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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-4. 虹と雪のバラード

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1-4-1. 真冬の蜃気楼、というかただのホワイトアウト

 休日返上。冬休みなんて、あってないようなもの。


 真冬の午前中、ボクを含めて部員全員が定期演奏会に向けて、時間を惜しんで、眠気にも寒さにも負けず楽器に命を送り込む。


 ハーモニーが虹を架けた。



「ごめん、ストップ」


「すみません」


「だいじょぶ。もっかい64小節目から」



 しばらくして、パートリーダーから静かに待ったがかかる。

 原因となった部員は既に自覚済み。

 今し方ミスした部分の運指を確認していた。


 その様子を観察していると不意に視線が合った。

 その瞬間、殊更に申し訳ないような顔になるので、思わず苦笑いで応えてしまう。



「なんか、うまくいかなくて……」


「逆に、意識しすぎなんじゃないかなぁ」


「うん。私もそう思った」


「ですよね」


「え、どのあたり?」



 気付いていないらしい。余程集中しているのか。

 ――あるいは、のめり込みすぎなのか。



「どのあたりっていうか……、ポイントになる4小節くらい手前から肩肘張っちゃってる感じがするよ」


「そうそう。なんか、『来る……、来ちゃう……!』みたいな感じ」


「マジですか……」



 そういうのことは、だいたい言われて初めて気が付くか、もしかすると言われても全然解らないということもある。

『なくて七癖あって四十八癖』とは言われるけれど、本当にこういうときは言い得て妙だったりする。



「そういうときって……」


「意識しないことだね!」


「ええ……」



 威勢の良いパートリーダーのアドバイスとは正反対に、肩を落としつつげんなりした。

 いや、まぁ、そうなんだけど。それが最善策ではあるんだけど。



「難しいんだよねー。意識しないように意識する、ってさ」


「違うこと考えようとする、のも何か違うよね」


「それ、余計にミスりそうじゃないです?」


「たしかにー」


「……とりあえず楽譜を追いすぎないようにするところから始めてみよっか。意識しないで吹けるくらいになれば大丈夫!」



 ノイローゼにならないようにね――とは言わないあたり、それは優しさなのだろうか。

 何とも言えないところだった。


 こういうときに追い込みすぎは禁物。

 まずは楽しむこと。


 音楽に限らず、何でもそれが先決だと思うのだ。









「それにしても、吹雪、ヤバくないか?」



 最近は本当によく連むようになった佐々岡(ささおか)くんが、うんざりした声色で呟いた。


 一時休憩中の音楽室。

 佐々岡くんだけではなく、ここにいる部員の視線の9割くらいは窓の外に向けられていた。


 原因は、もはや磨りガラスのようになってしまった風景。

 ――いや、風景とは言えないかもしれない。

 光景、と言った方が正しいような気がしてくる。


 北国の冬の脅威、猛吹雪。


 一寸先は雪。

 雪しか見えない。

 雪しかない。


 ただ降ってくる雪だけが吹き付けてくる風に乗って向かってくるだけではない。

 さらりと積もった雪が、風に舞いあげられてもう一度降ってくるのも加わるのだ。

 とてもじゃないが、こんなものを正面から受けたら窒息しそうな感覚に陥る。


 今朝、登校していたときから風向きは西寄り。

 どうしようもないほどに向かい風。

 さらに風が強さを増しているようにしか見えない。


 今から地下鉄を使って登校してくる生徒は、相当な覚悟を持ってくる必要がある。

 ――正直言えば、余程のことが無ければ、諦めるべきなんじゃないかな、とは思う。



「ヤバい以外の表現が思いつかねーわ」


「真っ白すぎて何が何だか」


「開けてみるか?」


「やめなさい」



 宇宙ステーションの壁に穴を開けてしまうレベルの暴挙だと思うぞ。



「朝の時点で、みんな来るときに雪だるまになってたからなー……」


「俺なんて、いっそスキー用のゴーグル持ってこようかと思ったくらいだ」


「あー……、あながちその発想は悪くない気がする」


「ほら。ときどき公園とかをスキーストックみたいなの持って散歩してるおじちゃんとか居るじゃん?」


「……それとは違わないか?」


「さすが拾うねー」


「何を」


「ボケを」


「やめれ」


「神流たちの気持ちが解ったわ。楽しい、これ」


「解るな。カンベンしてくれ」



 ボケを拾うと、疲労も溜まる。


 ――というか、ボケだったのか。今の。

 ガチの発言だと思っていた。

 申し訳ないとは思ったが、黙っておく。



 冬休みが終わればスキー学習もある。

 それなりに大きなスキー場がバスで1時間とかからないようなところにあるのは、かなり便利だと思う。


 そうか。スキーとかを探しておかないといけないのか。

 ――またひとつ、やることが増えてしまった。

 どのみちその時までには、必ずやっておかなくちゃいけないのは確かだ。

 ただ、不意にタスクが積み重なってしまったときは、うんざり感が2倍増しくらいになるような気がする。



「ひゃー、マジで真っ白だね」


「どーしよ。私、今日ウチに帰れるのかな……」



 神流(かんな)と、鈴木(すずき)雪絵(ゆきえ)先輩がふらりとやってきた。



「雪絵先輩って、電車組でしたっけ?」


「そーよー……。はぁ」



 佐々岡くんの問いにため息交じりに応えた。


 雪絵先輩は、通称・電車組。

 星宮(ほしのみや)中央(中央)駅までは地下鉄を使い、そこから地上を走る電車に乗り換えるパターンでの登校だ。



「そもそもな話、よく今日ここまで来られましたね」


「ギリッギリ、動いてたからねー。朝は」


「ギリギリですか」


「そう。ギリギリ。1年半ちょっと乗ってたら、何となく解ってくるよ? 『あー、今日は止まるなー』とか、『今日はなんとかイケるなー』とか」


「長年の勘、みたいな?」と神流。


「そーそー。……って、そんなに電車通学歴長くないわよっ」



 長老扱いのようなものをされて、ちょっとだけご立腹な雪絵先輩だった。



「……このままだと、電車動いてるかどうか、っていう問題じゃなさそうですけどね」


月雁(つきかり)駅に着く前に遭難しかねんわ」


「たしかに」


「……はぁ」「……はぁ」「……はぁ」「……はぁ」



 4人のため息が重なってしまった。



「それはそうと、電車動いてるかどうかって、ウェブで調べられるんじゃないですか?」



 地下鉄だと、市のホームページから運行状況は調べられる。

 大手の検索サイトでも網羅されている。

 電車の方は使う機会がほとんど無いのでどういうサイトになっているかは解らないが、最近なら大抵調べられるはずだが。



「……なんか怖いから、ヤだ」



 駄々をこね始めた。そっぽまで向く始末。小学生並みのリアクション。



「怖い、って。何でですか」


「訊かないの」


「雪絵先輩……。もしかして、熱っぽくても体温計で熱測らないタイプですか?」


「ぅえっ!?」



 おお。新鮮な反応。

 思いっきりのけぞった。


 測らないというか、測れないと言った方が正しいかもしれないが。



「な。……なぜ、それを」



 お、ビンゴ?



「え、どういう推理?」


「……なんとなく、事実を突きつけられると萎えちゃいそうなタイプかなー、と。熱測ったらそのあとで余計に熱上がったとかいうこと、ないです?」


「ぐうの音も出ない……。マジでそれ、昔あったし……」


「うわぁ……」


「待って、神流。それ、どっちにヒいたんだ?」


「そりゃもう、ミズキにでしょ」


「何でだ」


「事前に知ってたレベルで詳しいと、結構ヒく」


「誤解だ、それは誤解だ」



 思い切り当て推量で言ったことをそんな風に捉えられると辛い。



「後輩の、しかも男の子に言われるのって、めちゃめちゃ悔しすぎるんですけど」


「あ。その辺は大丈夫ですよ、センパイ」


「え?」



 神流が何故か、ボクを見ながら半笑いで言う。

 ――嫌な予感しかしない。



「ミズキ、女子力高い系男子なんで」


「ちょっ!?」



 案の定!



「そうなの?」


「そうですそうです。そんじょそこらの意識低い娘なんか、軽く蹴散らしますよコイツは」


「変なイロを付けるな」


「私も保証しますよー」



 唐突にやってきた和恵(かずえ)さんが、要らん援護射撃をしてきた。



「……じゃあ、納得してあげよう」



 してあげないでください。訳がわかりません。



「さすが、乙女心マスター様だ」


「待て待て」



 話を拗らせるようなことを言わないでくれないか。



「こうしてミズキくんは、またしても素敵な二つ名を拝命しましたとさ」


「めでたしめでたしー」


「どこがだ、どこが」



 ――こんなんで、夕方まで乗り切れるのだろうか。

 早くも心配事が尽きなかった。






ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


……実は今まで、吹奏楽部の活動風景を出していなかったという事実。

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