1-3-XXV. 幸せの基準
どもです、御子柴です。
今回の更新で第1章第3部完結です。
たしかに、今年からは高校生。
誕生日と大晦日、年の瀬をいっしょに迎えてしまう以上、両方を大々的に行うのは難しくなってきている。
事実、自分のバースデーケーキの受け取りとおせち料理の材料を買うために外へ出る羽目になっていた。
両親は別のところ、ここからは少し距離のあるところに車を使って行っているので、私は残念ながら歩きだった。
買うものの割り当てが少ないのは、せめてもの優しさだったのだろうけれど。
いつも使っている最寄りのスーパーは、年末らしく人で溢れている。
レジはフル稼働しているにもかかわらず、列は長い。
慌てて買い物をしてもここで並ぶことになってしまうのなら、とゆっくり歩いて回ることにした。師走だからって走り回る必要なんてない。
「あれ?」
「え?」
何か聞き覚えのあるような声が聞こえた気がして、そちらの方を振り向いた。
「あ、やっぱり! 聖歌じゃーん! 久しぶりー!!」
「えー、美来ちゃん!? ほんとだ、めっちゃ久しぶりだねえ」
小学校・中学校の同級生の姿があった。
長谷川美来ちゃん。
中学校3年間は、最後までずっと同じクラスだった子。
今は別の高校に通っていてなかなか会う機会が無かったけれど、まさかこんなタイミングで再会できるなんて思っていなかった。
「元気してたー?」
「うん、おかげさまでー」
「おかげさまで、って。そんなオバチャンみたいな言い方……!」
「えー、そんなにヘン?」
「ヘンじゃないけどさー」
けらけらと笑う美来ちゃん。
相変わらずだった。
何となくこの子の側に居ると、元気をもらえる気がしていたが、それはやっぱり気のせいでは無かったみたいだ。
「……そういえば聖歌、今日誕生日だったよね」
「あ、覚えててくれたの?」
「あったりまえでしょー! ……そうだ。このあとって時間ある? まだ買い物の途中?」
「まだ途中だけど」
「おっけー! じゃあ、私もついていくー」
そう言って彼女は持っていた買い物カゴを肩にかけ直した。
それぞれの買い物を済ませ、美来ちゃんに誘われるまま上の階に行く。
そのままついていった先はカフェ併結の雑貨店。
ちらりと私の方を見ると一瞬で何かを選んでお買い上げ。
そのまま私の手を引いてカフェスペースへ。
席に着くやいなや、さきほど買ったモノを手渡される。
あまりにも流れるような動作にまったくついて行けない。
こんなことしょっちゅうあったなぁ、なんてまた中学校のころを思い出してしまう。
「はい、誕プレー」
「え、いいの?」
「はいはい、遠慮しないのー。ありがたく受け取っときなさいってば」
「……ありがとー」
「ご注文はー?」と、店員さん。
「私、ピーチティーでお願いします。聖歌は?」
「あ、じゃあ、ミルクティーで」
「かしこまりましたー」
「……ということで、改めてお誕生日おめでと」
「うん、ありがとっ」
何だか照れくさいけど、すごく嬉しい。
そういえば、こうして誕生日当日に友達に祝ってもらうのも久しぶりだった気がした。
「私もねー、ホントは誕生日その日にお祝いしたかったのよ、ずっと」
「それは……仕方ないよ。どこのウチも忙しいもん。大晦日は」
「たしかにそうなんだけどさー。こう……何て言うの? 心苦しいところがあった、ってワケよ。これ、けっこうみんな昔から言ってたからね。誕生会やりづらい! って」
「それは……ちょっとゴメンね」
「あはは! ちょっとでも謝るとこじゃないっしょー」
――ちょっとはこの誕生日を恨みそうになったことがあったのも、事実なワケで。
それにしても、相変わらずの明るい笑い方。
これだ。
この笑い声で元気になるのだ。
「家族ではやるんでしょ?」
「うん、一応ね。……このあと、自分でケーキ受け取りに行かなきゃいけないんだけど」
「マジで?」
「うん」
「なにそれおもろい」
「……そんなおもろくないからね?」
「ごめんごめん」
話に微妙な区切りがついたタイミングで店員さんが紅茶を持ってきてくれた。
ふたりそろって、ひとくち。
「あー、おいし」
「ねー」
「……ね。あのさ、聖歌。訊きたかったことあったんだけどさ」
「どしたの? なんか畏まっちゃって」
美来は、うん、という小さな声を、もう一度ピーチティーで湿らせた。
「今って、聖歌って、フリー?」
――ああ、そういうことか。
「……ううん、違うよ」
「あ、そうなの?」少し声色に明るさが加わった。「もしかしてさ、それって、……瑞希くんだったりする?」
――ああ。そう言うんじゃないかな、と思ってたよ。
DMとかメールとかでもそういう話はお互いにしなかったし、仕方ない。
静かに、ゆっくりと、首を横に振る。
予想通りというか、何というか。
美来の眉間に皺が寄った。
明らかに何かを言いたいような顔だったけれど、その勢いのようなものは私の顔を見たところで萎んでいった。
「……ごめんね」
「ううん、……あたしの方こそ」
はじめての相手が出来たことも、ほどなくして終わりを迎えたことも、美来は知っている。
浅からぬ縁がある男の子がいたことも、勿論知っている。
その彼と疎遠になってしまったことも、その彼と同じ高校に通えていることまで、当然のように知っていた。
彼女が知らないのは、その後の半年ちょっとの話だけだった。
「圧しに弱いのは相変わらず、か……」
「そんなに急には変われないよ」
「そう? 私の最初の聖歌に対するイメージって、そんな感じじゃないんだけどな」
「そんなことないよ。美来ちゃんには敵わないし」
第一、そのイメージはきっと――。
「……え、何。聖歌、アンタ私にそういうイメージ持ってたの?」
「元気で、明るくて、ぐいぐいー! ってくるイメージ、かな」
「あー、うん。まぁ、それならいいや。合格」
「やったー」
「棒読みやめて」
気分が下がりかけても、こうして引き上げてくれる優しいところも、相変わらずだった。
「でもね。実はまた最近、ちょっとずつ話す機会できてきたんだよ」
「ウソ、マジで?」
小さく肯く。
そう――。
彼には、絶対に多くを望んではいけない。
また話せるだけで充分幸せ。
本当は、そんな資格も無いのに。
「まぁ、でもカレシはしっかり見ててあげなよ。たぶん、大事にしてくれてんでしょ」
「うん。イヴの日のデートはほとんど彼持ちにしてもらっちゃって、何だか申し訳なくなっちゃって」
「え。なにそのブルジョワ的な」
「そういうんじゃなくて……。好みとか全然わかんないから、全部指示してくれ、って言われて」
「あー、そのパターン……。男磨きが全然足りないわね。優しいのは認めるけど」
もう一度、小さく肯いた。
スーパーでの買い物を終えた帰り道にケーキ屋さんはある。
私が生まれる少し前からあるというこのお店は、今ではすっかり人気店。
つい先日テレビの取材も入ったほどで、さらに人気に拍車がかかっている。
今年は、小さなホールのイチゴショートらしい。
『らしい』というのは、基本的にケーキのチョイスは、毎年母がその時の気分で決めているから。
クリスマスは私が選ぶので、その代わりということらしい。
――たぶん、自分が食べたいものを選んでいるのだろうけど。
慎重に箱を持ちながら、何とか家に到着する。
真冬の誕生日は足下が悪すぎていつも神経が余計にすり減ってしまう。
安全のため、いったん脇にケーキの箱を置いて鍵を開ける。
少し冷気が入ってしまうけど、一旦ドアを全開にして固定。
ケーキを持って無事帰還。
ほっと一息つく。
――と。
何か、小さなモノが玄関に落ちていた。
新聞受けから入れられたのだろう。
だいたい新聞受けを通るサイズだし、そこから入れられて落ちたのだろう場所にあった。
恐らくそうなのだろう。
とくに差出人の名前が書いてあるわけでも無かった。
これだけだとただの不審物にしか思えないかも知れないが、私には何故かそうは思えなかった。
そっと、ゆっくりと。
手に取ってみる。
シンプルな紙の包装。
でも中には何か緩衝材のような、いわゆるプチプチのようなものが入っている感触。
壊れやすいモノでも入っているのだろうか。
裏側を見てみる――。
「……!」
思わず、息を呑んでしまう。
見覚えのある筆跡で、『Happy Birthday』と書かれていた。
靴をばらまくように脱ぎ捨て、階段をかけあがって、一気に自分の部屋へと飛び込む。
これはもう、不審物であるはずがない。
ここしばらくの間、本当によく見た筆跡だから。
途中、包装紙が破けそうになりつつも、何とかキレイに開封できた。
「わ、かわいい……」
中に入っていたのは、ピンクゴールドの、シンプルなデザインのノンホールピアス。
小さなスワロフスキーっぽい星形のガラスがあしらわれている。
自己主張のあまりない、すごく好みのデザインだった。
気付けば、手紙のようなモノも入っていた。
ぱっと見ではメモ用紙か何かかな、とも思ったけれど、よく見ればちょっとイイ感じの紙で――。
『誕生日おめでとう。
最近はしょっちゅうウチの部のうるさいヤツらに巻き込んじゃってゴメン。
ちょっとしたお詫びのしるしと、感謝のしるしと、お祝いのしるしってことで
みずき』
こんなに自分の誕生日が嬉しかったのは、久しぶりな気がした。
嬉しすぎて、どうしようもなくなった。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
……どっちも優柔不断というか、なんというか。
結局のところ、「昔」の居心地がよかったがために、って話なんですよねえ……。
あーあ。
何はともあれ、前書きにもありましたが、これにて第1章第3部も完結となります!
次回更新は年が変わった第4部。1月から2月までのお話になります。
それも終われば第1章の完結。長かったような、短ったような……ことはなかったわw
ということで、これからもよろしくお願いします。





