第八十二話『混血』
日の教団に生まれて二千年。俺は太陽の女神と人間の間に生を受けた。髪の色は灰色で、性別は男。この小さな世界では、それだけでも最悪だと言うのに。俺は女神と犯罪者の間に産まれてしまった。
女神は俺を認めなかった。忌まわしき男を思い出させると。俺の灰色の髪は、この教団では忌み嫌われている。だが、俺が死ぬ事は無かった。半神の俺の寿命は途方もなく長く、神の十字架とでも呼ぶのか、自殺を行おうにもそれすら叶わない。そして不幸な事に俺は他者に殺される事すら出来なかった。
女神の髪色を受け継がなかった失敗作の俺は、これまた不幸な事に異常な程頑丈に作られてしまった。女神が差し向けた赤髪の戦乙女ですら俺に傷一つ付ける事が出来なかった。無抵抗で殺されたいのは山々だったが、神としての性質がそれを許さなかった。俺は自ら無抵抗に死を選ぶ事は出来ない。つまり俺には戦わないという選択肢は与えられなかった。
父は違えど、数十人にも及ぶ姉達を俺は殺したのだ。あれは確か五歳のことだった。
女神は産まれたばかりの俺の髪色を見て、俺が失敗作だと悟った。しかし、まだ父を愛していたのか、はたまた別の理由かは分からないが、産まれたばかりの俺をその場で殺す事はしなかった。
父について俺が知っていることは、異世界渡航者と呼ばれる人種だったという事だけだ。異世界渡航者とは文字通り、異世界から来た人間だという。そしてその父は、俺が五歳を迎える年に教団を裏切り元の世界へと帰ったらしい。そしてそれに激昂した女神が俺に姉達を差し向けたという流れだ。
この教団内で命を授かった全ての生物には神令と呼ばれる呪いが与えられる。それは太陽の女神が下す絶対の命令だが、その呪いですら、俺の命を奪う事は出来なかった。自殺を命令されようとも、俺にはそれが出来ないし、無抵抗でいる事も出来ない。どうやら死ね、という神令よりも、半神として宿った神の掟の方が優先されるらしい。
ならばと女神を殺そうと試みたこともあったが、それは神令によって阻まれてしまう。
長い長い冷戦だ。
女神には俺を殺すだけの力が無いが、俺にも女神を殺す手段が無いのだ。
いつからか全てが面倒になった俺は、自ら牢に入った。思考を止め、運ばれた食事だけを口にすることを選んだ。
何百年と天井を見つめながら無意味に時間を消費していた俺にも最近楽しみが出来た。
それは一人の男の物語だ。新聞で見るそれは、実に痛快で、俺に出来ないことをやってのける。
そしてそいつは遂に俺の目の前に現れて死んだ。
鮮やかな自殺。だがそれは未遂で終わる。
いや、正確に言えば一度死んで、すぐに蘇ったと言うべきか。
俺はこの現象を知っている。撒き散らした血は蒸発し、首の傷が完全に塞がっていく、そして数分後には意識も戻るだろう。
こいつももしや、俺と同じ……。




