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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-4. 虹と雪のバラード

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72/90

1-4-2. お昼の話題は意外とマジメに


 13時になって、ようやく1時間の昼休憩。

 完全におなかとせなかがくっつく2秒前、という感じの空腹具合になっていた。


 腹ごしらえは、お弁当持参だったり、途中で何かを買ってきていたりするのが多い。

 中には休憩時間中に一旦外へ出て何かしらのモノを買ってくる部員もいる。


 幸いにして月雁高校の近辺には、コンビニやスーパー、ファストフード店もある。

 一度、他の近隣の高校の側にはどんな店があるのか調べたことがあるが、月雁高校はこの括りで考えるとかなり恵まれている方だった。


 いつも通り、朝のうちに月雁駅そばのパン屋さんで買ってきたパン3つ。

 今日は、ソース焼きそばパン、野菜多めのサンドイッチと、クリームたっぷりのメロンパンだ。

 相変わらず朝から品揃え豊富で、ある意味困ってしまう。



「で。……何でみんな7組の教室に来てるんだ?」


「別にどこで食べてもイイっしょー?」


「まぁ、何かで決められてるわけじゃないけどね」


「でしょー? だったら問題なーしっ」



 そう言いながら、瑛里華(エリー)は満面の笑みでお弁当をご開帳。


 正直言ってしまうと、先ほどの精神的疲労感を回復するためにも、今日は静かに食べていたかったのだが。

 失敗した。

 どこかの空き教室にでも避難しておけば好かっただろうか。


 いつも通り、自分が普段授業で使っている教室で食べる、というのが何となくの慣習。

 とくに明文化されているわけでもないけれど、だらだらと脈々と受け継がれている文化だった。


 それが、今日は何故だか知らないが、例の勉強会のメンバーが1年7組の教室に集まっている。



「まーまー。たまにはさ、みんなで駄弁りながら食べたいときとか、あるじゃん?」


「わからなくもないけどね……」



 そう言って神流(かんな)が絡んでくる。


 よくよく考えれば、神流も1年7組所属だ。

 何となくの慣例に従って7組の教室に入った時点で、コイツからは逃れられない。

 つまり、静かな昼食など、土台無理な話だった。


 ――永久にさようなら、静かなランチタイム。


 だったらば、という話だ。


 みんなと話していることで、逆に気が紛れるというパターンもあるかもしれない。

 そっちに賭けてみるという作戦も悪くない。

 そう思い直すことにしてみよう。

 何だって気の持ち方次第、考え方次第だ。



「それで? その駄弁るテーマとやらはあるの?」


「ないわけじゃないんだけど」



 和恵(かずえ)さんが挙手する感じでトークテーマを持ち込んできた。


 よかった。これで話を振っておいて沈黙がやってきたらどうしようかと思った。

 佐々岡(ささおか)くんに一発芸でもやらせるような事態にならなくて、かなり安心した。



「みずきくんに、ちょっとマジメな話」


「お? おお? まさか、こんなタイミングで告白とか!?」


「その恋愛脳を何とかしなさい」



 余計な囃し立て。

 神流のことだし、絶対そう来るとは思っていたら、案の定だ。

 最近はむしろ専売特許のようなところがあると思う。



「で、実際のところは?」


「……う、うん」



 ほら、微妙な空気。


 小さく、ちょっとだけわざとらしい感じで、和恵さんが咳払いをして続けた。



「さっきのパート練のときにチラッと聞こえたんだけどね、『意識しないように意識する』ってみずきくん言ってたでしょ? 一瞬意味わかんない風に見せかけて実は真理だなー、って思って」


「あ、聞こえてた?」


「ちょうど吹いてないタイミングだったから、びみょーにね」


「なるほどね」



 ちょっと恥ずかしい。

 何とも表現の難しい言い回しだとは思っていたけれど、あの場の雰囲気だから言えたようなところがある。

 振り返ると、自分は何を言っているんだ、と感じてしまう。



「ミズキくん、そんなこと言ってたの? ……わかるけど」


「なーに語っちゃってんのよ。……ま、そう言いつつ、私もちょっとわかるけど」


「マジか」



 エリーと神流が、意外にも理解を示した。

 てっきりその口ぶりから莫迦にされるものかと思っていたら、この反応は予想していなかった。



「意識しないとダメな部分って、やっぱりあるけどさ。でも、そこにがーっと入り込んじゃうとダメ、ってことでしょ?」


「そうそう。あの場合は、入り込むっていうよりも、ちょっと怯え的なモノが混ざってる感じだけどね」


「怯え?」



 和恵さんが訊いてきた。



「なんていうかさ。ジェットコースターに乗って、最初の山をゆっくり登っていって、チェーンの動く音が聞こえなくなってその先の部分が見えなくなると、『あ、そろそろだ。落ちるぞ』ってなるじゃない? ああいう感じ」


「あー、納得」


「なに。ミズキ、アンタ、絶叫系苦手なの?」


「いや、特に」


「……チッ」



 待て、神流。

 何故お前はそこで舌打ちするんだ。

 もしも苦手だったら、お前は何をする気だったんだ。

 薄ら解ってしまっているけれど。



「俺も、それはよくわかるなー。なかなかイイ喩えじゃん?」


「お? もしや絶叫系苦手?」


「いや、()()……()()()()()、ないぞ?」



 噛んだ。

 明らかに、どうしようも無いレベルで噛んだ。


 これは、そういうことなのか。


 神流の表情を窺うと、――それはそれは見事な悪人面。

 何かを企んでいることを全面に押し出して、隠そうともしない。


 ご愁傷様、佐々岡くん。

 遊園地に連行されないように気を付けてね。



「それで、意識しないようになるくらいにまで身体に染み込ませるか、叩き込んじゃえば良いんじゃないか説が出てきたわけなんだけど」


「わりとスパルタっていうか、前時代的よね。それって」


「そうなんだよねー……。もっと穏便に済ませられるような方法があればね」



 エリーの言うことも解る。

 出来ればそこまで追い込むようなことは言いたくないし、させたくないが、やはり避けては通れないような気もするわけで。



「たたき込むっていうの、中学の時にやってみたことあるよ」


「へえ、和恵さんってば意外と体育会系」



 早希(さき)が目を丸くした。



「かなり早いパッセージのソロが割り当たってねー。すっごく真剣に、しばらくの間そこだけずーーっと吹いてたらさ……」



 と、そこまで言って黙り込み、急激にシリアスな顔を作る和恵さん。


 教室が静寂に包まれる。


 何だ。

 何があったんだ。


 ペットボトルのお茶をひとくち飲んで、彼女は続けた。



「いきなり、全然、指が動かなくなったの」


「いやああああああああああ!」


「うわ!?」「きゃあ!?」



 神流の絶叫。

 佐々岡くんと早希の驚声。



「……待て。心霊写真ご開帳のコーナーじゃないから、これ」



 どんなノリだよ。



「で。何が起きたの?」


「練習しすぎて、たぶん、何が正解なのかアタマで理解できなくなったみたいで」


「……え、それは、アレか。ゲシュタルト崩壊的な?」



 あれは、基本的には視覚的なモノで発現するタイプの現象だったはずだが。



「うーん、何かそれに近いかもね」



「それはあるわ、私も。途中までイイ流れだったのに、ほんの一瞬だけ崩れちゃって、もう立て直し効かないのとか」


「あるある! それ、ある!」



 神流が賛同し、さらにエリーが乗っかる。



「で、さ。『どうにもならないわこれ』ってなって、『ちょっと休み欲しいな』って思うんだけど」


「『休んだら、絶対下手になるよね』って思っちゃう!」


「それー!!」


「うわ、俺もめっちゃわかるわそれ」


「わかりみが深すぎる」


「……ここまで意見が一致するのも珍しいね」


「吹部の宿命でしょ、これはもはや」


「だねえ」



 と、ほぼ全会一致を見たところで。


 全員のため息も揃った。



「……何かさ」



 何となく停滞しかけた空気を破ったのは、佐々岡くんだった。



「気晴らしとかしたくないか?」


「待ってました、その言葉!!」



 その破かれた空気を、神流がさらに粉々に打ち砕いた。






ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


……んー。

リアル感、あるんだろうか。この話。



ということで、神流がまたなにか爆弾を投げ込もうとしているようです。

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