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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-4. 虹と雪のバラード

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1-4-15. ラブか、ライクか。それとも


訪問いただきまして、ありがとうございます。

あとがきではなく、今回はこちらに。



……といっても、書くべきことはあまりないです。

「ぜひ、お読みください」とだけ伝えさせてください。


そして、次に御目に掛かるのはこの章のエピローグになると思います。

できればそこまでお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。


「逆に、訊いてもいいのかな」



 極力穏やかに。

 そっと肩に手をかけて、いっしょに歩き出すような感じの声を心がけて、仲條(なかじょう)さんに聞いてみる。

 さきほどよりは少し色が差したものの、それでも街灯のあかりを受けた彼女の笑顔は雪のような切なさを孕んでいた。



「……ズルいなぁ」



 静かに淡々と降る雪の音にさえかき消されそうなくらいに、弱い声だった。



「え?」


「ズルいよ、海江田(かいえだ)くん。ちょっとだけだけど、ズルい」



 どうして、と口から出かかったけれど、思いとどまる。

 ここで彼女の言葉を促すのは逆効果のような気がしてならなくなった。



「私が勝手に言ってるだけだから、私の方こそズルいって話なんだけどね」



 こちらに顔を向けた仲條さんは、しばらくボクの顔を見つめて、やはり微笑んだ。



「いつも穏やかで、何でも話していいよ的な雰囲気でさ。たしかに話は聞いてくれて嬉しいときもあるけどね」



 ひとつ小さく挟まれたため息が、白くなって空に昇っていく。



「でも、いちばん聞いて欲しいところとか話したいけどどうしようか迷ってるようなところは、絶対に触れてこないよね。それってすごく優しいんだけど、ちょっとズルいな、って思った」


「……それは、ごめん」


「ううん、私の方こそ、変なこと言っちゃってゴメンね」



 ――ズルい、か。


 言われてみれば、そうかもしれない。

 思い当たるような節はたくさんあった。


 今、謝ったのも、もしかすると狡さの証明だったかもしれない。



「ホントは、さ」



 正解がわからないものに触れるのは、やはり怖い。


 そんなことを言ったって、人付き合いに本当の意味で正解なんてわからないし、もしかしたら正解と名付けられるような行き先はないのかもしれない。


 だから、触れられなかった。



「どうしようか、って思ってたんだよ。玄関で仲條さん見てから、触れていいのかどうなのか、って。……その、さ」



 口に出していいものか迷う。

 でも、ここまで来たら言わない方がおかしいかもしれない。



「学祭の日を、ちょっと思い出しちゃって」


「……!」



 息を呑む音。そして、すぐに微笑へと元通り。



「……やっぱり私の方がズルかったみたいだね」


「少なくともそんなことは、……無いよ」



 そのあとをつなぐ言葉は、思い浮かばなかった。







 1区画分くらいの沈黙を破ったのはボクだった。



「ひとつ、訊いてもいいかな?」


「なんでもどーぞ、……って言いたいところだけど、答えられるものだけね」


「祐樹とはいつからの幼なじみなの?」


「えーっとね……」



 拒まれるかとも思ったけれど、仲條さんはボクの予想よりよほど穏やかな顔をして自分の記憶を辿り始めた。



「幼稚園くらい? 幼稚園で仲良くなって、そのあとで家が近所だってことで、よく公園で遊んでたような記憶」


「へー……、そういう感じなんだ」


「公園で遊び回るの、すっごい好きだったからね。私も祐樹も」


「え。……へー」



 平静を装うような相鎚を打とうとして大失敗。

 喉に何か変なモノが引っかかったような声で途切れてしまった。



「……いいよ? 海江田くん」


「なにが?」


「正直にどーぞ」



 肩を少し竦めておどける彼女。

 だったら遠慮無く、正直に言おうか。



「すごく意外、って入学してすぐなら思ってたかも」


「そう? ほんとに? 今も思ってない?」


「今は思ってないよ。……テニス部ってところから察すれば、外遊びが好きっていうのはわかるんだけどね」


「あはは……」



 完全無欠な苦笑いだった。

 そんな力説のされ方をしても困るだろう。



「最初のイメージがね。最初は、仲條さんのこと、吹奏楽とか声楽とかやってそうだし、文化系の部活の子だって勝手に思ってたから、そのイメージが完全には抜けきってなくて」



 温和(おとな)しい話し方。所作もどちらかと言えばお淑やかな路線。

 入学してすぐの自己紹介のときから、活発に駆け回るようなイメージが余り持てなかった。



「そんなこと全然無いんだけどなー」


「うん。体育祭あたりでだいぶ覆ってはいるんだよ?」


「まだまだ甘いのね」



 それが仲條さんらしさでもあるような気はしていた。


 彼女が時々出すよく通る声も、腹式呼吸をしっかり習得しているあたり吹奏楽部なのだろうと思っていた。

 楽器ではなく運動で培ったものだと知ったのもその時だった。



「そういえば、海江田くん」


「うん?」


「前に、私の声を褒めてくれたことあったよね?」


「……あったね」



 いつだったかの音楽室での話だ。

 ピアノを弾いたりしながら、少しでも彼女の気が紛れればいいと思っていた。



「あれも、そういうイメージだったから、ってこと?」


「んー……いや、ちょっと違う、かな?」


「そうなの?」



 どう言えばいいやら。小さく唸りつつ時間を稼ぐ。



「……声がよく通るときがあって、って言う話したけど、やっぱりそれかなぁ。呼吸法がしっかりしてるときの声って普通より響くから。で、仲條さんの場合はそれができてる声だった、って感じかな」


「なるほどね……。全然本人にその自覚無いんだけどね」


「いつも大声で話するタイプじゃないっぽいしね」



 同じクラスの、いつも声の大きな誰かさんの顔が思い浮かんでくる。

 例に漏れず、すぐさま浮かび上がってきた陰のようなモノを手で掻き混ぜるようにして消し去った。



「よくご存じですね、海江田くん」


「同じクラスになって半年もなればね」



 それもそうか、なんて呟きながら彼女は視線を前へと戻した。


 それを見て、ボクは彼女からは見えない方向に顔を背けて、静かに大きく息を吐いた。


 言えない――。


 あのときの仲條さんの雰囲気が、仲條さんの思い人の彼女――聖歌が何度か見せたことのある表情によく似ていた、だなんて。


 間違ったって、言っちゃいけない。



 人心地ついて視線を向ければ、再び仲條さんもこちらを見ていた。

 どうしたのだろう、と目線だけで訴えてみると、少しだけ悩ましげな表情が返ってきた。



「でもさ」


「うん?」


「最近、よくわかんなくなってきて」


「……どういうこと?」



 表情と同じような、ぼんやりとした言い方だった。考えてはいるのだけど、その考えが全然まとまらないような雰囲気だ。



「『好き』って何なんだろうな、って。どういう感情のことを言うんだろう、って思っちゃって」


「それって、祐樹のことが……」


「……うん」



 躊躇いがちに小さく肯いて続ける。



「好きか嫌いかで言えば、好きよ。そういう感情があるとは思ってない。でも、……なんていうのかな。ラヴじゃないようで、ライクとも少し違ってて」


「ディア・ユウキ、的な?」


「あー、それなのかな? それさえもピンと来なくなっちゃってるんだよね」



 つかみ所の無い、むしろ全く掴める気がしない、よくわからない感情。

 でも、その『よくわからない』ということが、ボクにはよく解った。



「唯一無二の大切な幼なじみ、ってことでイイんじゃないかな、って思うよ? そういう感じ、ボクも解るし」


「そう……なのかな」


「難しい話だし、今はそういう結論でもいいでしょ」



 かなり無責任な言い方だと、自分でも思う。


 それに――。


 自分で言っておいて、自分の胸にダイレクトに刺さってきた。

 あまりにも急角度で曲がってくるブーメランだった。


 大切な人だ、ということは疑いようのない事実。


 ただ、公然と『好き』だと伝えてはいけない関係であり、けれども嫌いになる理由は見当たらないということも事実。


 そして、何よりも。


 以前のような距離感で同じ時間を過ごしてはいけないということが、事実として重たくのしかかってくるのだ。



「……『解る』ってどういうこと?」



 そして、思わず言ってしまった言葉は、取り返すことができないということも、また事実だった。





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