤で」


「そういう古典的なボケはいいから」














 そして我が家の机に始めてまともな料理が並ぶ。

 これが知らない奴なら味が少し心配になったりするところだが、彼女が料理が上手いのは知っていた。というか何度か食べさせて貰ったこともある。

 二人で手を合わせ、食べ始める。

 一口食べて、俺の口から、思わず素直な言葉が零れる。


「うっま」


「……そう、良かったわ」


 そう言って笑った飛鳥は俺の視線を感じてか、すぐにんんっと咳払いをして笑顔を消した。


「け、けれど、美味いしか言ってくれないと作りがいがないわね」


「……ほう。この味噌汁、出汁にこだわりを感じる」


「そうそう、そういうのでいいのよ」


「さてはこれは、利尻産の昆布から出汁をとってるな!?」


「ま、これ粉末出汁なんだけどね」


「おい!」














 そんな会話をしながら美味い飯を食べ終わり、さてもう飛鳥は帰るのだろうかと俺が思っていると、なんと彼女は俺の部屋でくつろぎ始めた。


 今は俺のベットに寝っ転がってスマホを見ている。


「あのさ、そこ俺の定位置なんだけど」


 俺が抗議すると、飛鳥はスマホを見たまま返事を返してくる。


「煩い蝿ね、駆除されたいのかしら」


「そこまで言われなきゃいけないようなことしましたっけ!?」


「ねぇ、未来と何かあった? 事故の後」


 飛鳥はスマホから視線を上げずに言った。

 どうやら水瀬とやりとりしているようだ。

 特に隠すようなことでもないか。


「あー、この前放課後2人でカフェに行ったから、それかな」


「え」


 飛鳥はスマホから目を離してこちらを見た。水瀬は飛鳥にこのことを言っていなかったのか。


「あなたが? 未来と放課後デート?」


 飛鳥の言葉に今度は俺が驚いた。


「え、あれデートだったの?」


「2人で放課後カフェに行ったんでしょう?」


「まぁそうだな」


「じゃあデートよ」


「まじか」


 俺の人生初デート相手は水瀬か。まぁちょっと子供っぽいところもあるが、俺には勿体ないくらいの相手だな。


「……私もそんなことしたことないのに」


 囁くような声で呟いた飛鳥に、俺は少し驚いた。


「え、そうなの? 意外だな、結構お前ら仲良さそうなのに」


「そういう意味じゃないわ」


 俺は何がそういう意味じゃないのか分からなかったが、飛鳥は話を続けた。


「でも珍しいわね。彼女、男子と2人で出かけたりなんてしないのに」


 飛鳥の言葉は少し意外だった。人気者の彼女なら一緒に遊びに行きたい奴は多いだろうに。それだけ水瀬は俺に恩を感じていたってことなのだろう。

 それなら、お礼を断らなくてよかったと思った。却って彼女を傷付けてしまうところだったかもしれない。


 俺がそんなことを考えていると、飛鳥はぽつりと言った。


「貴方達、随分仲が良かったのね。全然知らなかったわ。……言ってくれれば良かったのに」


「うんにゃ、ちゃんと喋ったのはその日が初めてだ」


「そうなの?」


 少し寂しそうに目を伏せていた飛鳥だったが、俺の言葉に顔を上げた。


「おう、水瀬が誘ってくれたから行っただけだ。俺の教室での様子を見ていれば分かるだろ」


「……そうね。ところであのわざとらしい寝たふり、見ていて痛々しいわ」


「は、はぁ!? ね、寝たふりじゃねぇし!?」













 飛鳥はベッドから降りて、クッションに座り直した。


「そういえば未来が朝やたら張り切っていたけれど、何かそれと関係があったのかしら」


「あー……もしかしたら、俺に朝から学校来いっつってたから、それかもしれん」


 飛鳥によると今日の水瀬はなんだか上の空だし、心配そうに何度もスマホを見ていたらしい。


 取り敢えず後で連絡入れて、明日直接話すことにしよう。


 あー。明日学校行きたくない理由が一つ増えてしまった。


 彼女はなるほど、と頷いていた。


「確かに……貴方、そろそろ出席が不味いのではないの?」


「べ、別にそんなことねぇし」


「今更意地を張るのはやめなさい。……それで、今日は上手くいかなかったようだけど。何か考えているの?」


「……どうしよう。いや、頑張ってみようとは思ってるんだが」


 飛鳥にかっこつけてもしょうがないかと思い、俺は正直に言った。


 実家にいたときは家族の目があったし、なんだかんだ多少夜更かしはしても学校に支障が出るほどじゃなかった。


 詰まるところ人の目がない一人暮らしと、帰宅部になったことで生まれた暇な時間が影響しているのだ。


 意志力でなんとかなると昨日は楽観的に思っていたが、この一年で染みついた怠け癖は、そう簡単に消えてくれたりはしないみたいだ。


 俺がそう話すと、飛鳥はなにやら考え始めた。


 俺は解決があまりに困難な難題を彼女に突きつけてしまったことを今更ながら後悔した。


「ごめんな、答えの無い問題に取り組ませてしまって。聞いて貰えただけで気が楽になったよ。……ほら、俺のおすすめの漫画読むか?」


「なんでちょっと上目線なのよ。というか、そんな難しい問題じゃないでしょう。暇な時間については後回しにするとして、貴方に早寝早起きさせる手段は思いついたわ。ただ……」


 そこまで言うと、飛鳥は何故か黙り込んでしまった。


 …………。

 俺はガリガリと頭を掻いた。


「あー。やる気がないように思えるかもしれない。だけど、俺がなんとかしたいと思っているのは本当だ。だから、何か思いついたのなら教えて欲しい」 


 俺がそう言って頭を下げると、飛鳥はため息を吐いた。


「……いいわ、分かったわ」


 彼女は話してくれるようだが、何故か俺と視線を合わそうとしなかった。


「つまり、人の目があればいいのよね?」


「おう。だけど妹はまだしばらくこっちに来る予定はないし、両親は論外だし……って、まさか」




「……簡単よ、私が一緒に住めばいいの」





 何でもないことのようにそう言った飛鳥だったが、彼女の長い髪の隙間から見えた耳が、赤く染まっているように見えたのはきっと気のせいじゃない。

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