第六十九話『底』
そこは、紛れもない戦場だった。
銃声が鳴り響き、金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鼓膜を揺らす。
「これも、シュウの記憶の中なんだよね……」
あまりにもリアルな音や香りに、ここが彼の心
象風景であることを忘れてしまいそうになる。
ここがシュウの記憶の中ならば、何故私は、彼ではなく、私独自の視点でこの場に存在しているのだろう。これではまるで、シュウの記憶というよりも、世界そのものの記憶を見せられていると言われた方が、まだ理解出来る。
いや、今はそんなこと、どうでもいいよね。
私は気持ちを切り替えて視線を前へと向ける。
硝煙でくもる視界の先には……。
「え? なんで……」
オレンジがかった茶髪を短く切り揃えた長身の男性がそこにいた。
髪の色も、瞳の形も、私とよく似たその人は……。
見覚えのある、どころの話ではない。私がその人を見間違えるはずもない。
「お父さん……」
なんでお父さんが、シュウの過去に登場するの?
嫌な予感という簡素な言葉では言い表せない程の不安が、私の心を支配する。
お父さんの手には銀色の拳銃が握られており、何かを恐れるように、ただただ銃弾を吐き散らしていた。
その弾道の先にいるのは……。
「シュウ」
なんとなく、分かってはいた。
この風景がシュウにまつわる過去ならば、彼が登場しないわけがない。
『リリース』
シュウが小さく呟いた。
彼に向かって突き進む弾道は、何か見えない壁に阻まれたかのように弾かれた。
銃弾をいとも容易くはじく少年を前に、父の顔は恐怖で歪み、手に持った拳銃を放り投げ、神に祈るように叫びはじめた。
『重力の檻を眼前の敵へ! 血を這うものへの呪いをここに!!』
父の叫びが天に届き、強大な力がシュウを襲う。
父の対面に立つシュウは、地面にめり込むようにして伏す。
これは間違いなく父の力だ。重力を操るレプリカ。
その強大な力故に父は、水の教団の信徒として戦争に参加したのだ。
「やめて、お父さん!!」
私は喉が潰れる程に叫んだが、私の声が、彼ら二人に届くことはない。
『哀れな信徒に救済を。魂の自由を与えよう。何も恐れる事はない』
地面に伏し、追い詰められているはずのシュウが、何事もないように言葉を発した。
攻撃を受けながらも穏やかなシュウの表情を見て、父の顔は更なる恐怖で歪む。
そして自分の死を悟ったのだろう、最期の言葉を残す為、父が小さく口を開いた。
『リファ、愛して……』
父がその言葉を言い終わることは無かった。
父の首が胴体に別れを告げたからだ。
「あぁ、そっか」
きっとここが地獄なんだ。
私は、父を殺した張本人に恋をしていたのか。
「そっか、そっか」
だったらもう、全部壊して終わりにしよう。
そんな、諦めにも似た決意が固まった瞬間、私の脳内に、私じゃない私の声が響いた。
「記憶の転送完了。新たな所有者の再起動を開始します」
私の知らない私の声が、私の意識を現実へと引き戻そうとする。
「十、九、八、七、六、五、四」
無機質なカウントダウンが進む。
「三、ニ、一」




