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第八十七話『咎人達の宴』

「えーー、お婆さん! 戦鬼(オーガ)だったの!?」


 牢屋から出てきたお婆さんの姿を視認したリファが大声で叫んだ。それはもう、絶叫と言っても差し支えない。


「あら、お嬢ちゃん。驚かせてしまったかのぅ?」


 ゆったりと話すお婆さんの肌は灰色がかっていて、その額には大きな一本角が生えている。


「か、かっ、かっこいーー!!」


 語彙力を失ったのか、リファが子どものように無邪気に叫んだ。


「あら、ありがとうね。この角を見て怖がらないなんて嬉しいねぇ」


 角の生えたお婆さんが目を細めて優しく言った。


「小さな頃に絵本で見たことがあるわ!! とても強いのよね!?」


 正直、僕もその姿には驚いているのだが、リファのあまりの絶叫ぶりに冷静にならざるを得ない。人は自分よりも動揺している人を見ると冷静になる性質があるのだろう。


「おっ、なんだなんだ、ローク婆さんとお前さん、知り合いなのか??」


 サンドルさんが楽しそうにリファへと話しかけた。


「お前って私のこと?」


 お前呼ばわりが気に障ったのか、リファがサンドルさんを睨みつける。


「そうだ、お前だよシュウの女」


「だ、だ、だっ、だれがシュウの女だって言うのよ! 私にはリファって名前があるのよ!!」


 頬を真っ赤に染めたリファが右手に持った大剣をブンブン振り回し猛抗議を始めた。


「おいおい、落ち着けよ。ん? その銀の大剣、まさかメルクリウスの……。嬢ちゃん一体何者だ??」


 リファの猛攻を赤子をあやすようにかわしながら、サンドルさんが問いかけた。


「皆さん、一旦落ち着きましょう。現状把握の為にも自己紹介でもしませんか?」


 僕の言葉が届いたのか、リファは小さく首肯して大剣を地面に突き刺し、ひとまずは話を聞く姿勢を示した。続いてサンドルさんも地面に胡座(あぐら)をかき話を聞く姿勢をとった。


「えーっと、では僕から、僕の名前はシュウ。白翼の光という組織の代表を務めています」


 代表とは言っても、実務面はアルマ・ピェージェが取り仕切っているし、組織の象徴はイブの翼であり、僕自身はお飾りのようなものだが……。


「ほぅ……。つまり君があの神殺しの少年というわけじゃのう?」


 一本角のお婆さんが柔らかい声音で言った。


「はい、一応はその認識で問題ないかと……」


 僕の言葉にお婆さんがゆっくりと首肯し、口を開く。


「あたしの名前はローク。サンドルの乳母をやっていた者じゃ。肩書きはそうじゃのー、、、神に背いた犯罪者ってところかのぅ?」


 その声音の中には、優しさだけではない力強さを感じさせる芯が通っている。


「俺の名前はサンドル。太陽の女神と人の間に産まれた半神だ」


 ロークさんに次いで、サンドルさんも力強く名乗った。


「私はリファ。シュウに全てを奪われた女よ」


 全員の自己紹介が終わり、一瞬の沈黙が訪れる。


「そうですね。このメンバーの共通点をあえて挙げるのであれば、全員が神に背いた経験があるということくらいですかね?」


 こんなにも罰当たりな集団は他にいないだろう。


「なるほど、なら話がはやい、何はともあれ仲良く出来そうだな!」


 サンドルさんがあっけらかんとそう言った。


「半神ってことはひょっとして、あんた偉いってこと?」


 半神に向かって、あんた呼ばわりをするリファ。正直見ていて、ヒヤヒヤする会話だ。神を殺した僕が言えることではないが。


「偉いどころか俺は、生まれてこの方数千年、ずっと差別されて生きてきたぜ??」


 物凄い過去を、平然と口にするサンドルさん。


「そ、そう……」


 金の教団で少なくない差別を受けていた彼女にとってその言葉は、どこか他人事には思えないのかも知れない。


「俺は、正直、この世界が好きじゃねー。だからシュウと一緒にぶっ壊してやろーと思ってよ。その方がきっと楽しいからな。お前も一緒にやるだろ?」


 半神の双眸は、真っ直ぐにリファの瞳を捉えていた。その問いに絶対の確信を持って。


「もちろん、答えはもう決まっているわ。私はすでに、色んな物を捨てて此処にいるのよ」


 そう言ってリファは、先程まで自身の目を覆っていた布を広い上げ、再び口を開く。


「真紅の布を対価に、白銀の眼帯をこの手に!」


 朱色の布は消え去り、彼女の手には銀色の眼帯が握られていた。


 リファはその眼帯で神の左目を覆った。そしてそのまま、地面に突き刺した銀色の大剣を引き抜き、声を上げる。


「さぁ、世界をひっくり返すわよ!!」


 その声は鼓膜を震わせ、心を震わせた。そして、その揺れはきっと、世界を震わす大きな揺れへと変わるのだろう。


 僕らは決して祈らない。それが届かないことを知ってしまったのだから。

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