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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-4. 虹と雪のバラード

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88/90

1-4-18. 哀愁によろしく


「大丈夫って?」



 御代と言われた上で大丈夫と重ねられても、それだけで理解しろというのは少し酷な話だろう。

 薄明かりの下、仲條(なかじょう)さんが困惑気味にボクを見上げてくるのもムリはない。



「ほんとに気にしなくて大丈夫なんだ。もうすぐどういう意味か解ると思うから」


「そうなの?」



 頷きを返して、ようやく仲條さんも何とか納得してくれたようだ。

 それでも不承不承という感じはまったく否定できない。


 ――いや、前言撤回しよう。

 自分のカバンからお財布を取り出している辺り、まだ納得はしていなさそうだった。



「御代の代わりにミルク多めのカフェラテを頼もうかなー、とか思ってたんだけど」


「注文しても大丈夫だよ。仲條さんなら、マスターもサービスしてくれるだろうし」


「んー……?」



 彼女的にはライブのドリンク代のような雰囲気で頼もうとしたのだろう――でも、マスターのカフェラテ、結構美味しいんだよな。

 なおも頭上に疑問符を並べまくっている仲條さん。

 とても、良い表情だった。

 ハッピーなサプライズになるはずなので、もう少し黙っていようか。



「ところでさ、海江田(かいえだ)くん?」


「何?」



 財布の中身を確認し終えて、仲條さんが訊いてくる。



「今日は元々ここに来る予定だったみたいだけど、何かあるの?」



 ――ああ、そっか。



「言ってなかったよね」


「うん」



 訊かせて、と目が訴えている。


 ――少し、ドキリとする。



「今日はね。『練習の日』なんだ」


「練習?」


「そう、練習。ほら、楽器ってさ、結構大きい音出るでしょ?」


「たしかに」



 学校で使うリコーダーなんてのもそう。

 モノにもよるけれど、管楽器は得てしてそれなりのボリュームが出るもの。

 中には消音システムを付けられる楽器もあるけれど、それは大抵がトランペットやホルンなどの金管楽器。

 ボクが吹いているような木管楽器は、それらに比べて幾分か出る音量は小さいけれど、かといっておいそれと何処でも演奏してよいものでもない。


 練習スタジオだったり、あるいはカラオケボックスなどを借りて練習する人も居るけれど――。



「なかなか気持ちよく練習できる場所って少なくてね」


「あ、そっか。だから……」


「そういうこと」



 ここは、そういうことをしても大丈夫なように設計がされているし、機材も揃っている。

 そして、なにより。



「それに、マスターの指導も受けられたりするしね」



 実は、それが目的のひとつでもある。


 ひとりでの練習は、やはり限界というものがあるのだ。


 とは言っても、過度に口出しをしてくることはない。

 どうしても目に付いた部分は別として、あくまでも現時点での指導のメインは高校の吹奏楽部にある、というスタンスは崩さない。

 そういう立場のようなものはしっかりと弁えることが出来る人だ。



「部活の休みの日とか、どうしても練習し足りないなぁって思ったときとか、来るんだよね」


「……吹部の休みって、あったっけ?」


「よくご存じで」


「お噂はかねがね」



 苦笑いを返すしかなかった。



「まぁ、滅多にないんだけど、結局楽器触ってた方が落ち着くんだよね」


「海江田くんらしいね」


「……そうかな」



 にっこり笑顔で言われると、なんとなく気恥ずかしくなってしまう。



「あ、そっか。っていうことは、練習ってピアノだけじゃないんだ」


「そうだね。もちろん時々はピアノもやるけど」



 芸事は1日休むと何とやら、なんて俗説的に言われたりすることがある。

 実際問題そこまで巻戻ることも無いとは思うけれど、さすがに何週間単位で触れないでいる時間が生じるのは怖さがあった。

 ピアノなんてその格好の例だった。



「待たせたな」



 何処かで聞いたような台詞と共に、マスターが戻ってきた。



「うわ、すっごい」



 仲條さんが驚く。

 それもそうだ。

 荷物運搬用のカートのようなものに載せられてきたのは管楽器。

 オンパレードと言っても差し支えない。

 それくらいに品数豊富だった。



「これって、マスターの私物なんですか?」


「瑞希本人のも混ざってるよ」


「管理してもらってるんだ。えーっと、これと……、これだね」



 フルートと、アルトサックスを手に取る。

 そこまで上級グレードの物では無いが、品質には定評のあるメーカーのものだ。

 母さんのお墨付きでもある。



「あれ? でも今部活でやってるのは……」


「部活でやってるのはこの楽器だけど」


 言いながら今度はオーボエに持ち替える。


「部活ではまだ学校のヤツを使ってるんだ」



 楽器の値段は、本当にピンからキリまである。

 フルートなんて、安いモノなら数万円程度だが、素材次第では1000万円近い代物になる。

 18金だぞ、18金。

 装飾品以外でなんて早々お目にかかれるものじゃない。

 ――そもそも装飾品でさえ、余り見たことはないけれど。



「そうは言っても、今度買ってもらうんだろ?」


「……出世払いだよ」


「ははっ、美波ちゃんらしいな」



 オーボエはそもそも安くはない楽器なので、それは仕方なかった。

 いっそのことマスターの私物を売ってもらおうかとも思ったけれど、それはマスターが止めた。

『お前なら新品で買った方がいい』とのことだが、真意はよくわからなかった。



「今日はどれにするの?」


「今日はオーボエだね」


「それってどんな音するの? 吹奏楽部の演奏聴く機会は多いけど、どの楽器がどんな音かってあまり知らなくて……」



 ごめんね、と付け足しながらぺこりと頭を下げた。



「そんな。恐縮することないよ。……言われてみれば、たしかにそうかもね」


「リコーダーとか、あとはトランペットとかはイメージしやすいだろうけどなぁ」



 マスターも納得していた。



「どんな楽器かは今度説明してあげろよ?」


「おっけー。今は、音を聴いてもらった方が早いしね」



 よく『哀愁のある甘い音色』なんて表現をされたりもするし、オーケストラの演奏なんかでもソロパートはオーボエが任されることも多い。

 要するに、わりと花形の楽器。

 ――ギネスブックに『世界一難しい木管楽器』として登録されているとのことだけれど。


 ダブルリードをセッティングして、準備完了。


 試奏くらいの感じなので、さほど息は込めずに。


 曲は――。



「何を演奏()るんだ? なんならベース音を足してやるぞ?」


「んー、……『海の見える街』にしようかと思うんだけど」



 仲條さんなら『海の見える街』は確実に聴いたことはあるはずだろう。

 閑静な町並みを箒から見下ろす魔法使いには、この楽器の音がよく似合うのだ。



「ああ、あれか。なら瑞希のソロで堪能した方がいいな」


「おー、見捨てられた」


「違ぇよ、バカ」



 鼻で笑い飛ばされた。まぁ、冗談なのはわかっているけれど。


 ちらりと仲條さんに視線を戻すと、――もう、それはそれは。

 ものすごい期待の目がこちらに向けられていた。

 予想通りではあるけれど、知っているらしい。

 さすが、この国を代表するアニメ映画のひとつ。



「まぁいいや。それじゃあ、ボクのソロでお楽しみください」



 満面の笑みで、拍手。

 期待感がスゴい。

 この前の定期演奏会よりも圧倒的に緊張する。

 目の前にいるただひとりのために演奏するなんて――。



 少しだけ胸にささくれ立った何かを感じながら、息を小さく吸う。


 吸い込んだ気流が少しぶれるのを感じた。

 良くない。

 一度深呼吸。

 呼気を取り込み直す。


 再挑戦。

 今度はうまく行った。


 ボク自身も好きな曲のひとつ。

 オーボエを吹くことになって真っ先に練習したのがこの曲だった。

 すっかり暗譜済みだ。


 貨物列車から飛び立った主人公が、ストーリーの舞台になる街へと降り立つ。

 晴れやかなシーンへとつながるまでの、少しセンチメンタルな8分の6拍子のメロディライン。

 甘い音色がいっそうそれを引き立たせる。


 新しい未来への期待感が、もっと膨らんでいけば良い。


 そんな想いが、伝わってくれれば言うことはない。


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