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1-1-7. 静寂を噛む


「中に入っておいて言うのも変だけど、ホントにいいの?」

「んー……、余程汚さない限り大丈夫だと思う。別に脂っぽいモノじゃないでしょ?」



 本当は、あまり良くはない。

 ただ、楽器はこの近くには無い。

 電子部品や電子機器の類いもここには無い。

 当然ながら、壊れやすいモノも置かれてはいない。

 慎重に食べてもらえればそこまで問題では無いはずだ。


「うん」

「でも、一応用心してね」


 仲條さんは、改めてほっとしたような表情を見せた。


 誰もここを通る気配は無いが、念のため外からは見えず、かつ楽器からは極力遠い席に座ってもらう。

 音楽室中央より少し前方の、壁に一番近いところだ。


 彼女が袋から取り出したのはたまごサンド。

 これなら大きな問題にはならないはずだ。

 その横に置かれたのは紙パックのミルクティー。

 定番中の定番だろうか。



 袋を開ける音が、静かな音楽室に広がる唯一の音。


 窓の外からは、相変わらずの雨の音。


 継いで、紙パックを少し開ける音。


 さらに続いて、細いストローの先端がミルクティーに沈む音。



 これは――。





「……食べづらいよね」

「……ううん、そんなこと」

「いや、無いわけはないでしょ」


「…………」




 数秒の沈黙。




「…………うん」


 そして、小さな肯定。



「さすがに、凝視されると……。ちょっと食べづらい、かも」



 そりゃそうだ。


 ふたりだけの音楽室。

 ほぼ無音。

 正面には、ただのクラスメイト。

 しかも、男。


 食べづらくないわけがない。


 現に、彼女はたまごサンドの封を切ったものの、手を付けてはいない。

 口の渇きを僅かに潤す程度にミルクティーをひとくち――いや、0.2口くらいか――胃に落としただけだ。


「ごめん。だいぶ配慮が足りてなかったよね」

「そんな、海江田くんが謝ることじゃないよ」

「うーん……」



 こうなることが予想できていなかったわけでもないのだが、いざ直面すると、自分のあまりの無策さ加減に愕然とする。

 もう少し考えて行動を取れ、と強く思う。




 ――そうだ。




「……何か弾こうか?」

「え?」


 だいぶ意外な提案に聞こえたのだろうか。

 仲條さんは、あまり聞いたことのないトーンで返事をした。

 キンと張った高い声だ。



「……え? あ、そっか。海江田くん、吹奏楽部だもんね。そりゃそうだよね。楽器弾けるに決まってるよね」


 あはは、と少し乾いた感じの笑いを付け加えながら。


「とは言っても、あんまり大きな音出すタイプの楽器だと、後からいろいろ拙いかもしれないし……。準備室から引っ張ってくるのもちょっとだし。ピアノにしよっかな」

「あれ? 鍵盤楽器もできるの?」


 再度、意外そうな顔。


「一応はね」


 言いながら、楽譜が収められている棚を物色。

 暗譜している曲もいくつかあるが、やはり譜面を開いて目の前にあった方がちょっと気分が出る。

 ――いや、別に譜面台が空でも、何も問題は無いのだけれど。


「へー……。ピアノ習ってたりとか?」

「うん、まぁ……。そうだね」


 ピアノ教室に通っていたとかそういうことではないので何となく暈かした言い方になってしまったが、彼女はそこをさらに詮索するような素振りは見せなかった。


「中学の時は、1回だけ学校祭の合唱コンクールで伴奏もしてたりなんかしてまして」

「え、ホントに? それって、だいぶ弾けるってことでしょ」

「他にピアノ弾ける子がいなかったんだよね、1年のときのクラスは」



 そう――。


 致し方なく、というヤツだ。

 弾かなければどうしようもなかったのだ。


 翌年のクラス替えを経て、ボクよりももう少ししっかりとピアノを弾ける子がクラスメイトとなり、晴れてそちらに伴奏役を譲ることになったのだが。

 それはまた別の話。


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