第二話『世界の記憶』
これはきっと、始まりの記憶。
退屈しのぎで創られた、不完全な世界の歴史。
僕はそれらを覗き込む。
言わばこれは、通過儀礼ということだろう。
知らない記憶が、次の世界の成り立ちが、濁流となって押し寄せる。
なるほど、だとすれば僕は……。
* * *
初めに神は天地を創造された。そこには闇があり、混沌が渦巻いていた。そして神は言われた、「光あれ」と。すると出来たばかりの世界に、光が生まれた。一日目にして、世界には、光と闇が生まれた。光を昼とし、闇を夜と呼んだ。
二日目に神は、世界の味気なさに気づき、こう言われた。「水の中に大空あれ。水と水を分けよ」と。神の言葉を聞き入れた世界には、大空が創られた。
三日目の神は興に乗っておられた。「天の下の水は一つに、他は乾け」と。乾いた所を大地と呼び、水の集まった場所を海と名付けられた。しかし、それだけでは終わらない。何せ神は、興に乗っておられる。続けて神は、「地には草を、そして果樹を芽生えさせろ」と言われた。すると大地には草と果樹が芽生えた。
四日目になる頃には、神も疲れておいでだった。四六時中世界を照らすことに、嫌気を感じておられたのだ。そして神は言われた。「天の大空に光る物あれ」と。すると世界には、二つの大きな光る物が生まれ、それを天の大空に配置し、片方に昼を、もう片方に夜を治めさせた。
五日目に神は、暇を持て余したご様子だった。自ら世界を照らす必要が無くなったからだ。その余裕を退屈と捉えた神は言われた。「生き物よ水の中に群がれ。鳥は地の上、天の大空の面を飛べ」と。こうして海と空には生物が創造された。
六日目に神は、世界の仕上げに取り掛かられた。「大地よ、様々な生き物を産み出せ」神のその一声で、地上には様々な獣や家畜、土を這うものが創られた。
それらを良しとされた神は続けてこう言われた。「我にかたどり、我に似せた生物を創ろう。そして海の王、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うもの全てを支配させよう」と。
神は御自分にかたどって人を創造された。神はそれら全てを祝福して言われた。「産めよ、増えよ。さすれば全てを与えよう」と。
神の御言葉により、全ての命あるものに繁栄が約束された。
こうして天地万物は完成し、七日目に神は御自分の仕事を離れ安息なさった。
しかし、その安息も長くは続かなかった。それどころか、神の安息はその一日で消え去ったのである。
八日目に神は、人の欠陥にお気づきになられた。己が創り出した完璧な世界に、争いの種を蒔く存在。世界を管理するには不十分な模倣品。
再び神は自ら世界を管理することになさった。そして神は言われた。「我が魂よ、分かれ、支配せよ」と。
こうして世界には七柱の神が生まれた。神は自らの魂を七つの身体にお分けになったのだ。一人で世界を管理するのにはすでに、この世界は広がり過ぎていたからだ。
最後に七柱の神々は言われた。
「 」と。
どうやら世界の記憶はそこで途切れているようだ……。