第四十七話『二度目の会議』
僕にとってはおそらく、二度目の神誅会議が始まった。
円卓を囲むのは四柱の神々。
月の女神ルーナ。
愛と美の女神ウェヌス。
農耕の神サートゥルヌス。
太陽の女神ソール。
記憶の断片が正しければ、謎の男にナイフを投げつけられたのが、太陽の女神だったはず。
しかし、迂闊に口を開くわけにはいかない……。
敵を見極める事が重要になると、二度も警告を受けているのだ。あの鴉を信じるわけではないが、慎重にならねばならないのも事実だ。
そんな僕の思考を遮ったのは、太陽の女神の言葉だった。
「久しぶりの同窓会だってのによー、揃いも揃ってしけたツラしやがって」
真紅に染まったその髪は、太陽というよりも、戦場に咲く血の色を連想させた。
「何が同窓会よ、よく言うわね。ご丁寧に娘達まで連れて来て。戦争でもやる気?」
ウェヌス様が刺のある口調で語る。
やはり、このやりとりにも既視感がある。
しかし、そんな焼き増しのシナリオは早々に改変されることとなった。
「二人とも、くだらない言い争いは無しだ。もう敵はすぐそこに迫っている」
農耕の神が落ち着いた声音で二人の女神を仲裁した。
「あ? どういう事だよ」
太陽の女神が声を荒げて言った。
「この会議は二回目だ」
「なるほど、時を戻したのね」
男神の言葉をウェヌス様が補足した。
その言葉から分かるように、やはり、前回の会議の記憶を持っているのは、農耕の神と僕だけのようだ……。
「この前の時間軸では、この円卓に賊が侵入した。そしてそのまま、ソールへと傷を負わせたのだ」
「おいおい、冗談だろ? 太陽を司るこの俺が人間相手に遅れをとったと?」
「あら残念、そんな面白い記憶が無くなっているなんて」
ウェヌス様が嘲笑混じりに言った。
「消し炭になりてーのか? この淫乱女神が」
炎のような真っ赤な双眸がウェヌス様を睨みつける。
「やめて、明日の夜は満月。長引けばみんな殺してしまうから……」
月の女神のその一言で、二人の女神は沈黙した。
なんだかこの言葉にも既視感を覚える。
僅かに生まれた沈黙を埋めるように、男神が再び口を開く。
「今はあまり時間が無い。それに相手はメルクリウスの水銀を所持している」
「ちっ、あの野郎が裏切ったってわけか?」
苛立ちを隠そうともしない太陽の女神。
「いや、現段階では判断出来ない」
農耕の神は、あくまでも冷静に言葉を選ぶ。
「そもそも、その侵入者ってのは誰なんだ?」
「アルマ・ピェージェ、白翼の光の代表代理を務める男だ」
「まさか、そいつ一人でか!?」
男神とは対照的に感情を前面に押し出す太陽の女神。
「少なくとも、前回の襲撃時は円卓の上に彼一人が土足で現れた」
「それはまた、奇妙な状況ね。戦力を隠しているのかしら? いずれにせよ、何かしらの意図を感じるわね」
ウェヌス様が訝しげな顔で言った。
「そんな事よりも、なんで今になって教えた。もう少し早くても良かっただろーが!」
真紅の髪を揺らしながら、太陽の女神は激昂した。
「時間の遡行はデリケートな問題だ。世界への負担は最小限に抑える必要がある」
感情的な言葉に対し、あくまでも理論的に答える男神。
「もうすでに侵入されている危険性は無いのかしら?」
「あぁ、神誅会議の習わしに背く事になったが、私の信徒を五十名程警備に回している」
「今は非常事態、仕方のないこと……」
月の女神が小さく呟く。
「だがよぅ、警備を固めたら、獲物が侵入してこれねーだろうが。俺には記憶がねーが、やられた分はやり返さないとなぁ?」
好戦的なその言葉はとても女神が発したものだとは思えない。
しかし仮にも女神の言葉。
その言葉が運命を動かしたのだろうか、皮肉にもその願いは叶う事となる。
「報告します! 侵入者あり!!」
勢い良く開かれた扉とともに、額に汗を浮かべた男が叫んだ。
「侵入者の詳細は?」
伝令の勢いとは対照的に、冷静に情報を聞き出そうとする男神。
「そ、それが、巨大な要塞が……」
酷く動揺した様子で要領の得ない報告だ。
巨大な要塞? そんなものが襲ってきたというのか?
「二年前と同じ……」
月の女神は深刻な面持ちで呟いた。
「だったらこれは、俺だけのリベンジマッチじゃねーってわけだ!」
痺れを切らした太陽の女神が叫んだ。
「ソールの言う通り、これは我々神々の意趣返しとも言える。この戦いを亡き友へ捧げよう」
男神の発したその言葉の直接、ウェヌス様が横目で僕の瞳を覗き込んだ。
その瞳の中に憂いの色を感じたのは、僕の思い過ごしなのだろうか……。
僕の記憶は不完全だ。ピースの欠けたパズルはその全貌を晒さない。
それでも時は進んでいく。
一度戻った時の流れは、新たな未来を作り出す。
神が戻した運命を、動かすのは『人』か『神』
か……。




