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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-4. 虹と雪のバラード

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74/90

1-4-4. 予餞会は盛大に

 昔はもう少しくらいは長く感じていたはずの冬休みは、高校生にもなれば一瞬の出来事。

 今まで生きてきた時間に対する比率で考えると、長期休みはこれからどんどん短く感じていくようになるのだろう。



 ――オトナになるって、こういうことなのだろうか。



 そんなことを考えてみるのは、ただの現実逃避のようなモノ。


 今、目の前に鎮座しているプレッシャーから視線を逸らすことで、わずかばかりの安寧を手に入れようとするようなものかもしれない。


 ふと隣を見れば、それはそれは哀しいほど、肩に力が入っている部員の姿がちらほら。

 そこまで緊張しなくてもいいのに、と何となくこちらの肩がストンと下がる。

 ――人のことはあまり言えた立場じゃなかったらしい。


 それもそうか。


 真正面には、同級生や2年生がずらり。

 視線の大半はあまりこちら側には向いていないが、演奏が始まればその瞬間は一気にこちらへと向いてくる。

 そういうものだ。

 よく知っている。



 指揮者の腕が上がる。


 行事の幕も、上がる。



 今日は予餞会(よせんかい)


 センター試験と2次試験のちょうど中間くらいにあたる1月下旬。

 今月唯一の、卒業式を除けば3年生にとっては高校生活最後の定例行事。


 卒業式はいつも卒業証書授与と祝辞だけで淡々と終わるものだ、という話を聞いている。

 ただ、それだけでは面白くないということで、その代わりに予餞会では全員が思いっきり弾けるのだ。


 さぁ。盛大に行こうじゃないか。







 定期演奏会ほどではないにせよ、やはり大勢の前での演奏はそれなりに緊張するもの。


 ――さすがに、肩肘の筋肉が硬直するほどではないけれど、さっきからやたらと欠伸が出る。


 これはとても単純な話、脳に酸素が行き渡っていないということ。

 一応緊張しているということなのだけど、傍目から見れば恐ろしく気が抜けているように映るだろう。

 今日はまだ誰にもバレていないが、こういうのって往々にして損をする。

 この説明を自分で出来なかった頃は、不条理な目に遭ったモノだ。


 こうして冷静に自分を見ていられるのは、まだマシな方。

 指揮からは意識を逸らさないようにしつつ、隣の子の様子を窺う。


 例の『意識しないように意識する』は実践できているのだろうか。

 残念だけど、達成率5割といったくらいだろうか。

 まだ少しおぼつかないようなところはあるけど、少なくとも成長の跡は見えた。

 あまり生意気なことを言えた立場では無いが、きっとこの子は大丈夫だろう。


 会場の第1体育館を暖めるべく演奏中の3年生入場前の曲は、校歌。

 訊けばこれは慣例のようなモノだそうだ。

 ケチを付ける余地はたぶん無いだろう。


 問題はここから。


 全部で9クラスの3年生。

 これもまた慣例のようなモノで、入場にはたっぷりと時間を掛ける。

 それこそ、校舎の床の感触を一歩一歩確かめるかのような。

 はたまた牛歩戦術のような。そんな感じだ。


 そうなると入場にはそれ相応に時間がかかるモノ。

 言い方は悪いが、割と早いタイミングで飽きが来る。


 その飽きを極力来させないようにするのも、ボクらの役目だったりする。


 9クラスを3分割し、それぞれ前半・中盤・後半のクラスに対してアンケートを取る。

 その中で出てきた人気曲を選んだり、あからさまなネタ曲などを拾ったりして、それらを随所で演奏する。

 ただ単純に入場シーンを彩るだけではないので、予餞会において吹奏楽部は案外フル稼働だ。

 むしろ、こき使われている感じもある。


 ちなみに、ここで選ばれた曲は一部が抜粋され、もう間もなく開催される我が部の定期演奏会で『マル秘メドレー』と題して再演される。



 もう一度聞きたい月雁高生は、ぜひ定期演奏会へお越しくださいませ。

 宣伝は短めに。

 これは原則ね。




 校歌の演奏が終わり、体育館が一旦静かになる。


 では、1曲目。


 春くらいに流行ったドラマの主題歌だ。

 バラードの、けっこうドラマティックな展開をする曲。

 正面の生徒たちからも「おおっ」と喚声が聞こえる。

 この曲に関してはアンケートをする前から『人気もあるし、たぶんどのクラスからも出てくるだろう』と予想されていたので、早々に着手をしていたという裏話があった。


 2曲目は、某深夜ラジオのオープニングテーマとしても有名な曲。

 こちらも「おー」と、先ほどよりは控えめな喚声。

 しかし、直後からくすくすと笑いが溢れてきた。

 神村先生のいうところによれば、何故か毎年根強い人気があるとのこと。

 吹奏楽的なイメージもあるのだろうか。


 しかし、この曲は演奏時間が短い。

 シミュレーションの結果、3回リピートしてもわずかに尺が足りないことが判明していた。

 人気はあってもあまり演奏回数が多くないという話だったが、その理由はこれだ。


 ただ、今年は採用している。

 3回目の演奏を終えた瞬間、各パート1人ずつを残し一旦着席。


 ――ボクは、残念ながら立ちっぱなし組。


 と、視界が開けた瞬間に、3年生の列に見知った顔を見つける。


 その人――川崎(かわさき)里帆(りほ)先輩も、こちらに気付いて、思いっきり全力で手を振ってきた。

 しかも両手。


 目立つ、目立つ。

 悪目立ち以外の何物でもない。


 しかもあの人、明らかにこっちを凝視して手を振ってきている。



「ミズキくーん! やっほー!」



 ――あ、名前()()()()()()



 ほら、指揮者が生ぬるい顔でこっち見てきてるし。


 運指、大丈夫かな。

 何か心配になってきた。


 まぁ、いいさ。


 きっとみんな今から演奏く曲で忘れてくれる。


 そう思いながらタクトに合わせて3曲目。

『ピタゴラスイッチのオープニングテーマ』が始まり、体育館は笑いに包まれた。







 4曲目は再びマジメに。

 こちらは夏くらいの時期に流行ったドラマの挿入歌。

 原曲が少しアップテンポだったので、入場曲向けにスローバラード風アレンジを施したもの。


 概ねどの曲も好評なようで何より。

 尺合わせの曲も受けが良くて助かった。

 だだ滑りだったらどうしようか、などとボクを含めた演奏担当者は言っていたのだが、杞憂に終わってよかった。


 さて、そろそろか。


 列を見ると、前部長・小村(こむら)先輩がようやく入場するというところだった。


 手には、楽器。


 指揮者の横まで歩いてきて、そこで立ち止まる。


 予餞会名物のひとつ、吹奏楽部前部長によるソロ演奏。


 それは、たとえ担当楽器が主旋律系の楽器でなかったとしても行われる。

 逆にそれが新しい色になることもある。


 小村先輩はバリトンサックス担当。

 演奏姿がイケメンと称されるタイプの、女子。

 ごく稀にいる、後輩女子から大量のバレンタインチョコをもらうタイプでもあった。


 相変わらずのカッコイイ立ち姿から、響く低音。


 1分程度、しっかりと演奏しきって、満足そうな笑顔で一礼。


 今日最大ボリュームの拍手が送られた。











 予餞会は最後まで笑いが絶えない。


 楽器演奏を終えた後は一時的に楽器を体育館の壁側に置き、基本的には自由に座ることになる。

 吹部生だけでなく、他の在校生も、卒業生も同じ。

 そのため会話も笑いもどうぞご自由にという雰囲気が出来上がる。


 定番とも言える謎のアンケートコーナー。

「お似合いのカップルは?」とか「社長になりそうな人」とか、基本的にはそんなんほっといてやれよ的な中身が大半。


 そんななかでも盛大に笑いを取っていったのは、「一発ネタコンテスト」。

 アンケートコーナーに何故突っ込まれたのか、というツッコミが入りそうなコンテンツだった。

 派生コーナーとして認可されたという話を聞いている。


 事前に1分以内のネタ動画を募集して、それについての人気投票を行っていたらしい。

 『らしい』というのは、このアンケートの投票権は3年生のみの特権だからだ。

 結果、1位を奪取したのは、『先生のモノマネ5連発』。

 これがかなりのクオリティ。

 在校生はもちろんのこと、まさかのモノマネされた先生も大爆笑というものだった。


 続いては、思い出振り返りコーナー。

 動画を交えたスライドショー形式で見学旅行や学校祭の名場面・迷場面の大公開。

 学校祭の大賞受賞作品の再放映シーンはスタンディングオベーションになった。


 体育館が今日一番の爆笑の渦に包まれたのは、出し物コーナー。

 学年単位だったり、部活単位だったりと、様々な括りで寸劇やらなんやらをお披露目するのだが、なんと言っても教職員による歌がスゴかった。

 スゴいと言っても、レベルの高さではない。

 残念ながらその逆。

 ――下手すぎた。

 下手すぎて腹筋が崩壊することになった。


 こちら側でも、もちろん大ウケ。

 マジメにやってくれるのは嬉しいはずなのだが、どうやったって笑いが勝つ。

 声を張り上げて音を外すものだからどうしようもない。

 指揮者役の合唱部顧問・小早川(こばやかわ)先生が笑いすぎて崩れ落ちるくらいだった。



「ひ……ひどすぎない……?」


「やばい、これはやばいっ」



 隣ではいつものメンバー――右側では、神流(かんな)がひきつけを起こしているし、左側の佐々岡(ささおか)くんなんか完全に文字通りに抱腹絶倒。



「痛いっての!」



 笑い転げて、そのままボクに蹴りを入れるのは止めて欲しかった。

 佐々岡くんの脛に軽くチョップを入れたところで、不意に視線を感じたような気がした。


 見ると対面あたりに、聖歌(せいか)がいる。

 その横には同じく合唱部の平松(ひらまつ)さんの姿。


 そのふたりと、目が合った。


 軽く手を振ってみると、ふたりとも手を振り替えしてくる。


 ジェスチャーで『あれ、ひどくない?』的なことを表現すると、うんうんと大きく頷き、破顔した。


 その顔は何だかとても懐かしい気がして、笑いながらもほんの少しだけセンチメンタルな気分になった。






ここまでお読みいただきましてありがとうございますー。


なんともいえない歌の餞別。

これ、実話ですw

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