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教祖転生≠The story of a lie≠  作者: 新月 望


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第五十話『月の光』

 長い長い沈黙が続く。


 丸一日、何もしないというのは、想像以上の苦痛を伴うものだった。


 喉が渇き、眠気が襲う……。


 一体、何時間が経ったのだろうか。


 敵が眼前にいるこの状況下で、集中力を切らしてはいけない。分かってはいるが……。


「あのよー、確認なんだが、くっちゃべる位は問題ねーよな?」


 長時間の沈黙に嫌気が差したのか、太陽の女神が不意に話し出した。


「えぇ、不審な動きさえなければ、ご自由にどうぞ」


 赤いスーツの男が深々と頭を下げて言った。


「ちっ、神が四柱も揃って、丸一日何もしねーとは、世界始まって以来の大事件だな」


「そうね、まぁ、私達にとっての一日なんて、大した問題でもないわ」


「でも、人間のみんなには大変なこと……」


 各教団の護衛に視線をやりながら、月の女神が呟く。そんな彼女が率いる二人の護衛は、どちらも真っ白なお面を被っており、その素顔は窺えない。


「まぁ、人間にとってはそれなりの時間か。俺の率いる赤髪の戦乙女(ヴァルキュリア)には関係ねー話だがな」


 背後に控える二人の少女を誇らしげに語る太陽の女神。


「その子達は半神だものね」


「あぁ、強い男を見つけると、子を産みたくなるのが道理だろ?」


「とても女神の台詞とは思えないわね?」


「二人の神に抱かれておいて、よく言うぜ」


「それもそうかもね」


 そう言って控えめな笑顔を見せるウェヌス様。


「な、なんだよ、おめーが返してこねーと、調子狂うじゃねぇか……」


 その笑顔が意外だったのか、太陽の女神は酷く動揺した様子でそう言った。


「こんな時に言い争っても疲れるだけよ。でも、一つだけ訂正させて貰うわ。私は誰かに抱かれたことなんて一度足りともない。抱いたことはあってもね」


 愛と美の女神らしい気高さがその発言には感じられた。


「まったく、口の減らねー女神だな」


 呆れながらも心なしか、その声音には温かさを感じた。


「仲良しが一番……」


 月の女神が柔らかな笑顔を浮かべて呟く。それと同時に頭の耳がピクピクと動く。その様があまりに愛らしく、こんな状況下でも思わず頬が緩みそうになる。しかし、その声はどこか辛そうでもあった。


「ルーナ、身体は大丈夫?」


 ウェヌス様が心配した様子で問いかける。


「大丈夫……」


 元々声の小さな御方だとは思っていたが、心なしか、先程よりも元気がないように思えた。


「空の動きから予測するに、おそらく今夜は雲が月を覆い隠すはず。ルーナよ、少しばかり我慢してくれ」


 農耕の神が神妙な面持ちで言った。


 月の存在が何かに影響するのだろうか?


 そんな疑問に答えが出される前に、賊の男が口を開いた。


「私としては、満ちた月光をその身に浴びる、月の女神様のお姿を一度は拝見したい所ですがね?」


「てめーは黙ってろ!」


 太陽の女神が苛立ち混じりに怒鳴り声を上げた。


「いえいえ、黙るわけにはいきません。さぁ、皆様、お待たせ致しました。二十四時間の経過をお知らせします」


 男のその言葉が、止まっていたこの部屋の時間を動かす。


「では、私の信徒を返して貰おうか」


 農耕の神が鋭い声音で言った。


「焦らないでください。あなた方の寿命は無限に等しいのでしょう?」


 男は揶揄(からか)うようにそう(うそぶ)く。


「少なくとも、貴様の戯言に費やしたいと思える時間はない」


「分かりましたよ、今すぐに解放します」


 男はそう言って、指を鳴らす。


 乾いた音が室内に響く。


 すると次の瞬間、捕まっていたはずの土の教団の信徒達が円卓の外側を囲むようにして現れた。

 広すぎると感じていた室内が、急激にその人口密度を増す。


「貴様、私の信徒に何をした?」


「言っている意味が分からないのですが?」


 とぼけた様子で男は言う。その笑みは何か邪悪なものを感じさせる。


「信徒達から、信仰を感じない……。貴様、何をした!!」


 農耕の神が声を荒げて怒鳴った。


「私は約束を守りましたよ? 誓い通り、解放(・・)したに過ぎない。神への信仰という下らない楔からね。私はただ、白翼の光を見せただけです」


 男のその言葉の直後、円卓を囲んでいた土の教団の信徒が一斉に僕達へと襲いかかってきた。


 各教団の護衛がそれぞれの神々を守る。


「リリース!」


 ウェヌス様へと銃口を向けた信徒が、音も無く凍りつく。


 エルサさんも敵の剣撃を弾き、迅速に応戦していた。


「ちっ、もうこれは交渉決裂ってことでいーよな!!」


 太陽の女神が手の平を前にかざし叫ぶ。


 その手の平には凝縮された炎の輝きが……。


「やめろ、ソール! 我々の権能ではこの場の全員が死ぬ!!」


 農耕の神が焦った様子で叫ぶ。


「ちっ、そもそも、てめーの不手際だろうが!!」


「今は、目の前の事が先よ」


 ウェヌス様が太陽の女神を(いさ)める。


「我が信徒に月の加護を……」


 月の女神がそう呟くと、彼女を守る護衛達の動きが格段に素早くなった。


 しかし……。


 相手の数はおよそ五十人、押し切られるのも時間の問題だ。


 これだけの数の信徒が敵に流れたのだ。今すぐに時間を戻すのは不可能だろう。


 打開策を考えようにも、攻撃を捌くので手一杯だ。


「リリース」


 飛びかかってきた信徒が風の刃に切り裂かれる。


「リリー……」


 次の攻撃を繰り出そうとした瞬間、強烈な轟音が鼓膜を揺らした。


 その音の正体は、鉄の要塞から発射された砲撃によるものだった。


 宮殿全体が激しい揺れに襲われる。


 鉄の塊りが宮殿の屋根を根こそぎ破壊し、豪奢な天井が勢いよく崩れ落ちる。


「リリース」


 空気の壁を生み出して、崩れた天井を外へと弾き返す。


「流石は我々の王。しかし、残念、私の狙いはそこではない」


 赤スーツのその男は、いつの間にやら脱出したようで宮殿の外からこちらを眺めていた。


 天井が消え去ったことにより、曇りがかった夜空がその姿を見せた。雲の隙間からは僅かに月の光が(こぼ)れ出していた。


「うっ、だめ……」


 月の女神が苦しそうに言葉をもらす。


「では私からプレゼントを一つ」


 男がそう言って指を鳴らすと、夜空にかかっていた雲は消え去り、そこに姿を現したのは目が眩む程の満月の光。


「さぁ、姿を見せよ、醜悪な女神よ。貴様らの本質をここに晒せ!!」


 その言葉の直後、月の女神が絶叫する。


「みんな、私から……離れて!!」

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