1-4-8. 2日連続の参戦と着せ替え人形
2日続けてのいい日和。
というか、快晴。
朝からクリアに冴え渡った空は、星宮に極上の冷気をもたらすのに充分だった。
放射冷却にはうんざりだ。
「ほら。私が晴れ女って言うのは信じてもらえたでしょ?」
「……そうね」
肯くしかない。
実際問題、雪まつり開幕から2日はかなり天気が荒れていた。
朝から電車が止まったということで、特例として電車通学の生徒が来られなかった場合でも欠席にしないという措置が取られたほどだ。
そこからの、このお天気。
できたらその吹雪も吹き飛ばして欲しかったが、それとこれとは別問題と言うことにしておこう。
地下鉄駅の改札で待ち合わせた里帆先輩といっしょに階段を上がれば、昨日よりも大盛況だった。
「混んでるねー」
「昨日より多いかも?」
「そうかもしれないな」
午後4時を回った辺り。
軽食で小腹を満たした観光客が公園内をぶらつくのにうってつけの時間帯。
昨日来たときよりも人が多いのはそのためだろう。
「ちなみに、カンナちゃんに全部のプランニングは任せとくからね」
「もちろんです、先輩っ」
「……大丈夫か?」
「要らん心配は無用っ。ってか、昨日だって全然問題無かったじゃん」
「え?」
「待って。なんでそこで疑問形?」
むしろ、どうしてそこまで自信満々なのか、そこらへんに疑問符を7個くらいはくっつけてやりたい気持ちなんだけど。
「集合して、地上に上がってきて、いきなりフードコートに走って行ったヤツに言われたくないんだけどなぁ」
「いやいやいや、そこはほら。……ね?」
「『ね?』じゃない。カワイ子ぶるんじゃあないよ」
上目遣いをしたところで、性格的な部分を熟知しているので効果は無い。
「神流ちゃんはカワイイ子です!」
「ほら、先輩もそう言ってるでしょ」
「え。春紅先輩、何買収されちゃってくれてるんです?」
「人聞きの悪いこと言うなっ!」
「ぐふっ。いや、ごめん」
「対して痛くないでしょ。ていうか、腹筋カタいのね、意外と」
「まあね」
軽く腹パンが入った。
腹筋には一応力を入れながら、わざと痛がるフリをして謝っておく。
今後を考えた上での処世術と思って欲しい。
じゃれ合いつつ宛てもなく歩き始めたところで、春紅先輩が口を開いた。
「ノーガードで受けちゃうんだ、って思ったけどさ」
「何です?」
「やっぱり瑞希くん、手袋とかしてないんだねえ。中学の時からホントそうだよね」
「ああ。まぁ、クセというか、そんなモンですよ」
春紅先輩としては、前から見慣れた光景だろう。
手袋もマフラーも、基本的にはしないタイプだった。
上着のポケットには手を入れっぱなしだ。
別にかっこつけているわけじゃない。
――というか、ポケットに手を入れているのって、むしろダサいよね、なんてことを思っていたりする。
「うーん……」
「どうしたんですか?」
里帆先輩が唸り始めた。
「やっぱりさー。演奏者が手先冷やすのって良くないと思うのよ、私は。先輩としても」
「ですよね! この子かなり巧いのに、そういうコトに全然気を遣わないんですよー」
春紅先輩が里帆先輩に思い切り乗っかった。
「買い被りすぎですよ」
「いやいや、そんなことないから。マジで。中学の時からスゴかったからさ」
「そういえばハルカちゃんって、ミズキくんのこと熱烈に勧誘してたもんね」
「そりゃそうですよー。ほぼ全部の楽器できるんですもん、この子」
「え、そうなの?」
神流が驚いている。
それもそうか。
神流どころか、高校から知り合った人にはわざわざ自分からは言ってなかった気もする。
言う機会が無ければ、こちらから切り出す必要もないことだ。
「金管はさほどですよ?」
「ってことは、木管は完璧?」
「そういうことでもないですってば」
「ハルカちゃん。ミズキくんって中学の時は何担?」
「基本的にはサックスだったよね?」
「ですねえ」
懐かしい。
「でも、曲によってバランス取るためにフルートやったり、クラリネット行ったり」
「マジか!」
クラリネット担当の神流が猛然とボクの手を握りしめて――
「手、冷たっ!!」
「そっちかよ」
思わずツッコミ。
あまり勘の鋭い方では無いけれど、さすがにその勢いなら『何でクラリネットに来てくれなかったの!』とか、そういう文句をぶちまけてくるような気はしていたのに。
「いやいや、私より冷たいとかダメでしょ」
「まー、手が冷たい人ほど心は温かいとかいうけど」
「これは単純に冬の風で冷えただけじゃないです?」
「絶対そうですよ、これ」
何だか、この前と同じような流れになっているような――。
「これはやっぱり、お姉ちゃんたちで手袋を買ってあげよう!」
「拒否権無しね!」
「……マジすか」
「おやおやぁ? 先輩の奢りがイヤだってのかい? あんちゃん」
「なんですか、その『私の酒が飲めないのか』的な」
いいですってば、などと言おうと思っていたのに、あっさりとその道が封鎖されてしまった。
ふたりの先輩はすでに「どんなのがいいですかねー」「カワイイ系でしょ、やっぱり」「あ、里帆先輩もそう思います?」とか言って、完全にこちらのことを忘れている。
「せっかくだからもらっておきなさいってば」
「ほらほら、カンナちゃんもこう言ってるんだしさー」
「バレンタインの代わりってことでもイイっしょ?」
「あ、そっか! それもあったっけ!」
ぱぁっと里帆先輩の表情が晴れる。
「わー、先輩ってば完全に受験生だー……」
「ま、まーね。あははは……」
いや、コレ違うぞ。
素で存在忘れてた、ってヤツじゃないか?
「……私もいっしょに何か買ってもらおうかなー」
「……お前は」
「え? 別にいいよー?」
「ホントですか! やった!!」
――もう何も言うまい。
今日は流されてしまった方が、きっとラクなんだ。
ファッションビルに入ってきたのは、別にいい。
わりと寒さが沁みてきたタイミングでもあったのでその辺は助かった。
でも――。
「ここって、明らかに女の子向けのとこですよね」
「……言っちゃ悪いけど、そもそも男子向きだけのところって少なくない?」
「そうだけどさ」
せめて、その濃度のようなものがあるじゃないか。
この界隈の中でもいちばん新しいところは、完全に若い女の子向けとして特化しているショップのオンパレード。
間違っても男子高校生が、少なくとも単独では来ることなんてない。
ボクだって、こういう機会でもなければ入らなかっただろう。
「あー、これもイイかもー」
「こっちもカワイイですよ?」
「あ、ホントだ」
絶対的に『カワイイ』と評価されているモノばかりがリストアップされているのだけど。
これ、自分のモノを選んでいるわけじゃないんだよね。
いつの間にか目的が変わって、自分のモノを買いに来ているってわけじゃないんだよね?
ユニセックスとは書かれているが、その実態は限りなくフェミニン。
そもそも、ちょっと小さくないだろうか。
「ちょっと、お手を拝借」
「え」
「あー、イイかも!」
ミトンですか。
しかもパステルピンクの。
「だったらこっちはどうです?」
意外と丁度いいサイズ。
でも、手の甲の部分にすごく大きなリボンが付いているんですが。
――じゃなくて。
コレじゃ何だか。
「着せ替え人形みたいな気分になりますね」
「……ほほぅ?」
「なるほど?」
先輩ふたりの瞳の奥が、ギラリと光った――ような気がした。
これ、もしかして、何かマズった?
「ねえ、ハルカちゃん」
「なんでしょうか、里帆先輩」
「きっと今私たち、同じ事を考えついたんじゃないかな、って思うんだけど」
「奇遇ですね、先輩。私も多分同じこと思いついたと思います」
嫌な予感しかしない。
神流を含めたこの3人が意気投合したときには、基本的に何らかの事件が降りかかってくる。
「私の受験のあとでイイ?」
「もちろんですよ、部活休みの日については逐次連絡をしますのでー」
「ありがとー、さすが」
「いえいえー」
さっきのは全然気のせいじゃなかったらしい。
ゆらりとゆらめく青い炎が、ふたりの目の中に見えてしまった。
結局、ボクの意見も一応は取り入れられた結果、赤いタータンチェックの手袋を買ってもらうことになった。
青系とかブラウン系の方が、と言ってはみたモノの、赤系だけは譲ってもらえなかった。
ギリギリの妥協案として差し色として紺色が入っているものにしてもらったのだが――。
「あったかい」
「でしょー? だから手袋は必須だ、って」
案外、悪くなかった。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
プチハーレム感。
どうなんですかね。
弟的扱われ方ですけども。
ということで、今年の瑞希の雪まつりはもう1回分続きます。





