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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-4. 虹と雪のバラード

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1-4-X. 隠し味は入れないで


 まだ小さい頃は、今よりも幾分かイベントごとには参加・参戦していたと思う。それこそコンサートホールでの演奏会などは今でも聴きに行くこともあるけれど、お祭りの類いはご無沙汰だった。


 いつもは登下校のときに、そのまま地下鉄で素通りしてしまう都会のオアシス的な公園。


 こうして、雪まつりの会場となったこの公園に来たのは、何年ぶりなのだろうか。


 まさか高校生になって、しかも隣には――。



「やー……。すっげえ人だな」


「そうだね」



 あっけらかんとした表情で人混みを眺める彼がいた。


 部活まっただなかのお昼休憩のときまで着信に気が付かなかったのは、本当に申し訳なかったと思う。


 スマホは基本的に常時マナーモードで、通知機能も切っている。

 絶対集中をしなくてはいけない部活動中に、スマホを確認するなんて以ての外。

 そんなことをしたら、一瞬で小早川(こばやかわ)真央(まお)先生の堪忍袋の緒が切れるどころか、爆発して無くなってしまう――らしい。

 私はまだその姿を見たことがないけれど、先輩達がものすごく真剣な顔で言ってきたので、きっと本当なのだろう。

 できればそんな状況で歌なんて歌いたくはなかった。



「それにしても、遅くなっちゃってごめんなさい」


「いやいや、そこで謝られると……。ウチの部活がないからってそっちの都合も聞かなかったオレも悪いしさ」



 第一に思ってくれているということが、少なくとも毛嫌いするようなことがあるわけがない。



「しかも、呼んでおいてアレなのがさ。とくに何を見るとかそういうの全然決めてないっていうね」


「……相変わらずなのね」



 行き当たりばったり感も、さすがに慣れてきてしまっている。

 ――ただの慣れなのか、ひょっとすると麻痺なのかは、ちょっと判断がつかないけれど。



「だったら、とりあえず歩いてみよっか」


「そうだな」



 立ち止まっているだけというのは寒さがキツいし、そもそも他の人の邪魔にもなる。

 そうは言ってもとくに宛てがあるわけでもないあたし達は、ただなんとなく西の方へと歩を進めた。






 なんとなく話して、なんとなく笑って。

 そんな感じで雪まつりを堪能する。


 ――テレビの中継越しに見るのとそこまで変わらない気もするのは、あまり否定はしない。

 きっと人混みがすごすぎて周りに気を取られている所為なのだ、と思っておく。


 陽は沈んで、完全に夜の街。

 ライトアップされた雪像を見るために、柵の近くはかなりの人が集まっている。

 何重にも列が膨らんでいて、その先頭の方、柵にかじりついて見ているような人たちの姿は完全に見えない――。



 ――――――「そういうことなら言ってくれたら良かったのに」




「……え?」


「ん? どした?」



 人混みの中聞こえてきた声に、何故だか反応してしまった。


 今の声は――。



「ううん、なんでもない」


「そっか。ならいいんだけどさ……」



 そういうと彼は、ちょっとだけ気まずそうな顔をした。



「どしたの? 何か」




 ――ぎぎゅるるる。




「え」



 彼は無言のまま俯く。気まずいどころの話ではないレベル。一瞬、こちらも視線を逸らしてしまいそうになるけれど、何とかして堪える。


 ここで目をそらされたら、逆の立場になったとして、――これではいたたまれなさすぎる。



「今の……ってまさか?」


「はい、そのまさかだと思います」


「……おなかすいた?」


「ええ、その通りです」



 もしかすると、余計に傷を抉ってしまった気もするけれど。



「あー……でも、もう」



 彼が、少し違うところを見ている。その視線を追った先には、大時計。

 この区画の待ち合わせスポットのようなものだけれど、その文字盤はそろそろ帰路についた方が良さそうな時間だった。


 ――このあたり、しっかりした人でよかったな、なんて思う。



「そう……ね」


「じゃあ、この辺で」


「でも……」


「大丈夫、すぐそこにお世話になってるラーメン屋があるから」


「……そっか」



 なら、大丈夫かな。


 少し言わせてしまっている感じは悟っている。

 でも、ここではその言葉に甘えてしまわないと駄目だとも思っている。


 そう言い聞かせて、笑顔を彼に送った。


 引かれるような後ろ髪はない。そうに決まっている。


 ――彼に手を振りながら踵を返した瞬間に、彼とその同級生、さらに彼の先輩と思われる女の子が、どこかへ向かっていく姿を見たとしても。






                    ○






 日付変更線が目の前くらいになった頃合いを見計らって、こっそりとキッチンに入る。

 何も言ってないけれど、何となく晩ご飯のあとにお皿を洗っていたお母さんの顔を見た感じ、その雰囲気は悟っていたような気はしていた。

 あの視線の生ぬるさは、きっとそういうことだと思う。



「……それもそうよね」



 独り言。


 冷蔵庫を開けて、昨日仕込んでいたものを取り出す。

 ついでに横にある棚から器など、必要なモノも運び出す。

 なんとなく無音も寂しい気がして、ラジオのスイッチも入れておいた。

 チューニングの必要もなく、聞き慣れたDJの声が聞こえてきた。


 レポートや課題をするときには音楽を聴くこともあるけれど、ラジオもよく聴く。

 これは明らかに母の影響。『好きな音楽を中心に聴くのも良いけれど、知らなかった音楽を発掘するのもいいわよ』なんて言われたのがきっかけ。

 父も車を運転するときは欠かさずFMを流しているのも、影響の一端かもしれなかった。


 曲紹介もそこそこに、ジャズミュージックがかかる。

 定番のナンバー、というモノだけど、少しだけ新鮮な気がするのは、この状況の所為なのかもしれなかった。

 今までに経験がないわけでもないのに手元がおぼつかないような気がするのも、とりあえずその所為にしておく。


 準備が終わったタイミングで曲がフェードアウトして、そのまま別の曲へと変わった。


 今度は、いわゆるJ-POPだろうか。

 静かなイントロから始まって聞こえてきたのは、竹内まりやだ。

 両親ともにファンなので、あたしもよく知っている曲だった。


 そのはずだった。


 そのはずだったのに、不意を打たれた。



 ――どうして気が付かなかったの。



 メロディラインも歌詞も好きな曲のはずなのに、どうにも胸に突き刺さってくる。


 今更そんなことを、なんて嘲笑するように自分を見ている自分が背後にいるような気がしてしまう。


 この数年。こんな気持ちになることは少なくなかったはずなのに。


 どうしてこんなタイミングで、発作のようにやってくるのだろう。


 あたしは、歌詞に出てくる女性のような素直な人じゃない。


 たとえ忘れ物や無くしていた物が目の前にあったとしても、すぐに手を出せるほどの勇気も持っていない。

 ひとりでは、そんなことできない。 



 ――三度目のキスで、ミラクル。



 そんなことがあったら。


 あたしは――。




 どうするのだろう。


 すべてが変わって見えたとして、あたしは一体どうするのだろう。



 不意に自分のファーストキスのことを思い出して――――。




 ぎゅっと目頭が熱くなるのを感じる。





 ダメ。


 絶対にダメ。


 隠し味に涙なんて、絶対にダメ。


 そんなことはしちゃいけない。







ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


久しぶりな気がします、ローマ数字の回でした。

いよいよ第1章も佳境です。

2月のメインイベントへ突入します。


どうなりますやら。


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