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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-4. 虹と雪のバラード

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1-4-16. 幼なじみについて、リプライズ


「それは、……まぁ、ほら、気持ちがわかるってことで」


「ほんとに?」



 明らかに疑っていた。

 テニス部らしいフットワークで言葉の一部を拾われてしまった時点でこの話題から逃げるのはすでに絶望的だったけれど、質問に対する答えもだいたい確信を持っているようだった。


 これは――。



「うん」


「……そういう意味で訊いたわけじゃないんだけどな」


「ですよね」


「ってことは、海江田(かいえだ)くんも幼なじみ、居るの?」


「居るよ」


「どんな子? ……女の子?」


「うん、女の子」



 良かった、とこっそり胸をなで下ろした。

『誰なの?』とか、もっと直接的なことを訊かれたらどうしようと思っていた。

 そうなってしまったら、さすがに黙すること以外に思い浮かぶ作戦なんてあるわけない。


 同じ立場だったら誰だってそう思うだろう。

 彼女の幼なじみが、自分の幼なじみと付き合っているなんて、こんなタイミングでカミングアウトすることなんて、とてもじゃないが今のボクにはできない。


 だからこそ少しだけ安心した。この訊かれ方だったら、まだ躱し様が――――?


 ――いや、ちょっと待てよ。



「どんな子、か……」


「うん」



 話を進めてほしいと促す視線が刺さってきて、とても痛い。

 それもそうか。

 自分だって話したんだから、君も話せ、と言う話だ。

 等価交換は大事。

 公正な取引をする上では避けては通れないことだった。


 が。



「どんな子……」


「悩むくらいに疎遠、だったりするの?」


「いや、……うーん。一時期は本当に、距離感どころじゃなかったけど」



 心の中で『ウチの学校に通ってたりするの?』なんて訊かれないことを祈りながら、言葉を必死に探す。


 なんと言ったらいいのやら。

 まともな答えが見つからない。


 たしかに中学2年からついこの間までは、ボクの方から離れるような行動を多く取っていたのもあって、実際問題として、割と疎遠だったと思う。

 もちろん今だって、そこまで近い距離になったとは思っていない。


 ――いや、そもそも近付いてはいけないんだけれど。



「だったら、今はすこし関係改善?」


「そう、なのかも。少し前の時期と今とを比べれば、っていう話だけどね」


「……いいなぁ」


「や、そんなに良くはないよ」


「そう?」



 反射で言ってしまって思わず口を噤んだが、仲條(なかじょう)さんはそこまで怪しむような様子はなかった。

 危ない。

 もう少し脳細胞で口から出す言葉を考えてから話さないと、取り返しの付かないことになってしまう。


 ボクと彼女が、仲條さんの中で繋がってしまったら――。


 今、それを考えたくはなかった。


 口にさえしなければ、まだ大丈夫。


 アタマでも、胸でも、自分の奥深くに鍵を掛けて閉じこめておけば。




 ――――誰も、傷つかない。




「私は、まだちょっとムリかなー。違うクラスだし。隣のクラスとかだったら選択科目とかでいっしょになったりしたときに何か話す機会とかあるかもしれないけど、わざわざ他のクラスに乗り込んでって、彼女持ちの人に話しかけるとか……ねえ」


「まぁ、そうねえ」



 それには同意できる。

 心境としては同じだった。


 話しかけられた側よりも、その周りにいる人間のことを考えると、ボクにはできない。

 どんな視線を浴びせられるか、考えただけで寒気がする。

 そもそも他クラスに乗り込むこと自体、昔からあまりしたことがない。

 部活の連絡事項があったときだって、教室の扉に一番近いところにいる子に声をかけて、こちらまで来てもらうタイプだった。

 ――神流は何も意に介さずにやっていたけど、あのアグレッシブさはボクにはない。


 中学の時だって、そうだ。

 幸いボクの教室は生徒用の玄関から一番近いところにあったので、聖歌のクラスの前を通り過ぎる機会がほとんど無くて済んだことに安心までしていたくらいだ。



「陰口言われるのだけはイヤかな、ボクも」



 中学のときは、それが怖くて距離を取ったという側面もあった。

 それだけではないような気もするけれど、今はそういう整理の付け方でいいはずだ。



「下手に波風立てたくないし」


「そうだよね……」



 失言だったかもしれない。

 言ってから、消沈した彼女を見て思う。


 気持ちに対してウソはつきたくないのが人情だと思う。

 でも、気持ちにウソをつかなかったときに起きることを考えると、という話なのだ。



「海江田くんは、今もその子のこと好きなの?」



 核心を突いてきた。


 それもそうか。


 意趣返しなんていうことを考えているとは思えなかった。

 きっと単純な興味からくる質問だったと思う。

 そもそもボクが先に、仲條さんに対して訊いたことだ。

 同じ質問が返ってきても不思議なことはなかった。


 でも――――。



「どうなんだろうね」


「……またそうやって」



 ため息をたっぷりと詰め込んだ苦笑いをプレゼントされた。

 そういうところだよ、という言葉をふんわりと包み込んだ苦笑だった。



「あー……、ごめん」



 アタマで思考をぐるぐると回して、答えが出てくるのを待ってみても、一向にその気配がない。

 本当に。

 実際の処の話。



「……どうなんだろう?」


「それは、本音?」


「残念だけどね」



 決して、今の感情からも、仲條さんの質問からも目を背けているわけじゃない、という気持ちを込めて、彼女を見つめてみる。

 数秒見つめ合って、「そっか」と小さく呟きながら、仲條さんは視線を外して前を向いた。


 気が付けばもうそろそろ『目的地』が近い。

 そういえばまだ仲條さんには、このあと何処へ向かうのかを伝えていなかった気がする。

 目の前にある幹線道路を渡る信号は、つい今し方赤に変わったばかり。

 この信号は長い。

 まだ大丈夫だろう。


 完全に夜色に満ちた空と街明かりとを交互に見て、ため息をつき、言葉を紡ぐ。



「よくわからないんだよね」



 口にして、はっきりと自分の外へと出してみる。


 わからないということが解る。

 それだけでも少しだけ前には進んだような気がするとともに、前に進んだことで自分の気持ちから少し距離を置いて見つめることが出来た気もする。


 それはさっき、少し離れたところから俯瞰して見た仲條さんの気持ちに対して抱いた感情に近いモノだった。



「結局はさっき言ったみたいな感じで、少なくとも嫌いとかそういうマイナスの感情ではないんだけど、でもラブなのかライクなのかよくわからない感情なのかもしれない」


「そっか」



 満足そうには聞こえなかったが、仲條さんは小さく息を吐きながら呟いた。

 


「似てるね、私たちって」


「……そうだね、そうなのかもしれない」



 幼なじみに対して、名前の付けられない、誰にもぶつけられないような感情を胸に抱えたふたり。

 同じ気持ちを持った人がいることを知ると少しは気が楽になる、なんてことを聞いたことがあったような気がした。

 あれは、やはりちょっとした勘違いのようなものなのだと気付く。


 そんなわけないのだ。


 実際に霧のように広がったモノが晴れていかないことには、何ともしようがなかった。


 ただ、楽にはならなくても、隣に人肌のような暖かさがあるのと無いのとでは全然違った。


 とても後ろ向きな気はしたが、それでも進めないよりは今のボクによって余程良い。


 たとえゆっくりとしたペースでも、これならば歩いて行けそうだ。


 横の横断歩道用信号が点滅を始めた。


 頃合いだろう。



「仲條さん?」


「なに?」


「このあと、『あそこ』に行こうと思ってるんだけど、時間ある?」



 指で示す先は通りを渡った向こう側にある路地。


 同じようなシチュエーションだったから、仲條さんもすぐに解ったらしい。



「大丈夫だよ」



 笑顔で答えてくれた。


 玄関を出てから今の今までで、いちばんの顔だった。



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